迷宮へゴー
次の日、フタリはさっそく魔法道具専門店へとヤってきた。
魔法道具には2種類ある。【ギルドカード】を持っており、魔力を自ら供給できる者用の魔法道具。
【ギルドカード】を持っておらず、魔力供給できない者が使う、魔力源という電池のようなモノを取り付ける魔法道具。
フタリが行った専門店はもちろん前者だ。それも冒険者を主な客層に見込んだ店。
当然、品揃えもかなりニッチな範囲のモノばかり。
【魔物自動解体装置】だとか【魔物引き寄せ香炉】だとか。
マサヒコもアリスも最初はだだっ広い店内をフタリで見て回ったのだが、いつのまにか別行動をトっていた。なにしろ興味のあるモノが違うのだ。
マサヒコはやはり男の子。
戦闘に使えそうな魔法道具に引き寄せられる。攻撃魔法を封じ込めた【魔法玉】とか。一定時間、自分のステータスに補正をかける【パワーアップポーション】だとか。
一方、アリスは休憩時に膨らませて使える【簡易ソファ】や【簡易ベッド】に見入っていた。エアーベッドに近い物のようだ。マサヒコと休憩時にイチャイチャするコトを思い描き、ヒトリ悦に入る。
毛布もある。
魔法で温度調整ができるらしい。コレに包まってフタリで身を寄せ合ったら……。
買っちゃう? コレ、買っちゃうか?
チナミに魔法道具は基本的に高い。
日常使いの魔法道具はソレほどでもないが、冒険者専用ともなると、カナリ値が張る。その分耐久性があったり、即効性があったりするのだ。
結局、フタリが買ったのは以下の物。
まず当初の予定通り【照明球】。コレは例の【高級魔物レーダー】のように宙に浮いて勝手についてきてくれる。大きさは直径10センチほどでスポットや全方位照射、半球照射などモードを選べる。
マサヒコはコレを5つ買った。前後にそれぞれ2つ。自分たちの頭上に1つ。コレだけ光らせれば明るいハズだ。
次にアリスの要望を入れて【迷宮】でも使えるテント。1秒で設置でき、1秒でタタめる優れもの。防音な上、床も柔らか。温調機能あり。
カナリ高価なシロモノで100万エーン近くした。
だが、今後、遠くまで遠征する可能性を考えれば必要なものだ。
さらに【温度調整毛布】【簡易ソファ】【簡易トイレ】【簡易シャワー】【簡易洗濯機】。
「ナンカ普通に外でも暮らせそうだね」
「キャンプとか、ウチやったコトなくてさ。テントとか、マジ、アガるんですけどぉ」
「でも確かに【迷宮】からすぐに戻れるとは限らないし。必要だよな」
今まで特にトイレなどマサヒコは気にもしなかった。だが男と違って女は外でもヒョイヒョイするというワケにはいかない。
シャワーも自分たちのように現代日本で何不自由なく育った者には、汚れてきて余計なストレスをタメてしまうかもしれない。
どれもカナリの値段だったが、フタリともここのところ1日数百万は稼いでいた。問題なく買える。
マサヒコがコレはぜひ買いたいと主張したのは地水火風光闇の全属性の【魔法玉】である。今まで、だいたいは物理攻撃で乗り切ってきたが、これからそうはいかない相手も出てくるだろう。持っておいて損はない。
さらにもうヒトツ。コレは金銭に余裕のあるフタリにしても、躊躇する値段のモノ。しかも使い捨て。
【緊急脱出装置】。
どんな場所からでも一度だけ、あらかじめ決めてある場所に転移できる。
値段は300万エーン。使い捨てにコノ値段は高い。
それでもマサヒコは買う必要を感じた。
今までは自分たちのステータスのおかげで余裕の闘いばかりだった。だが、これからもそうだとは限らない。ヒョットしたら、まったくかなわない敵が現れて、全滅の危機に陥るかもしれない。
ゲームならセーブポイントからヤリ直せばいい。だがコレは現実。死んだらそれっきりなのだ。
アリスも【緊急脱出装置】の購入には賛成してくれた。
