第二十話
ーーローズsideーー
ん、朝…か?
確かまだ昼過ぎのはず、昼寝のつもりが翌朝まで寝てしまったのだろうか。
ソフィア達の食事は大丈夫だったのか?
…何故かソフィアとネルが私に抱き付いている。
しかも何故泣いているんだ?
「その目、完全に目が覚めたようだな」
「…ヴァイト?それにリリまで」
何故この二人がここにいる?
先程から疑問しか出てこない。
またベティの言っていた「さぷらいずぷれぜんと」で会いに来てくれたのだろうか。
「ローズさん、体調はどう?」
「ん?至って正常だ。昨日より軽いくらいだぞ」
「そっか、良かった」
リリがホッとした様子だが、私は体調でも悪かったのだろうか?
全く記憶に無いのだが…
「ローズさんが元気になって安心したら、眠気が…」
「寝ていないのか?なら私のベッドでそのまま寝ると良い」
「ありがとう。ちょっと、横になるね」
リリが横になり、すぐに眠ってしまった。
どうやら私が寝ている間に随分心配を掛けたようだ。
いったい何をしてしまったんだ私は…
「俺も一気に来たな…ちょっと仮眠してくる。起きるまでここから出るなよ?」
「うむ、何やら迷惑をかけたようですまない」
「謝んな。皆ローズの力になりたいから動いたんだからな。とにかく、まだゆっくり休め」
「承知した」
さて、リリもヴァイトも寝てしまったし、泣き続けてる二人とも話をせねばな。
「お前達、どうしたんだ?何があった」
「…ご、ご主人様…申し訳…ありませんでした」
「…申し訳…ありません」
ううむ、謝られる心当たりなど無いのだが。
ヴァイトやリリに何かしてしまったのか?
私を化け物と言ってヴァイト達に怒られてしまったとか?
うむ、可能性はあるな。
しかしそれでは謝るべきはヴァイトとリリな気もするが…
駄目だ、分からん。
「私達は…ご主人様に、なんて…酷い事を」
酷い事?
それも特に何かされた記憶が無いが。
もしや、寝ている間に私に攻撃しようとした所を、『さぷらいず』で来たヴァイト達に見られてしまったとか。
それならヴァイト達も私が起きるまで見張ってる必要がありそうだし、寝不足なのも頷ける。
今はまだ私の使用人だから下手に手を出すわけにもいかず、今まで膠着状態だった。
そしてその間にヴァイト達に長く説教を受け改心したか、取り敢えずは反省したかで今に至る。
…これだな。
どうだ、私の推測は完璧ではないか?
「安心しろ。そんな事で私は死なんし、咎めるつもりも無い」
二人のステータスでは私に致命傷を負わせる事は出来ないだろう。
仮に攻撃が通っても死ぬまでに確実に目が覚めて【カオスヒール】で回復している。
結果は何も変わらなかっただろう。
「で、ですが…それでは私は、私を許せません!」
むぅ、結果的に何も無かったならそれで良いと思うのだが。
変なところでソフィアは真面目だな。
だがネルならばいつも私に否定的であったし、ソフィアを許すよう促せば加勢してくれよう。
「ネルもその程度何ともないと思わんか?」
「…っ…い、いえ…むしろ私こそ、罰を受けるべきだと思います」
何故だ⁉︎
あれ程まで否定的だったお前は何処にいった!
