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超かわいいけど

 朝、部屋が明るくなってきた頃、アリスは起きた。


 ふぁー、と大きなアクビをする。

 体の中がカッカとするような感じはだいぶオサまった。相変わらず頭が重いし、ノドも痛いが、意識はハッキリしている。

 マサヒコは、と探す。すぐソバにいた。床にヒザをついてベッドに頭を預けて、寝ている。


 その姿にアリスはキュウっと胸が締め付けられた。

 高熱で倒れている間のコトはウロ覚え。

 チョクチョクと水を飲ませてもらった気がする。アトお姫様ダッコをしてもらった気がする。

 ずっと座っててくれた気がする。いつ目を覚ましても、座ってて手を握ってくれた。


 ヤバっ、なんでまた泣いてんの。

 アフれてきた涙をヌグう。

 もともと、こんなに泣く方じゃなかった。

 コッチの世界に来る前に泣いたのなんて、志望していた私立高校に行けなかったとき。それにウッチーに殴られたとき。


 だが、そういう悔し涙とはまったく違った。ウレしくて、泣けるのだ。


 アリスはマサヒコの頭をソっとナデた。

 好きがアフれてくる。

 自分のコトを大切にしてくれる人がいるというコトが、こんなに幸せなコトだとは思わなかった。


 そっか。ウチ、ずっとこういうの探してたんだ。


 今ハッキリと分かった。両親から大切にしてもらった、その自覚が無くて。もうそんなコトはムリだとアキラめて、ほかを探した。

 だから、彼氏を5人も作った。きっと、いつも期待していたのだ。大切にしてほしい。特別だと言ってほしい。宝物のように扱ってほしい。


 アリスはマサヒコの頭に口づけした。

 やっと見つけたよ。ウチの王子様。


 すると、マサヒコの体がビクっと震えた。

 それから頭を上げて、アリスを見上げる。


「ゴメン、寝てた」


「ウウン、アリガト」

 アリスはマサヒコに抱き着きたい衝動をかろうじて押さえた。抱き着いて、その寝ボケ顔にキスの雨を振らせたい。


「顔色、だいぶイイね。熱はどう?」

 言ってマサヒコがアリスの額に手の平を当てる。


 アリスはマサヒコの手が触れたところがジンジンと熱く感じた。なんだか、ソレだけで目がウルんでくる。


「ウン、だいぶ下がってると思う。トイレは大丈夫?」


 アリスは言われて急に尿意を覚えた。

 ヤバっ、漏れそ。


「トイレ、行く」


 ベッドから抜けようとすると、トタンに力が抜けてしまった。床に落ちそうになる体をマサヒコが支える。

 ふぎゃっ、とアリスは心の中でウメいた。

 せっかく引いた熱がブリ返したように体が熱くなる。

 今度はナンカ鼻血出そうだ。


「ムリして動かない。体力が落ちてるんだから。俺の首に捕まって」


 言われた通り、マサヒコの首に手を回す。ナンダカ知らないが目から涙が出そうだし。鼻から鼻血が出そうだ。オシッコも漏れそうだし。


 ヒョイっとマサヒコに抱き上げられる。

 お姫様抱っこ。


 ハっ、ハア、コレ、ヤバいじゃん。

 こんなん、ヤバすぎじゃん。


 マサヒコはアリスの興奮などまったく気づかず、スタスタと廊下を歩く。まだ早朝のタメ、ほかの住人とスレ違うことはなかった。


