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気が付いたら???になっていた〜全てを飲み込む影〜  作者: 小鳥遊 蓮
第二章『ネクノロギア王国』
17/33

ネル

 

 ーーネルsideーー


 お嬢様と共に化け物に買われた夜。

 私は化け物と風呂に入る支度をしていた。


 クソ、本来ならばお嬢様がお一人で入られるべき湯船をこんな化け物と先に入らねばならないなんて!


 脱衣所で服を脱いでいく化け物に目をやると、ちょうどワンピースを脱いだところだった。


 で、でかい…

 それになんて綺麗な肌だ…

 毎日手入れされていた頃のお嬢様すら超すその美しさに、一瞬警戒を忘れ見惚れてしまった。


 何たる不覚!

 食べ物だけでなく容姿でも油断させるとは!


 化け物に続いて浴室に入り、化け物の後ろで待機する。

 今からこの化け物の体を洗わなくてはならないのか。

 私が尽くす相手はお嬢様のみだというのに!


「何をしている?早く座れ」


 …な、何を言っているんだこの化け物は。

 普通は形式上主人である貴様が先に洗われるべきだろう。


「彼女程では無くともお前の髪も痛んでいるように見える。早く洗いたいだろう」


 確かに猫獣人である私は、人間であるお嬢様よりは毛並みがまだマシな状態ではあるが、髪は痛み体も汚れている。

 しかしそれでは先に入れと言ったお嬢様様の好意を踏みにじる事と同意!


「…いい…です…ご、ご主人、様が…先で」


 こんな化け物をご主人様呼ばわりするなど、何たる屈辱!

 しかしお嬢様が耐えられている以上、私がそれを裏切るわけにはいかない。


「むぅ、そうか。では頼む」


 化け物が椅子に座りシャワーを渡してくる。

 本当はこれでもかと雑に洗ってやってしまいたいところだが、お嬢様に仕えていたプライドにかけて雑な仕事は私が許せない。


 化け物の髪に優しくお湯をかけ、手櫛でゆっくりと馴染ませていく。

 な、なんだこの流れるような手触りは。

 上質な絹を洗っているようだ。


「おぉ…なんとも気持ちの良い」


 ほざけ!この技術はお嬢様の為だけのものだ!

 いかん。化け物の体に気を取られるな!

 これこそが人間離れしている証拠と思え!


 シャンプーを手に取り優しく泡立たながら洗っていく。

 少しだけ見えた化け物の顔が、泡を怖がるように目を閉じていた。

 か、かわ…違う!

 そうか!これこそが化け物の弱点!

 ふふふ、私に弱点を晒したのは間違いだったな!


 お嬢様様へ報告すべき結果を得られた事に喜びながら洗い流す。

 しっとりと濡れた髪が光を反射して、何とも言えぬ美しさを…

 ええい!私はさっきから何をやっている!


 化け物を立たせて体を手で擦って洗う。

 滑らかな肌と、大きさ・張り・形とどれをとっても完璧な胸に嫉妬を覚えた。

 そして背中を洗いながらふと思ってしまった。


 今なら…

 この無防備な背中に、今ならば攻撃出来る。

 不意打ちで怯んだ所でお嬢様と逃げれば…!



「やめておけ。【気配察知】が反応したから恐らく攻撃しようとしているのだろうが、私にお前達をどうこうする意思はない。本当なら【ステータス看破】の事を聞いて開放するつもりだったが、その後の事を考えると暫く面倒を見るべきだと思った。体力や疲労が回復したら好きに出ていくと良い」


「……何故だ…」

「ん?何がだ」

「何故私達にそこまでする。貴様に利益など無いだろう」

「私は自分の事を知りたくてここに来た。そして私自身すら知らない事を知ったような反応を見せた彼女が気になり、その結果を見せてくれた。これはその礼だ」


 …「嘘だ」と、そう言い切れない雰囲気が化け物にはあった。

 コイツの言葉は妙に真っ直ぐだ。

 まるで偽る事を知らない子供のように。


 害意が無いと言うのなら精々利用してやろう。

 回復したらお嬢様を連れてすぐに逃げてやる。


 毒気を抜かれたような気分になり、私は釈然としないながらも化け物の体を洗い尽くしてやった。


「ありがとう。誰かに体を洗ってもらうのはやはり気持ちが良いものだ」

「……ふん…」


 化け物に言われても何も嬉しくない。

 やはり私の技術はお嬢様の為のものだ。


「今度は私が洗おう。座るといい」


 コイツはまるで立場というものを理解していないな。

 主人が使用人を洗うなど前代未聞だぞ。


 頭を濡らされ化け物の手が私の髪を洗っていく。

 くぅ…コイツ、化け物のくせに繊細な指を…

 だが頭を洗われ体になった時、遂に化け物が本性を表した。


「な⁉︎き、貴様そこは…!やめ…胸をそんな!おい!耳を触るな!尻尾もやめろ!」


 的確に猫獣人の女性の弱点を!

 やはりコイツは危険な化け物だ!


「…すまない。全身綺麗にしたいだろうと思ったのだが」


「…ふん」


 そんな言葉で取り繕おうなどと、無駄な事だ。

 化け物の本性はやはり危険だ。

 的確に弱点を見極め攻めるなど、常人のする事ではない!


 化け物と湯船に浸かるが、私は一切喋らず温まる。

 少しくらい見直してやっても良いかと思った途端にこれだ。

 お嬢様を一緒に入らせなくて正解だった。


 化け物に続いて脱衣所に戻り、タオルで体を拭いていく。

 幸いこの宿は簡易な寝巻きが常備されていたので、二人でそれに着替えた。


「お、おかえりなさいませ…ご主人様…」


 あぁ、お嬢様がそのような言葉を言わなければならないなんて…


「待たせてすまぬ。入ってくるといい」

「…はい」


 本来ならば私も御一緒し隅々まで洗って差し上げているはずなのに!