むぅ、私ばかりが何も知らないまま状況が変わり過ぎている。
いや、別に私とてずっと怯えられたり化け物と言われ続けるよりは、友好的な方が嬉しいのは当然なのだが。
近い内に来る別れを思うと、適度な距離を保たねば双方に深い傷が残りそうで不安なのだ。
リリ達との別れだって、どれ程胸が締め付けられる思いだったか。
何が切っ掛けで私に近付けるようになったかは知らんが、別れの時までは適度な関係を維持すべきだろう。
「私はお前達を罰する気など無い。甘いのかもしれんが、自分で反省しているのならそれで十分だ」
「ご、ご主人様…」
「…しかし、それでは…」
「もう良い。お前達も見たところ寝不足のようだし、今はゆっくり休め」
渋々といった感じでベッドに戻り、数分後には寝息が聞こえてきた。
皆この一件で気を張っていたのだろう。
さて、見たところ誰も食事の用意は出来ていないようだったな。
ソフィア達も私が買わねば無いだろう。
ヴァイトにはああ言われたが、起きた時に屋台が売り切れていたら気の毒だ。
私が少し出て調達してこよう。
宿の一階まで下りると、主人である女性が私を見つけて駆け寄ってきた。
この様子では騒ぎを聞きつけ内容を知ってしまっているのだろう。
それとなくソフィア達の事を庇っておくか。
「あ、アンタ!大丈夫だったかい⁉︎」
「うむ、心配を掛けたようだが大丈夫だ。あの二人も寝ずに色々と考えていたようだからな」
「そりゃそうだよ!自分達のご主人なんだから当然さね!」
よし、何とか庇えただろう。
同意をしてくれたということは成功と言って良いな。
通りに出て屋台を見て回る。
確かあの二人が好んでいたのはパンに野菜と肉を挟んだものだったな。
野菜とお肉が美味しいとも言っていたか。
ならばあまり手を加えず、なるべく素材をそのまま使った料理を売っている店も探すとしよう。
二人の好物をヴァイト達の分も合わせて四つ買い、条件に合いそうな屋台を探して歩く。
あれは肉が液体塗れで駄目だ。
こっちは野菜がふにゃふにゃだ、論外だな。
む?これは良さそうだ。
透き通るような薄さの肉がそのまま売られている。
『なまはむ』と言うのか。これは良さそうだ。
その横では葉っぱがそのまま皿に盛られているが…
こっちは『れたす』という野菜か、これも買っていこう。
あとはパンが有ればいいのだが…これは屋台ではなくちゃんとした店に行けば良いのだな。
パンを売っている店を見つけ中に入る。
ほう、色々と種類があるのだな。
四角いものや長細いもの、どれにすれば良いのだ?
「いらっしゃいませ、なにかお探しですか?」
「うむ。『なまはむ』と『れたす』を挟みたいのだが、良いパンはあるか?」
「それでしたら、こちらのコッペパンが挟みやすくてオススメですよ」
「そうか、『こっぺぱん』か。ではそれを四つ頼む」
「はい、ありがとうございます!」
しかし改めて見ると、似たようなものが二つになってしまったな。
ソフィア達が好きなのは三角のパンに挟まれた肉と野菜。
私が買った組み合わせは楕円のパンに肉と野菜。
むう、あまり違わないか。
「すまない、この二つをパンに挟みたいのだが、何か良い工夫はあるだろうか」
「それでしたら卵ソースを別料金で付けることも可能ですが」
「卵ソースとは?」
「卵に油と酢を混ぜてソース状にしたものです。結構人気ですよ!」
「ではそれを。ここで挟んでもらうことは可能か?」
「大丈夫です!サービスさせて頂きますね!」
「すまない、宜しく頼む」
上に切り込みを入れたパンに『れたす』と『なまはむ』が挟まれ、その上から白い、いや、やや黄色い?ソースがかけられた。
「お待たせしました!お会計銅貨1枚になります」
「うむ、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
ふふ、良い土産が出来たな。
早速宿に戻るとしよう。
部屋に戻っても、まだ全員起きていなかった。
余程疲れてしまったようだな。
結局全員起きて集まったのは2時間程経ってからだった。
その間私は【粘着糸】と【操糸】スキルで色々な形を再現して遊んでいたが、中々良い暇潰しを見つけたぞ。
「おはよう皆、腹が減っているだろう?これを食べるといい」
ソフィア達の好物パン四つと、私が買い集めて作った『こっぺぱん』挟みを並べる。
私は食べないのだから近くのベッドに座っていよう。
「…ローズ、お前外に出たな?」
「…いや…出てない」
な、何故だ⁉︎私には収納リングだってあるのだからバレるはずがなかったのに!
