第十三話
もう少しで洞窟も終わりか。やはりスパイダーとバット系は進化しなかったな。
この進化は低ランク魔物でも数さえ捕食すれば上位になることが出来る利点があるが、逆を言えばその数が問題だ。
1体目でその魔物に、そこから30体捕食で1次進化をする。
だが30体捕食し進化した段階で、捕食数は0に戻りまたそこから60体で2次進化となる。
3次進化では倍近くの100体だ。
つまり3次進化までいきたい場合、最下位の魔物だけを捕食するとなると合計で191体もの素体が必要になる。
魔の森のように広大なエリアならば生息しているかもしれないが、こんな短い洞窟で各200体近い魔物はそうそういない。
やはり上位個体を見つけて捕食するしかないな。
もしかしたら上位個体であれば次の進化に必要な素体数が少ないかもしれん。
そもそも何故私がテテム村の方角ではなく、こちらの方角へ進んでいるのか。
トルム街にいる間に聞いたのだが、どうやらこの方角に進んだ先に、『ネクノロギア王国』の王都があるらしい。
丁度あの渓谷を挟んでこちらが『ネクノロギア王国』、トルム街があるのは『エインヘル帝国』と呼ばれるそうだ。
エインヘル帝国の帝都は大分距離があるようなので、先にネクノロギア王国へと向かう事にした。
昔は領土争いのような戦争もあったそうだが、幸い両国間で今はそういったこともなく平和なのだとか。
王都ともなれば様々な情報や書物が集まるだろうと考え、私やこの世界について調べられればと思っている。
そして何より、王都周辺には危険区域と呼ばれる場所が幾つか存在し、Bランク以上・Aランク以上と『ランク指定区域』なるものもあるとか。
そういった場所ならば先程の毒百足のような魔物も多いだろう。
私の強化と腕試しに丁度良い。
洞窟を抜けたら目で見える範囲に王都を取り囲む壁が見えた。
城塞都市と呼ばれるものか。
どうやらこの洞窟を通れる者にはかなり時間短縮になるようだ。
迂回する道がかなり横まで続いていることからも、大分遠回りであることが分かる。
城壁の門らしき所まで歩いていくと、男二人組で検問を行っているようで、並んでいる人達がギルドカードや運んできた荷物を見せている。
ギルドカードを収納リングから取り出して最後尾に並び、10分程で順番が回ってきた。
「お、お嬢さんはお一人で?(な、なんて美人だ…こんな人王都でも見た事ない)」
「うむ、旅をしていてな。トルム街からやってきたのだ」
「では、ギルドカードのご提示をお願いします(王都に暫くいるのかな?だとしたら少しでもお近づきに!)」
男達にギルドカードを渡すと、初めて私を見た時より動揺した気配が伝わってくる。
やはりこの見た目だと以前のオズクのように弱く見られるのだろうか?
「か、確認出来ました。ありがとうございます(嘘だろ…ギルドランクBって…こんな美人で?)」
「旅の目的をお聞きしても?(まさかこの人、あの『冒険者喰らいの洞窟』を抜けてきたのか?中央にいるポイズンセンチピードにランクBが何人食われてきたか)」
「旅の目的か…情報収集と言ったところか。この世界をもっと見てみたくてな」
「それでしたら、この王都は王国最大の図書館だけでなく、歴史の資料館もあります。きっと役に立つかと思いますよ」
「それは良い事を聞いた。ありがとう」
「い、いえ!では通って下さい!(美女のフンワリ笑顔!こちらこそありがとうございます!)」
この王都も人が良さそうだな。早速親切な人達に会えた。
図書館や資料館も早く見たいが、やはりまずは宿とかの生活基盤を整えなくては。
最初に王都のギルドへ行くとしよう。
捕食する時に魔物の一部を剥ぎ取っておけば、買取などもしてくれるとヴァイトに以前教わったからな。
生憎洞窟内の魔物はつい全て飲み込んでしまったが、ヴァイトの剣を作る時にダークウルフの牙を十本程取っておいてある。
一泊二泊程度の宿代くらいにはなるだろう。
一応私の収納リングの中には、金貨20枚相当の金が入っているのでそこまで焦って買取をしてもらう必要はない。
しかしヴァイト曰く、そこでの買取価格でその街の物価や豊かさが分かるらしい。
