第17話 子どもになっちゃった②
「今日は幼女デーだよー」
『!? かわいい・・・・・・』
『おじさんが幼女になってる!?』
流れていくコメントを見る限り、視聴者はみんなこの唐突な幼女化に驚いているみたいである。
突然今日は幼女デーとなります、とか言われたから戸惑うのも無理はない。というか、戸惑わない方がおかしいだろう。ただ、みんな幼女化したシオのことをかわいいと言っていた。
『アリス風エプロンドレスかわいいね! 似合ってる!』
「似合ってる? ありがとー!」
ユキはもしかしたらキョウカが幼女化配信をすることがあるかもしれないと思って、前々から幼女の体を用意していたらしいのである。
そして、その幼女の体が着ている衣装がアリス風エプロンドレスだったのだ。結局着せられることになってしまった。食えない奴だ・・・・・・。
「ちなみにユキもいまーす。幼女になったキョウカちゃんだけだと不安だからね。見守り要員だよー」
「いや、体は子供になったとはいえ中身は大人なんだから見守りなんて必要ないって・・・・・・」
これは配信上の設定とかではなくマジの話である。幼女になったシオだけでは心配だとユキが見守りを申し出てくれたのである。まさか、視聴者も実際にそんなことになっているとは思うまい。
「今のキョウカちゃんはこんなにかわいいんだから! 1人で配信なんかしたら誘拐されちゃう!」
「いやそんなわけないじゃん・・・・・・」
『お嬢ちゃんかわいいね・・・・・・飴ちゃんあげるからうちに来ない?』
「ほら、こんな人もいるわけだし」
「まあそれはそうだけど・・・・・・」
『じゃあ俺はケーキをあげるよ! うち来ない?』
『じゃあ俺はイケメン女子を用意するよ』
「えっ、イケメン女子!?」
「やっぱり危ないなあ・・・・・・」
イケメン女子ならほいほいついていってしまいそうな危うさがある。
まあそれはともかく・・・・・・
「今日は私の膝の上に乗って配信しようね〜」
「ええ・・・・・・?」
ユキがそんなことを言い出した。なんか、幼女姿のシオを見てから、ユキはずーっと様子がおかしい。
『あっ、1人だけずるいぞ! 俺もキョウカおじさんちゃんを膝の上に乗せたいのに!』
『いつもならてぇてぇとか言ってるとこだけど今日という今日は許さない! 独占ずるいぞー!』
『幼女おじさんを独占するなー! 幼女おじさんはみんなのものだろ!』
視聴者もなんだかおかしくなっていた。世が世なら革命か戦争が起きてそうな勢いである。
「・・・・・・まあいいや。とりあえず今日のゲームを始めていこう! 今日は『瓶詰の地獄』ってホラーゲームをやっていくよ!」
さて、今日はただ幼女姿をお披露目するだけの配信ではない。今日はゲーム配信だ。しかも、ホラゲーである。元々今日は『瓶詰の地獄』というホラゲーをやることになっていたので、予定通りやることにしたのである。
「うー、怖いなあ。これ以上進みたくないよー」
「大丈夫? いやなら無理して進まなくてもいいからね? キョウカちゃん」
「いや、そこは無理矢理にでも進ませてくれよ・・・・・・本当に心配してどうすんだよ・・・・・・」
『キョウカちゃん疲れてない? 水飲む? お菓子食べる?』
『ちょっと一旦休憩しない?』
「なんか今日みんなだだ甘になってないか・・・・・・?」
みんないつになくシオのことを甘やかしていた。いつもはシオに厳しいというか、前に一緒にホラゲー配信した時には煽ったりしてきていたユキでさえも、はちゃめちゃに甘やかしていた。なんとなく甘やかしたくなるオーラでも出ているのかもしれない・・・・・・。
と、そんな感じでホラゲー配信をしていたわけなのだが、夜も遅くになってくると・・・・・・。
「ん、んぅ・・・・・・」
シオがうつらうつらし始めてしまった。これは珍しいことだ。やっぱり幼女になてしまった今のシオに、夜更かしはキツいみたいだ。
「あれ? ひょっとしてキョウカちゃんおねむかな?」
「んー・・・・・・」
シオは眠そうな声を出す。完全におねむだ。
『かわいい』
『おねむかわいい』
『かわいいな・・・・・・いやものすごくかわいいな・・・・・・』
『天使か?』
『こんなかわいいおじさんがいるかよ。ただの天使幼女じゃんか』
「えっと、キョウカちゃんがこんな状態になっちゃったので今日はもうこれで配信を終わろうと思いまーす! さ、キョウカちゃん。もうベッドに行こうねー」
「うー・・・・・・やだぁ、まだ配信する・・・・・・!」
『かわいっ』
『かわいすぎる しぬ』
『今日って俺の命日だったんだ』
で、今日の配信はこれで終わった。
シオが配信中に寝落ちしたのはこれが初だ。本人としてはやらかしたと気にしていて、起きた時めちゃくちゃ落ち込んでいた。