結局、フタリが魔法道具屋で使った金額は1千万エーン近くまでいってしまった。
あまりにも高額すぎて現実感がない金額だ。
思ったよりも魔法道具屋で時間を取られたため、【カスタムルーム】へ寄る暇がなかった。
昼食後、【迷宮】直通の馬車に乗る。
馬車は冒険者たちで混んでおり、座席はヒトリ分しか空いていなかった。
マサヒコはアリスに譲ったが、アリスは座らず、マサヒコに抱き着くように立っていた。
「ツラくない?」
「ゼンゼン」
言いながらもアリスの顔は赤い。マサヒコの腕をキュッと胸に抱いているのだが、それが妙に興奮させる。
アリスの肩に止まったウルルンが、ペロペロと彼女の熱くホテった頬を舐めた。
◇
なにしろ【迷宮】直通のバス馬車である。
乗っていた冒険者たちは終点で全員下車し、【迷宮】へ向かった。
その中に、マサヒコ、アリスの姿もあった。
石造りの【迷宮】。以前、スライム狩りに来た際、中に入っている。
ガランとしていて奥に地下へと降りる階段があるだけ。
その階段に冒険者たちが次々と吸い込まれていく。
暗黙の了解で前のパーティから一定間隔を開けて降りていく。ぞろぞろ連れ立って歩いてもお互い邪魔になるだけだ。
マサヒコたちの順番がきた。
「じゃあ、行こうか」
すでにフタリは魔装顕現している。
マサヒコはいつもの軽魔装。アリスは久しぶりにナース魔装(銀色のナーススーツ。大盾装備)である。
階段を降りると広間に出た。壁の奥に真っ赤な金属の扉。
赤い扉をクグると真四角の通路に出た。通路幅は5メートルほどと広い。四角い石で組まれた、これぞ【迷宮】というような通路である。
「アレ、前、いなくね?」
アリスが不思議そうに首をカシげる。
彼女の言う通り、まっすぐ続いている通路には人影ヒトツ見えない。
「ああ、【迷宮】はさ。同じドアを開けても違う場所に出たりするコトもあるんだよ」
言ってマサヒコは後ろの赤い金属扉を振り返る。
「アレを開けたときに、同じフロアのいくつかある赤い扉のどこかにランダムでツナがるみたい。赤い扉は要注意だね」
「へえー。そーなんだ」
「アト【迷宮】は1週間で地形が変わるんだって。毎週月曜日は入れなくて、その間に構造が変わるみたい」
「じゃあ、せっかくクリアしても意味なくね」
「ウン。だから、攻略するなら6日間いないじゃないといけないんだよ。月曜日になると強制的に外に出されるみたい」
せっかく照明を買ったが【迷宮】の通路は明るかった。天井が薄ボンヤリと輝いている。光量は低いが、なにしろ天井の全てが輝いているので十分明るい。
シュマホーのアプリでマッピング機能を使用。キラーアントの巣で迷ったことを考え、昨日のうちに買っておいたものだ。
しばらく歩いていると、通路の奥からピョンピョンと跳んでくるモノが見えた。
白い球体。ラビットボールだ。
「せっかくだから弱い魔物は魔法で倒して行こうか」
魔法もスキルと同じく熟練度で新たなモノを習得していく。こういう時に覚えていった方がよさそうだ。
マサヒコは風の魔法で、アリスは火の魔法でそれぞれ、攻撃。ステータスの【魔法力】が高いせいだろう、6体ものラビットボールは一瞬で全滅した。
「ナンカ魔法とか久しぶりに使ったけど、超威力上がってね?」
アリスの火魔法【ファイア】は半径10メートル以内の任意の場所に炎を発生させる魔法。今までは小さなタキ火程度だったのだが、先ほど使ったら高さ3メートルはあろう大火となった。
マサヒコの風魔法【ウィンドカッター】はカッターで切る程度の威力だった。それがスッパリ魔物を真っ二つにした。
「ウン、魔力が高くなったからだろうね」
アリスに魔法でなく弓を勧めたマサヒコだったが、コレなら魔法を勧めても良かったのかもしれない。
地下1階は、さすがに出現する魔物は低ランクばかり。ラビットボール、大ナメクジ、ウォーキングフラワなど。