ダークウルフの牙はトルム街では10本で銀貨1枚だった。
魔物の素材として考えると、Bランク依頼一件分相当の値段はかなり高い。
王都ではどうだろうか。
ギルドに入ると、私を見たものから順に声が消えていき、最後にはギルド内が完全に静かになってしまった。
トルム街ではヴァイトと一緒にいた為然程目立たずに受付まで行けたが、やはり一人だとそうはいかんか。
正直私を見て黙る程かと不思議に思うのだが、シャドウやヴァイトからお墨付きをもらった以上それを否定するのも違うし、客観的に受け入れるしかないのだろうか。
視線を浴びながら受付まで行き、やや放心している受付嬢にダークウルフの牙を10本入れた麻袋を手渡す。
「これを買い取って欲しいのだが」
「は、はい。中身を確認させて頂きます…え、あの…これって」
「ダークウルフの牙だが、牙だけだと断定出来ないか?」
そうすると毛皮の方が良かったか?いや流石に自分の皮を剥ぐのは勘弁したいのだが。
「い、いえ大丈夫です!鑑定スキルがあるのでダークウルフなのは間違いないと分かるのですが…これは、貴女が?」
「うむ、まぁ友人と協力して手に入れたものだがな」
嘘は言っていない。
分裂している間は完全に別の人格になるように分けているし、シャドウも私の大切な存在だ。
「そうですか。ではギルドカードのご提示をお願い致します」
受付嬢が私のギルドカードを確認し、手元の書類に何やら書き込んでいく。
「ありがとうございます。こちらの買取価格は全部で銀貨1枚と銅貨5枚になりますが、よろしいですか?」
「構わない、それで頼む」
トルム街の1.5倍か。やはり王都ともなると物価も高いのだな。
言われた金額を受け取り収納した後、今日は依頼を受けるつもりが無いのでそのままギルドを後にした。
むぅ、失敗したな。
お勧めの宿を聞けば良かった。
王都ともなれば宿の数もそれなりだろうし、ベティの言っていた女主人の宿もあるだろうが、探し出せるかどうか。
しかし今から戻ったらまたあの反応になる気もする。
そこまで気にならないといえばならないが、かと言って良い気分でも無いのは確かだ。
仕方ない、屋台とかをしている女店主を中心に聞き込みをしていくか。
もうすぐ日が暮れる事を考えると早くしなければ。
「そこの美しいお嬢さん、貴女に相応しいメイドはいりませんか?」
「ん?」
通りを外れた路地から男に声をかけられる。
馬鹿に腰が低く下から見上げてくるが、目線を見るに私に話しかけたとみて間違い無さそうだ。
それにしても、「めいど」?
「『めいど』とはなんだ?何かの道具か?」
「おや、メイドをご存知ない?貴女のような美しいお嬢さんならばさぞ高貴な家柄かと思いましたが」
「生憎ただの冒険者でな。『めいど』とやらは初めて聞いた」
「では如何でしょう。一度見るだけでも見てみませんか?」
「ふむ、純粋に何なのか気になる。見せてくれ」
「勿論ですとも!さぁ此方へどうぞ」
嬉しそうな男に着いていくと、路地に入り口のある建物に入っていった。
こんなところにも店があるのだな。
王都を探索する時はかなり時間が掛かりそうだ。
中に入ると不思議な光景が。
大人から子供、男女問わず10人くらいが檻の中に入っていた。
あるものは男を睨み、あるものは絶望的な顔で俯き、その様子は様々だ。
「何故この人間達は檻に入っている?」
「何故って。それは商品だからに決まってます。ここはそういった店ですので」
「商品?人間がか?」
その感覚は私には分からんな。
さして怒りも哀れみも感じないが、単純によく分からないからとしか言いようがない。
「これらは皆、罪を犯したか、親に捨てられたか、あるいは住む場所を無くして流れ着いた者達です」
「それと商品とどう結びつくのだ?」
「金ですよ。罪を償えず賠償金も払えなかったり、家族が金の為に売り飛ばしたり、他の仲間の為に自分を売ったりと様々ですが、全ては金の為です」
ふむ。なるほど複雑な事情によってここにいるわけか。
正直全員買って逃がすことも有りなのかと思うが…
私は悪人を専門で捕食する誓いは立てても、善人になるべく行動しているわけではない。