 20分程で出てきたお嬢様も同じ寝巻きを着ており、今は化け物も含め全員それぞれのベッドに腰掛けている。


「私はもう寝るが、お前達も疲れているだろう。早めに休むといい。『おやすみなさい』」


 妙なところだけ丁寧に挨拶した化け物が早々にベッドに潜り込んでいく。

 今の内にお嬢様に報告しなければ!


『お嬢様、どうやらこの化け物は泡が苦手な様子。それと、私達が回復したら自由にするつもりのようです』

『え…それは本当ですか⁉︎』

『言葉ではそのように。ですが安心出来ません。奴は私の弱点である耳と尻尾を容赦なく攻めてくる卑劣な奴です』

『それで先程悲鳴のような声が…』

『と、とにかく!早めに回復して逃げる為にも今は回復に専念しましょう』


 三つ並んだベッドの端に化け物が寝ている為、お嬢様をお守りする為に私が真ん中で寝る。


 私は必ず、この化け物からお嬢様を守り抜き逃げてみせる!






翌日、私とお嬢様が起きても化け物は一向に目を覚さない。

お嬢様にステータスを確認して頂くが、やはり1日程度では体力は回復し切らないようだ。


『それにしても無用心な。そのまま逃げてしまっても気付かれないのでは?』

『そうしたいところですが、この体力ではすぐに力尽きますし、その間に追い付かれます。やはり回復してから逃げるのが得策かと』


悔しい気持ちを抑え化け物のベッドを再度確認する。

すると、寝る前には無かったものが床に落ちていた。


「…これは、寝巻き?」


どういうことだ。私もお嬢様もちゃんと着ている。

もしや、化け物が寝ている間に脱いだのか?


『なんと品のない。裸で寝るなど淑女のする事ではありませんね』

『…そう言えば、ネルはご、ご主人様の裸を見たのですよね?どうでしたか?』

『な、何故そのような事…化け物に相応しい、人間離れしたものでした』

『それはつまり、美しかったと』

『ち、違います!私がお嬢様というお方がいながらそのようなこと思うはずがありません!』

『…ネルは昔から分かりやすいですね』

『ぐっ…そんなことは……も、申し訳ありません』

『ネルが認める程の美しさですか。少し気になります』

『お嬢様?何をなさるおつもりですか…いけません化け物に近付くなど!』


私の反対を他所に、お嬢様は化け物が寝ているベッドに近付いてしまう。

そしてお嬢様がベッドの布団をめくると、予想通り裸で気持ち良さそうに寝ている化け物。


起きている時は化け物らしく他を寄せ付けない雰囲気であったのに、今では子供でも悪戯出来そうな程に無防備であどけない姿だった。


『…ご、ご主人様の寝姿は同性である私ですら、見てはいけないものを見てしまった罪悪感を覚えますね』

『お嬢様危険です!早く化け物から離れて下さい!』


私の忠告にお嬢様が戻ろうとした矢先、化け物が手を伸ばしお嬢様の腕を掴んだ。


『ネル!』

『お嬢様お静かに!下手に刺激して化け物が起きればより危険です…私が化け物の手を離しますので、それまでどうか辛抱を』


だが私が近付くより早く、化け物によってお嬢様がベッドに引き摺り込まれてしまった。


「リリ…何だか小さい」

「あ、あの…ご主人様…私はソフィアです」

「んぅ…」

「ご、ご主人様…あの、離して下さい」

「まだ、眠い…一緒に…寝よ」

「あ…えっと…はい」


『お嬢様⁉︎』

『だって…無理ですよネル。こんな安らかな顔で寝られては起こせません。幸い誰かと勘違いして攻撃はしてこなさそうですし、今はやり過ごしましょう』

『おのれ化け物め!お嬢様を抱き枕にするとは不敬な!』

『…それにしても、ネルが認めるだけあって本当に綺麗な髪と肌ですね』

『以前の環境ならばお嬢様だってこのくらい美しかったはずなのに』

『そればかり嘆いても仕方ないですよ。今を受け入れ早く回復しなくては』


悔しくて情けなくて、自分の弱さが憎くなる。

そんな私とは反対に化け物は気持ち良さそうに寝続けていて、今もお嬢様を抱き締めたり髪を撫でたりとやりたい放題。


「………」


『お嬢様?どうしたのですか?』

『いえ、何だかお母様を思い出してしまって』

『…そうでしたか』


こんな化け物が、奥様の代わりになどなるはずがありません。

しかしもう随分と奥様とも離れておりますし、今だけはお嬢様の気持ちを優先して見守る事とします。


「…ん…ソフィア…」

「え…は、はい…ご主人様」

「…なに…たべたい」

「っ!?…ご主人様…」


まだ寝惚けている化け物の口から、初めてお嬢様の名前が…

それに「何が食べたいか」か。

私はやはり昨日食べた、生野菜と肉がたっぷり使われたサンドイッチだな。


今のが化け物の本心かどうかはともかく、飢え死にだけはしないで済みそうだ。

体力が回復したら好きにしろと言うのだから、回復に必要なものは用意するつもりなのかも。



結局化け物が起きたのは、お嬢様が抱き枕にされてから30分も経った後だった。

この羨ま…違う、不敬な化け物め。

私だってお嬢様と添い寝などさせて頂いたことは無いというのに…




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