「ぐああああ、やっちゃった・・・・・・」
「大丈夫でしょ。視聴者のみんなけっこう喜んでたし」
やらかしどころか、むしろこの配信は大成功だった。まあ、本人は納得していないみたいだが・・・・・・これでまたチャンネル登録者も増えるだろう。
そして、目が覚めて朝になってもシオはまだ元に戻っていなかった。幼女生活はまだもう少しだけ続きそうだ。
◇
「んー、どれがいいかなあ・・・・・・」
「どれもおいしそうだね」
シオとユキはメニューを見ながらそんな話をする。2人は今、とあるファミレスにいた。
今そのファミレスが、シオの好きなアニメとコラボしていて限定グッズが手に入るらしいので、それ目当てで来たのである。今の状態のシオでは1人で入りづらいため、ユキと一緒に来たのだ。
「メニューはなんでもいいんだよね?」
「そう、メニューはなんでもいいらしい」
何を頼んでもグッズはついてくるようだ。ただ、ランダムになっていて、どのキャラのグッズが当たるのかはわからない。
とりあえず、シオはハンバーグにサラダとライスのセット、ユキはカルボナーラを頼んだ。
しばらくすると、料理が来た。限定グッズも一緒だ。
「当たりますように当たりますように・・・・・・」
シオがそう祈りながらそのグッズを受け取ると店員さんがふふっと微笑みつつ
「ふふ、当たるといいですね」
と言った。
シオは、その店員さんの背中を見ながらポツリと呟く。
「なんか普通の子供だと思われちゃったぞ・・・・・・」
「そりゃそうでしょ」
むむむ・・・・・・と言いながら限定グッズが入った銀色の袋に念を送っているシオは完全に幼女だったので、仕方がない。
「お、推しだ。やった!」
「良かったじゃん」
さて、無事狙いのキャラのグッズも手に入れられたところで、食事だ。
シオはまずセットのサラダから食べ始めた。
「うあ・・・・・・」
「なになに、どうしたの? 舌でも噛んだ?」
サラダを食べるやいなや、シオはすぐに顔をきゅっとさせてしまった。
「いや・・・・・・なんかこのサラダがさ、いつもより苦い気がして・・・・・・あれー? 俺、いっつもこのセットのサラダ食べてるけど、こんなに苦くなかったのになー」
「あー、それってあれじゃない? 子供の味覚は大人よりも敏感だから野菜の苦味とかも感じやすいってやつ。だから子供はサラダとか苦手なんだって聞いたことあるよ」
「マジで? つまり今の俺は子供だから、いつもより苦く感じるってこと・・・・・・?」
「多分そういうことじゃないかな」
「うわー、マジかよ・・・・・・」
盲点である。まさか、幼女になったことでこんなことが起こるとは思っていなかった。幼児化、意外と奥が深い・・・・・・。
「でも、野菜はちゃんと食べないとダメだよ?」
「いや、ユキは食べてないじゃんか・・・・・・」
「私はドリンクバーの野菜ジュース飲んでるからいいの。シオはドリンクバー頼んでないんだから、健康のためにもちゃんと食べないと」
まあ確かに、サラダはちゃんと食べないとダメだ。
「食べるしかないか・・・・・・頼んじゃったし・・・・・・」
シオは意を決して食べ始めた。
「苦いな・・・・・・鼻つまみながら食べてみるか」
小学校以来の鼻つまみ食事法をやってなんとか食べ切ることが出来た。
「ちゃんと食べきれたじゃーん、えらいえらい!」
「やめろ撫でるな」
ライスにハンバーグも食べて食事を終える。
すると、
「なんかデザート食べたいなー」
とユキがそんなことを言い出した。
「デザート?」
「そ。シオもどう? ほら、ちゃんとサラダ食べれたから自分へのご褒美に!」
「なんだそれ・・・・・・」
まあ、断る理由もない。お腹にもまだ余裕はあるし、シオはデザートを頼むことにした。2人が頼んだのはこの店特製のパフェである。
しばらく待っていると、意外と早くパフェは来た。
シオは、パフェを前にしてポツリと呟いた。
「しかし、ここのパフェは美味しいんだけど、正直もう食べ飽きた感があるんだよなあ・・・・・・」
このファミレスのパフェはミニマカロンが乗っかっていて、シオはここへ来るたびごとにこれを頼んでいたのだ。だから、シオにとってはもう食べ飽きた味なのである。
だからシオはそこまで嬉しそうにはしておらず、まあせっかくだから食べるか、みたいな感じでそれをスプーンですくって口へ運んだ・・・・・・そしてカッと目を見開いた。
「なんだこれ・・・・・・すごくおいしい!」
シオはものすごく目を輝かしている。子供の味覚は鋭敏。苦味だけではなく甘味もいつもより鮮明に感じられるみたいだ。
「すごいぞこれ! アイスも生クリームもチョコブラウニーももちろんミニマカロンも! いつもより新鮮においしい!」