 トイレの前でアリスは降ろしてもらった。

 ヨロヨロとトイレに入る。オシッコをしながら、なんだかもうイロイロとヤバくて、体がクネクネとなった。

 そして、手を洗うとき、鏡を見て、今度は、ちゃんと声が出た。


「ふぎゃっ」


「アリス。どうした? 大丈夫か」

 マサヒコが廊下から声をカケる。


「だ、大丈夫。なんでもないから」


 鏡に映る顔はメイクボロボロ、髪ボサボサ。目は充血してて、クマもあり。

 こんなんでお姫様抱っことか、ない。


 最低限、メイクを直そうと思ったが、【ギルドカード】を持ってきていない。コスメセットも【ギルドカード】に入れているのだ。


「本当に大丈夫? 俺、行った方がイイ?」

 マサヒコの心配そうな声。


 アリスは、ハア、とタメ息をついた。

 考えてみれば、とっくにスッピンも見せている。怯(ひる)むことはない。

 だいたい、自分がダウンしている間、マサヒコはもうずっとこの顔を見ていたのだ。今さらも今さらである。


 ちょっとテンション下がってトイレから出ていく。


「大丈夫?」


「ウン、ゴメン」


「じゃあ、また首につかまって。抱っこしてくから」


 アリスは一瞬躊躇(ちゅうちょ)した。この顔を間近で見られるのは……。

 だが、お姫様抱っこの誘惑はイカンともしがたし。


 結局、アリスは欲望に負けた。

 お姫様抱っこ。歴代の彼氏がそんなコトをしてくれたハズもなく。

 少なくとも物心ついてから、そんなものをしてもらった記憶もない。


 マサヒコはまたしても軽々とアリスを抱き上げた。痩せているのに力持ちだ。


「あのさ。ウチの顔、汚くね?」

 マサヒコの胸に顔をウズめるようにして言った。


「なんで? 超カワイイけど」


 だから、ホストかよっ。

 アリスは心の声で突っ込んだ。マサヒコはサラっと甘い言葉を吐いてくる。天然か。天然のホストなのか?


 ベッドまで運ばれた。

 しかも、そのアト、おカユを食べさせてもらった。

 スプーンを一口一口運んでもらった。

 幸せすぎて死ぬんじゃないかと思った。


 久しぶり固形物をトったせいか、急に眠くなった。

「マサヒコ、マジ、休んでて。ウチ、だいぶ楽になったし」


「ウン? でも、なんだかんだで、俺もケッコー、寝てたし。大丈夫だよ」

 優しく笑って言った。


 アリスはその笑顔をまぶたに焼き付けて、目を閉じた。

 マサヒコがソっと手を握ってくれる。

 ヤバっ、また泣けてくんじゃんか。


 マサヒコの手のヌクモリが、幸せすぎた。

 ただ手をつないでいるだけのなのに。


◇


 昼にはアリスの熱もだいぶ下がった。

 食欲もしっかり戻り、おカユ(昨日の夕食分)を完食。


「そういえばウルルンは?」

 アリスは猫型乗魔(ネコガタジョーマ)の存在を思い出して言った。


「あー、アリスを起こしそうだったから、【ギルドカード】に入ってもらってる。そろそろ出しても大丈夫かな」


「マジっ? 出して、出して」


 マサヒコが【ギルドカード】からウルルンを出す。頭が大きく胴が長い手の平サイズのトラジマ猫は、キョロキョロと周囲を見回し、ベッドの中のアリスを見て、マサヒコを見る。

