俺氏、魔女と対面する。
後悔は決して後には立たない。いや、後に立ったためしがない。失敗は成功の基なんてのはただの迷信でオカルトで真っ赤な嘘なのである。
だからあの時だって———。
* * * * *
砂漠に差し掛かってから2週間。途中のキャンプを転々としながら進んでいくと今度こそ目の前に水晶の生えた山が聳え立つ。その麓には大きな穴が開いており、その中に一つの都市がすっぽりとはまっている。都市のいたるところからは煙突が伸びていて煙が出ていたり、鉄を打つような音が響いている。
「すげぇな。もしかして煙突が出ている家全部工房だったりするのか?」
「よくわかりましたね。その通りですよ。 大抵はあの山で鉱石を採掘してその鉱石を工房で加工するんです。銀細工や小物なんかも作っていますけど、ほとんどは剣や戦鎚などの武器ですね」
「だからこの山…というかこの丘全体が”剣の丘”って呼ばれてるんだよ」
ほほぅ、なんか血潮が鉄で心が硝子で体が無限の剣でできてそうな感じだな…。
「そういえば魔女ってどこに住んでるの?」
あ、そういえば今回そのためにここまで来たんだっけ?
「そのことなのですが、まずは腰を落ち着かせましょう。私の工房にご案内しますね」
案内された工房はそこまで大きいというわけではなく、ただ小さいというわけでもない。中はモノが乱雑に置かれており、しわがれた老人が赤熱した鉄を鉄槌で加工していて、4人にまるで気が付いていないようであった。
「どうぞこちらへ。 今お茶入れますね」
案内された先には小さな机といすが並んでおり、かろうじて応接間だということがわかる。にしてもモノが乱雑に置かれすぎじゃない?
運ばれてきたお茶はよく知る紅茶や麦茶のような色をしている者で、こっちのお茶も変わりはないのかと認識する。
「さて、前置きは無くてもかまいませんね。 魔女の話ですが、魔女はここから半日歩いた先にあるオアシスの付近にある洞窟に居を構えています。そのオアシスは我々クリスレントの民からすればそのオアシスは貴重な水源であり生命線なのでその水場を独占している魔女を退治してほしいのです」
「ふむ…。 改めて聞くとなんだかやりすぎな気がするんだよな。なんたって魔女を退治するまでに至るんだ? なんだったら話し合いとか…平和的に解決はできないのか?」
いきなり理由もなしに鉄拳制裁とか物騒すぎるしな。
するとミリアはいぶかし気な表情になる。
「難しいですね…。 一度交渉を試みたのですが、話を聞いてくれなかったようですし…。 それに魔女はオアシスの水を独占するだけでなく水質すらも変えてますからね。和解は難しいでしょう」
そっか、和解は難しい。と。
「ですのでもう討伐するしかないと考えたのですが、我々ドワーフ族は魔力容量が少ない弊害として魔力耐性が低いんです。ですので比較的近隣に居て魔力耐性のあるエルフに依頼したんです。それに最近エルフ領に英雄が現れたと聞いたので…」
「それで俺にコンタクトをとってきた、か」
「ですのでおねがいします。どうにかして魔女を討伐していただけませんか!?」
まぁ、ドワーフ種が手出しできないなら俺たちがやるしかない…のか?
「……わかった。できる限りやってみるよ」
答えた瞬間、ミリアの顔が明るくなる。
「ただし、やり方は俺たちのやり方でやらせてもらう。それでいいな?」
「もちろんです!あの悪しき魔女を退治していただけるのであればいかなる手段でも構いません!」
悪しき魔女…ねぇ。
「そんじゃ、いっちょやってみますか」
* * * * *
翌日、さっそく魔女討伐に向かう。装備も最低限だったため半日もかからずにオアシスにたどり着く。ミリアの話通り近くに洞窟があり、その中から何とも言えぬプレッシャーのようなものを感じる。
「…いやな感じがするけど、どうするの?」
「そうだな…。 まずは話し合いを試みてみる。だめなら拘束、かな?」
「あ、殺しはしないんだね?」
「あぁ、殺しはしない。ていうか極力その路線は避けたい」
覚悟と作戦を決め洞窟に入る。洞窟は雨風で風化してできたらしくいたるところが崩れかけている。こんなところに住んでるとか魔女とやら正気かよ…。
進んでいくと広い空間に出る。そこは光などとどこかない空間であるはずなのに明るく、試験管や実験道具などが並んでいる。その中に一人の陰が移る。
「おや…。 ここに人が来るのは何時振りだったかな…?」
ゆっくりと語られた言葉に淳は驚愕する。が、アニーシャとアリシアはなぜかきょとんとしている。恐らく森精語ではないのだろう。魔女はゆっくりと振り向く。そしてその姿に淳は驚愕する。
「—――響…?」
「久しぶりだね…。 淳君」
-to be continue-