それに、これだけの人間を解放したとして、その後の彼等の面倒は見切れない。
中途半端な偽善はむしろ悪とも思う。
申し訳ないが、私にはどうすることも出来ん。
「…ば…化け物!」
「お嬢様⁉︎」
ん?一番奥の檻、その中にいる一人の少女が私をみて酷く怯えている。
年はリリと同じ15・6だろうか。
私と同じ金髪はボサボサの状態で背中に流れ、青い目を見開いて私を見ていた。
だが目が合った瞬間に逸らされた。
そしてその横にいる少女より少し年上と見られる女性は、黒いポニーテールにした髪の上に、同色の猫耳が生えていた。
よく見れば腰のあたりから黒い尻尾も…
少女と違い私を威嚇するように睨んでいる。
私はそれに悲しいより珍しいと思った。
客観的に見ても、今まで私に否定的な反応を示した者はいなかった。
それがこの少女は言葉を交わすより前に、私を「化け物」と言う。
もしや、彼女には他人の情報を見るスキルでもあるのだろうか。
ヴァイトのように【敵性看破】が無い限り、私の情報は確かに恐怖でしか無いだろうからな。
「も、申し訳ありません!お客様にあんな失礼な事を言う奴がいるとは…商品の分際でなんてことを言いやがる!」
男が少女に向かって鞭のようなものを振り下ろそうとした。
私はその間に素早く割り込み男の鞭を素手で受け止める。
全く痛く無いな。戦闘職では無いだろう人間の攻撃とはこの程度なのか。
「お、お客様⁉︎だ、大丈夫ですか⁉︎なんて危ないことを!」
「いや、問題ない。それより彼女達の詳細を教えてくれ」
「は、はい…金髪の名はソフィア・フォン・ハーベンデルクですが、今はただのソフィアです。元は帝国のハーベンデルク伯爵家の三女でしたが、ハーベンデルク伯爵が失態を犯し多額の賠償を迫られた際に、彼女を嫁がせ相手から資金援助を受けました。その後嫁ぎ先と上手くいかずここに売られたというわけです。横にいる女はネルといいまして、ソフィアの付き人ですが、容姿の良い猫耳の亜人ということもありセットで売られたのです」
それは何とも、気の毒な事だな。家の都合でこのような…
「お客様が訴えれば彼女達を商品から奴隷へと落とす事も可能ですが、如何いたしますか?」
「…いや、彼女達を買おう」
「よ、よろしいのですか?あんな失礼な事を言いましたが」
「構わん。自分が化け物だと言う事くらい自覚している」
「そんなとんでとない。これほど美しいお嬢さんが化け物だとしたら、王都の女は全員魔物ですよ」
「それは言い過ぎだろう。それで、どうすれば良い」
「ではまず彼女達の売値合計である金貨10枚をお支払いして頂いたあと、彼女達の服や制限などを設定して頂きます」
何やら紙を渡された。
そこにはソフィア・ネルという名前だけ記入されており、あとは選択肢がいくつか。
『商品の服装をお選び下さい。
ボロ布のまま・メイド服・戦闘服・簡素な服』
『商品の行動制限をお選び下さい。
自由・家事のみ可能・戦闘行為のみ可能・何もしない』
なるほど、これで先程の『めいど』なるものが出てくるわけか。
「お客様が気になっていたメイド服はこちらで御座います。メイド服の場合追加で銀貨5枚が必要となります」
男が奥から服を取り出してくる。
黒のワンピースのような服に白いロングエプロン、頭にはあのフリルの付いた白いカチューシャを着けるらしい。
私の服と形が少し似ていて好感が持てるな。
他の選択肢と比べても普通の人間らしく過ごせそうだ。
私はメイド服と制限無しの自由を選択し、銀貨5枚を追加で払ってソフィア達を檻から出してもらった。
男がソフィア達が身につけている腕輪の鍵を開け外す。
制限がある場合はあの腕輪に何かするのだろう。
その後ソフィア達が一度奥に行き、戻って来た時はメイド服に着替えていた。
「貴女のような女性に買われて彼女達も嬉しいことでしょう。ありがとうございました」
もう来ることは無さそうだが、王都に着いてそうそうに人を買うことになるとは思わなかった。
相変わらずソフィアは私の方を見ないようにして震え、ネルはチラチラと睨みつけてくる。
少し宿で話でもするとしよう。
怯えた理由も気になるしな。