「ふふふ・・・・・・」
「なんだよ」
「シオ、生クリームが口の周りについちゃってるよ? 汚れまくってる」
「マジで?」
「ほら、動かないで」
「い、いやいいって自分で拭けるから・・・・・・」
シオは自分で拭くと言ったのだが、構わずユキはどんどん拭いていく。仕方がないから大人しく拭かれた。
その姿はどうやら傍目には仲のいい姉妹といった感じに見えるらしく、2人は周りの客や店員から微笑ましそうな顔で見られるのであった。
・・・・・・
「あ、シオ見て。公園があるよ」
「ああ、本当だ。公園があるな」
腹ごなしにそこら辺をぶらぶら歩いていると、公園があった。ジャングルジムや滑り台などの危険そうな遊具も撤去されずにまだある公園である。子供たちが楽しそうに遊んでいた。
「遊んでく? 今のシオなら混ざって遊んでも全然違和感ないと思うよ」
「いやいや、遊ばないって・・・・・・俺ももういい年したおじさんなんだからさ」
「今のシオが合法ロリおじさんなことは知ってるけど、でも遊んでみたら意外と楽しいかもしれないじゃん?」
「合法ロリおじさんってなんだよ。ギリ悪口だろ・・・・・・いやいや、俺が公園の遊具で遊んだって、別に楽しくもなんとも────」
20分後
「──めちゃくちゃ楽しいー!!!」
楽しんでいた。シオは本物の子供に混ざって遊具で遊び、めちゃくちゃにはしゃいでいた。
「この滑り台とか、子どもの体で滑ったらなかなかのスリルだし・・・・・・」
ここの滑り台はけっこう大きい。大人でも少々スリルがある。子どもなら尚更だ。
「このジャングルジムなんかも、子どもの低い目線とのギャップがすごい! 頂点に登ると、一気に視界が開ける感じがする!」
楽しそうでなによりである。ユキも、はしゃぐシオのことをベンチに座ってニコニコしながら見守っていた。
と、シオがジャングルジムの頂点から辺りを見渡していた時である。
「ん?」
公園の中では色んな子どもたちが、集まって鬼ごっことかをして遊んでいるのだが、1人だけその集団には混ざらずにベンチに座ってスマホをいじっている女の子がいた。1人が好きなのかもと思ったが、集団の方をチラチラ見ているので、本当は混ざりたいと思っていそうである。
「・・・・・・」
シオはなんとなく気になったので、その子に話しかけることにした。
「ね、何してるの?」
その子は急に話しかけられてびくっと驚いた様子だったが、すっとスマホの画面を見せてくれた。そこには最近人気のソシャゲのホーム画面が表示されていた。
「・・・・・・」
そのままそのゲームに戻ろうとするその子に、シオは自分のスマホを見せた。
「奇遇だね。実は俺もそのゲームやってるんだ」
「え? ・・・・・・ほんとだ」
その子は驚いたようにシオのスマホの画面を見つめたが、さらに驚いたように言った。
「すごい! レベル80だ!」
「けっこうやりこんでるからねー」
「すごい・・・・・・ね、キャラは何使ってるの?」
「ああ、俺が主に使ってるのはこのキャラとこのキャラと──」
その子は最初は少し遠慮がちだったが、やがてすぐにシオへ好きなキャラのことなど楽しそうに話してくれた。シオも自分の好きなキャラのことなどについて話し、2人はかなり盛り上がった。
・・・・・・そして、けっこう打ち解けたころになってシオはこう切り出した。
「ね、もしかして・・・・・・あの子たちと一緒に遊びたかったりする?」
その子はびくっとした。ちょっと躊躇ったが、やがて正直に
「・・・・・・うん」
と頷いてくれた。
「そっか」
シオはベンチからぴょんと降りて立ち上がると、その子の腕をきゅっと引っ張って、にこっと笑いながら言った。
「じゃあ一緒に行こ! 俺も混ざりたかったんだ!」
その子は目をまん丸にしていたが、やがてにこっと笑うと
「・・・・・・うん!」
そう言って、シオと同じようにぴょんとベンチから降りるとシオと一緒に走り出した。
「混ぜてー!」
・・・・・・こうして、シオはその子と他の子どもらと一緒に夕方近くまで遊んだ。そして──
「全く、遊び疲れて眠っちゃうなんてほんとの子どもじゃんか」
優しく笑うユキに背負われながら、暖かな蜜柑色に染まる夕暮れの街を家に帰っていくのであった。
・・・・・・さて、この次の日、シオは無事に元の年齢の女の子へと戻っていた。名残惜しいが仕方がない。
元の大人(?)美少女に戻ったけれども、シオはあの後も時々公園に行ってはあの女の子や、他の子どもらと遊んだりしているらしい。シオ幼女バージョンの姉ということになってるんだそうだ。
あと、視聴者の一部がいまだに幼女キョウカの幻影を見続けているらしい。幼女の爪痕は深い・・・・・・。




