ローズの非常事態②
ーーソフィアsideーー
僅か30分程で素材が集まり、薬師の方が最優先で薬を調合して下さいました。
「ではヴァイト君、あとは頼んだよ」
「任せてくれ、ローズは必ず助ける」
ヴァイトさんを先頭に魔の森まで来ましたが、何かを探すように見渡しています。
「シャドウ!いないのか⁉︎」
この森に知り合いでもいるのでしょうか。
しかし返事は無く森は静かなまま。
「本体のローズが万全じゃ無くなったから、【分裂】が途切れたのか。シャドウがいればローズの所まで一瞬だったんだが」
どうやら昨日見せた【分裂】の一体を、常時この森に配置していたようです。
この森の魔物が減少しているのもそれが原因でしょうか。
「仕方ない、元々の予定通り走るぞ。リリちゃん、俺の背中に」
「え⁉︎で、でも私重いですよ…」
「心配すんな。ローズ程強くは無くても、俺だって鍛えてるからな」
リリさんを背負ったヴァイトさんが、それでも全くスピードを落とすことなく走り続けます。
私は夜の洞窟では視界が悪い為【ライト】のスキルで辺りを照らす役割を。
しかし行きの洞窟では居なかったはずのポイズンセンチピードが、中間の広間で待ち構えていました。
リリさんを背負ったままのヴァイトさんでは荷が重いでしょう。
ここは騎士団とネルを中心に対処しなくては。
「邪魔なんだよ…ローズが待ってんだ!そこをどけぇぇ!」
ヴァイトさんが剣身まで真っ黒な剣を抜き、いつの間にかポイズンセンチピードの後ろにいました。
ポイズンセンチピードは頭から縦に真っ二つになり絶命しています。
これは、【神速】と【一刀両断】⁉︎
【ステータス看破】をする余裕が無かったですが、Aランク上位レベルの実力者なのでは…⁉︎
「ごめんリリちゃん、大丈夫だった?」
「は、はい…何とか」
その後は問題無く洞窟を抜け、再び王都へ戻ってきました。
時刻は恐らく夜の9時頃。
何とか間に合いましたね…
騎士団の方々にお礼を言い、宿へと急ぎます。
私達が宿へ入ると、宿の主人である女性が不安そうな顔で駆け付けてきました。
「あ、あの子が!あの子が突然消えちまった!」
そんな、まさか…
あんな高熱で何処に行けるというのですか!
ヴァイトさんとリリさんに続き部屋へと駆け込みますが、ご主人様が寝ていたはずのベッドには誰も居ませんでした。
「そ、そんな…ご主人様はどこに」
「ヴァイトさん、ベッドの横に不自然な影が…」
リリさんの言葉通り、ご主人様のベッドの横には何も無いにも関わらず、丸い円状の影が存在していました。
「…もしかして、ローズなのか?」
『……ヴァ…イト』
「やっぱりローズなのか!どうしたんだお前⁉︎人の形が保てなくなったのか⁉︎」
『……あ…つい…』
「待ってろ、今薬を!…でも、どうやって飲ませりゃ良いんだ」
『…わた…しの上に…』
ヴァイトさんが薬の入った袋ごと影の上に置くと、ゆっくりと袋が沈んでいき飲み込まれました。
「ヴァイトさん、この影がローズさんなんですか?」
「あぁ、多分な…前に自分のこと『影』とか言ってたから、これがローズの本体なんだろう」
「…そうなんだ…ローズさん、本当はそんな姿してたんだね」
リリさんが優しく影を撫でると、影から細い棒のような影が一本小さく伸びて、リリさんの手に触れました。
「ふふ、ローズさんかわいい」
「あ、貴方達は…怖くはないのですか?」
お二人が私を振り返ります。
特にヴァイトさんの視線が鋭くて少し怖いです。
「ご、ご主人様は人間ではないのですよね…そこに、恐怖は全くないのですか?」
リリさんが私を真っ直ぐ見つめて、優しく微笑んでくれました。
「私、前に薬の材料を探しに魔の森に一人で入ったんですけど、フォレストウルフ3体に囲まれて正直死を覚悟しました。そんな時、ハウンドウルフが何故か助けてくれて不思議だったんです。でも、後々それがローズさんだって分かったんです」
は、ハウンドウルフ…
ご主人様は、影ではなく魔物の姿だったのですか?