「ローズさん、正直に言わないともう一緒に寝てあげません」
「……すまん」
「お前は…頼むからこれ以上心配させるな」
「…うむ」
「(ご主人様が怒られてしょぼんとしています。結構レアなのでは⁉︎)」
「でも飯を買って来てくれたのは嬉しいよ、ありがとうな」
「うむ、私が作った『こっぺぱん』挟みもあるぞ!」
「(嬉しくて一気にテンション上がるローズさん、可愛い)」
皆が三角挟みとこっぺぱん挟みを美味しそうに食べてくれている。
買ってきた身としてはこれ程嬉しい事はない。
だが、せっかく美味しそうなものを作ったのに、それを味わえないのはやはり寂しいものだな…
「(ご主人様、やはり寂しそうです)あの、ご主人様は以前『味が分からない』と仰っていましたが、どういう事なのですか?」
「私は食べ物が口の中で消えてしまうのだ。一応捕食反応はあるんだが、味は分からなくてな」
「…あ、あの…味が分かるかもしれないと言ったら、如何なさいますか?」
「なに?私が味わう方法があるのか?」
「ご主人様が直接食べられるわけでは無いのですが…私の【共感】スキルを使えば、ご主人様でも味だけは分かるかと」
共感スキルか、直接私が食べられないのは少し残念ではあるが、皆と同じものを共有出来るのは嬉しいぞ。
「そ、それで…【共感】する条件が接触なのですが…」
「む?私が触れていれば良いのか?だが、触られながらは食べ難くないか?」
「ご主人様の為ならば、問題ありません!」
むぅ、ソフィアに我慢させてまで味わいたいかと言われると悩むのだが。
私が肩や背中に触れたままでは余計に食べ難いだろうし…
「ふむ…では、私の上に座るか?それならばあまり行動を阻害せず食べられると思うのだが」
「わ、私が、ご主人様の上に⁉︎そんな畏れ多い事が許されるのですか⁉︎」
「ん?私は別に構わないが?」
ソフィアが緊張した様子で私の所へやってきて、ベッドに座った私の太腿の上にゆっくり座った。
「で、ではいきます。【共感】」
む、下半身に柔らかい感触。私の太腿に乗っているのはこういう感覚なのか。
なるほど、これが【共感】スキル。
なかなか面白いな。
「ご主人様、重くないですか?」
「いや、全く。暫くちゃんと食べていなかったのだから、もっと食べた方が良いぞ?遠慮なく食べたい時は言うと良い」
「は、はい。ありがとうございます。では早速ですが、食べますね」
「うむ、頼む」
ソフィアがこっぺぱん挟みを手に持ち、口に入れる。
む、や、柔らかい!だがその後にシャキシャキという音と食感が広がる!
そして『なまはむ』の塩加減と卵ソースの濃厚な味わいが後から広がり、最高の調和を実現させている!
「…これが、『美味しい』ということなのか」
「ご主人様、ご堪能頂けましたでしょうか」
「あぁ。これは、堪らないな…ソフィアが嫌で無ければ、また頼みたい程だ」
「ご主人様がお望みであれば、いつでも!」
ソフィアが椅子に戻ったあと、ふと視線を感じた方を見ると、リリが拗ねたように私を見ていた。
どうしたのだろうか。
新感覚の【共感】スキルを私だけ堪能したのが気に入らなかったのか?
「(ローズさんの膝の上、私だって座ったことないのに)」
リリが急いで二つのパンを食べ切り、私の胸に飛び込んでくる。
急な事で構えてなかった私は、リリと二人でベッドに倒れ込んだ。
「リリ?どうしたのだ急に」
「だって…今日にでも帰らないといけないから、ローズさんと触れ合えるのもあと少しだもん」
「ふふ、嬉しい事を言ってくれる」
リリが私に抱き付きながらスリスリと頬擦りしてくるが、今日はいつにも増して接触が多いな。
やはり街を出て数日とは言え、寂しい思いをさせてしまっているのだろうか。
リリを抱き締め返しながらふと視線を上げると、今度はソフィアが拗ねた目で私を見ていた。
今日は皆どうしたのだ?
やけに情緒不安定だな。
昨日の一件で落ち着かないのだろうか。
まぁ私を攻撃しようとした人間と目撃した人間が同じ空間にいれば、落ち着かないのも仕方ないのかもしれないな。
今はソフィア達も反省したようだし、リリ達が帰っても大丈夫だろう。
ソフィア達の様子から、順調に体力も回復しているようだし、あと数日程でお別れならばリリ達に心配を掛ける事ももうあるまい。