マサヒコの風魔法やアリスの火魔法で簡単に倒せた。
アックスが【迷宮】は魔物との遭遇頻度が高いと言っていたが確かにその通りだった。
通路にいきなり、魔物がワいてくる。
いきなり前後を魔物にハサまれたコトもある。
しかも【迷宮】という名前だけあって中は複雑な迷路になっていた。とこどころに金属製の黒いドアがあって小部屋もある。
たまに宝箱もあった。金属製の箱で上部のフタが弧を描いている。もう見るからに宝箱。
最初宝箱を見つけたときはテンションが大いに上がった。
「あ、開けてみよう。イイかい、開けても?」
興奮するマサヒコ。何が入っているか、ドキドキワクワクである。
「んっ。イイじゃね」
アリスはそれほどテンションが上がった様子はなかった。
宝箱の中に入っていたのは金属製の長剣。持ってみると重い。
「えーと、どうするか?」
マサヒコは困った。
剣など貰っても困る。魔装と違って普通に重いし、消したり出したりもできない。
「売ったらイイんじゃね?」
「そうだねえ」
期待した分だけ、ガッカリ感があった。
とりあえず【ギルドカード】に収納。冒険者ギルドで聞いてみたらイイだろう。
宝箱はほかにもあったが、中に入っていたのは金属の兜だとか、粗末な服だとか、木製の盾だとか。とにかく使えないものばかりだった。
たまに他のパーティに会った。
軽く会釈して通りすぎる。ギルドで見かけたことがあったり、無かったり。少なくとも親しく情報交換するような相手とは会わなかった。
魔法をガンガン使っていたおかげだろう。
フタリとも新たな魔法を覚えた。
マサヒコは風魔法の【エアウォール】。遠距離攻撃を防ぐバリアを張る。
アリスは火魔法の【ファイアボール】。最大30メートルの距離に火の玉を飛ばす。
やがてフタリは青い金属扉を見つけた。
「青い金属扉は『フロアボスの部屋』。その先に次のフロアに降りる階段があるんだよ」
「ボス? 強いの?」
「まー、まだ地下1階だから弱いと思うよ。このフロアに出現した魔物が全部Fランクだったから、その上のEランク。大ネズミとかじゃない?」
「弱っ。ラクショーじゃん」
「でも、まー、油断しないようにしよう。ナニが起こるかわからないし」
「アーイ」
ちなみにウルルンには【ギルドカード】に入ってもらっている。以前のキラーアントの時のようにドコカへ行かれると困る。
マサヒコはドアを開けた。
ソコはガランとした四角い部屋。
なにもいないじゃん、と思いながらマサヒコが進むと、いきなり部屋の中央の空中に青いモヤモヤとした光が発生。そこから青いシルエットがあふれてきた。
人型のシルエットが5つ。
シルエットが色づき、魔物が姿を見せた。
灰色のドロドロ人間。まるで、ナニカ強力な溶解液で溶かされカケの人間のような姿だった。
Eランク魔物マッドマンだ。
「うわっ、キモっ」
アリスが顔をシカメる。
「アリス、火が効果的なハズ」
「オッケー」
アリスが早速【ファイアボール】の魔法を使った。
ボーリング玉ほどの火の玉が空中を滑っていき、ノッタリノッタリ歩いてくる泥人間の1体に当たった。
途端に、大きな炎が巻き起こり、魔物を包んだ。マッドマンが溶けて消えた。
「ファイアボール。ファイアボール」
アリスが【ファイアボール】を連発する。
5体のマッドマンは瞬く間に消滅した。
「やっぱ、ラクショーじゃん」
「だね」
部屋の奥にはまた青い扉がある。その先には下へ降りる階段があった。
「これで地下1階フロア攻略だね。休憩する?」
この【階段の間】は魔物が出現しない安全地帯である。十分な広さがあるので、冒険者たちはここで休憩を取ることになる。
「大丈夫じゃね? 余裕だったし」
「まあ、そーだよね。じゃあ、次の階に行こうか」