「ローズさんは私に正体を明かす時、凄く怯えてました。怖がられるんじゃないかって…その時思ったんです。この人は、人間が大好きなんだ。だからどんな姿でも、私を助けてくれたんだって」
…確かに、ご主人様の他の人を見る目は優しく微笑ましいものでした。
元が人間でないからこそ、人間を羨望していた?
「俺は【敵性看破】のスキルがあるから、最初からローズに危険がない事は分かっていたからな。それに、職業柄悪人を何人も始末してきた…魔物だって良い種族はいるし、人間だって悪い奴はいる」
し、始末…処刑人などでしょうか。
確かに魔物の中には人間に友好的な種もいて、ペットなどに人気の魔物もいますが。
「ローズをご主人様と呼ぶってことは、人身売買の類で売られていたんじゃないのか?」
「…っ…そ、そうです」
「じゃあ分かってるはずだ。そんな目に合わせたのは誰だ。同じ人間じゃ無いのか」
「っ⁉︎」
その通りでした…
私達を売ったのも、商品だからと人間扱いせず苦しめたのも、全て同じ人間だったじゃないですか。
それに比べて、ご主人様は私達に人間らしい生活を与えて下さった。
どちらが善でどちらが悪かなど、考えずとも分かったはずなのに。
「そういうわけだ。俺達はローズの種族とか関係なく、ローズという人柄が好きなんだよ」
「…色々と失礼な事を、申し訳ありませんでした」
「それは俺達じゃなくて、ローズに言ってやってくれ」
再びご主人様の方へ向いたお二人。
微笑みながら影を撫でるリリさんと、ジッと観察するヴァイトさん。
おそらくご主人様の容態が落ち着くまで、見守るつもりなのでしょう。
私は何だかここにいてはいけない気がして、ネルを連れて外へと出てしまいました。
ご主人様に買って頂いたサンドイッチを食べていた、昨日と同じベンチに座ります。
「…お嬢様」
「私達は、間違っていたのかもしれません。ご主人様のステータスばかりに怯え、ご主人様自身の内面を全く理解しようとしていませんでした」
「…どうなさるのですか」
「……恩を、返しましょう。ご主人様にしていただいた恩を返し、先の事はその時にまた考えます」
「お嬢様の仰せのままに」
「ネル、これからはお嬢様はやめましょう。私達は今、同じ人を主人に持つ同じ立場の仲間です」
「…では、せめてソフィア様と」
「ご主人様が怒らなければそれで良いでしょう」
ネルと少し落ち着くまで外で時間を過ごし、宿へと戻ります。
ご主人様が影の姿から、見慣れた美しい女性の姿に戻ってベッドに寝ていました。
ですが、まだ不完全なのかその姿は薄っすらと透けています。
「少し気になったのですが、ご主人様のそのお姿はご自身のものなのですか?」
「俺もローズに聞いただけだが、谷底の人骨を捕食してから人間を捕食したら、この姿になったみたいだな。ああ勘違いするなよ?その人間は俺が始末しようとしていた悪人だからな」
「そ、そうですか…では、ご主人様自身もそのお姿の訳はご存知無いのですね」
「そうみたいだな。だからこそ、こうして旅をして自分の事を知りたいと言っていた」
ですから、自分の事を知る手掛かりになりそうな私を買って下さったと。
谷底とは恐らく魔の森の近くにあったあの渓谷でしょう。
確かに王国や帝国の大きな街へ行けば、そこで亡くなった方について何か資料がありそうですね。
「この状態まで回復すれば、朝には完治してるだろう。リリちゃんは、このままローズの傍にいるか?」
「うん、また何か異変があったら大変だから、ローズさんと寝る」
「分かった。俺は二人分の宿代を払って別の部屋を取るよ。何かあったら教えてくれ」
「ありがとうヴァイトさん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ヴァイトさんが部屋を出て行き、リリさんがご主人様のベッドに潜ろうとしています。
私達もそれぞれのベッドへ入り、部屋の灯りを消して寝る準備を…
「あの…おやすみなさい、リリさん」
「……おやすみなさい…」
「あ、はい。おやすみなさい」
明日、ご主人様にちゃんと謝りましょう。
ですからご主人様、どうか元気になって下さい。