 そしてベッドに飛び乗った。


「おー、ウルルン、ゴメンよぉ」

 アリスが指でウルルンを構う。


 マサヒコはソレを微笑ましくナガめていた。

 アリスが元気になって良かった。考えてみれば、自分が看病するガワになるコトなど今までなかったのだ。世話を焼く方になると、その大変さを痛感させられた。


「今日一日は大人しくしててね。キチンと熱が下がるまではさ」


「アーイ」


 そんなワケで午後もアリスはベッドの中。マサヒコはベッドのカタワらでシュマホー読書にイソしんだ。

 ときどき、思い出したようにフタリで話した。他愛のない話。だが、ちょっとしたやりとりがお互いに心地よかった。


 やがて、夕食時。

 マサヒコはヒトリ食堂に行って手早く食事を終えると、アリスの分をオニギリにしてもらった。ソレを持って部屋に戻る。

 途中、アックスからまたメールが入っていたので、アリスが回復したことと、あらためて礼を述べた。


 夕食もアリスは完食。その後、シャワーを浴びたがった。


「じゃあ、一緒に行こうか。抱っこしていこうか?」


「ウン」


 あのアトもトイレのたびにマサヒコに抱っこしてもらった。実はもうゼンゼン歩けるのだが、お姫様抱っこの甘美さにマイってしまった。もう甘えまくりである。


 マサヒコはもう慣れたもので、サっ、とアリスを抱き上げた。アリスはマサヒコの首に手を回しギュっと抱き着く。


 あー、もう、なんかイロイロ満たされるぅ。


 スッカリ癖になってしまった。


 さすがに何人かの住人とスレ違った。

 冷やかしの声もある。

 だが、マサヒコはソレらを完全にスルー。

 逆にアリスの方が照れクサかった。


「ゴメン、恥ずかしくなかった?」


「ちょっとはね。でも、アリスの体のコトを考えたら、どうってことないし」


 もう、ゼンゼン歩けるんですけどぉ、とはとても言えないアリスであった。


 女子シャワー室の前で降ろしてもらう。


「じゃあ、俺、先に出て待ってるから。気にしないでゆっくり浴びてきなよ」


「アリガト」


 アリスはイイ気分でシャワーを浴びた。

 彼氏に優しくしてもらってスッカリご満悦。自尊心満たされまくり。

 それにしても、ウッチーやカズのようなクズ男に彼女ができて(フタリともアリスが初めてではなかった)、マサヒコが童貞だったとか、アリスには意味が分からない。


「みんな見る目なさすぎじゃね?」


 まあ、2人とほいほいツキアったアリスが言うことでもないが。


 シャワーを浴びたアト、さすがに今夜はもうメイクをする必要は感じず(それでも一瞬迷った)シャワー室を出た。

 マサヒコが壁にうっつかってシュマホー読書をしていた。


「お待たせ」

 シャワーを浴びてサッパリすると一気に体調の悪さがフっ飛んだ。

 久しぶりに着替えられたのもデカい。


「ちょっと待ってて。先に洗濯のセットをしてくる。着替え、出してくれる?」


「えっ、ウ、ウチも行くし。ていうか、自分で入れるから」

 さすがに丸3日間も着替えていなかった下着を見られるのは嫌すぎる。


「でも、疲れてない?」


「大丈夫、すぐソコじゃん。待ってんのとあんま変わんないし」


 アリスが強固に言い張るのでマサヒコもそれ以上、言うこともなかった。アリスの体を支えながら(実際、問題なく歩けるのだが、アリスは甘えていた)、洗濯室へ。

 そこで洗濯機に洗濯物をセット。


「じゃあ、部屋に送ってくよ」


「ウン。また、抱っこしてくれる?」

 上目ヅカいに言った。お姫様抱っこが、もう病みつきになっている。


「イイよ。ほら、首に手を回して」

 マサヒコはそんな甘えん坊のアリスがカワイくて仕方がなかった。


 部屋にアリスを置いたマサヒコは、また洗濯室へUターン。長椅子に座って洗濯が終わるのを待つ。


 すると、水色の髪のグラマー美人が入ってきた。センパイ冒険者のロミナだ。アリスの友達でもある。


「アックスから聞いたよ。アリス、大丈夫?」


「ウン、今日の昼くらいからだいぶ調子が戻ってきて。今もシャワーを浴びたところ」


「そっか。良かった。風邪だってナメちゃいけないからね。特にポーションばっかり飲んでるようなヤツは、抵抗力が弱くなっちゃって、風邪でも命を落とすことがあるんだって」


「そーなんだ。だから、神殿でポーションを出してくれなかったんだ」

 そんな理由があるならナットク。今さらながら、マサヒコは神殿で診察してくれた老婆に心の中で礼を言った。


 それからしばらく、マサヒコはロミナと雑談した。最近の冒険者事情やほかのパーティたちの動向など。

 そこでマサヒコは、マリアのコトを思い出した。イイ加減にそろそろ帰ってきていないとオカシイのだが。


「そういえば、ロミナ、俺たちと同じくらいにここに入った、マリアって子、知ってる。えーと、Bランクパーティに拾ってもらったみたいなんだけど。えーと青いキレイな髪の女の子で」


「あー、『鋼の風』に入った子よね」

 ロミナが言った。


「そう。ケッコー前に遠くへ遠征に行ったみたいなんだけど。まだ帰ってないのかな?」


「確かに最近見ないね。あの子。でも、そんな何日もカカるなんて、どこまで行ったのかしら。Bランクなら【ゲート】も通れるから、ヒョットしたら他国まで行ったのかも」


「そんな依頼もあるんですか?」


「Bランク以上になるとね。どこも上位ランカーは不足してるもの。冒険者ギルドは国を超越した組織だから、冒険者の貸し借りもあるのよ」


 そんな大変な依頼、マリアは大丈夫なんだろうか、と逆の意味で不安になる。


「コラ、少年。ほかの女の子のコト、そんなに気にしてちゃあ、ダメじゃない」


「ダメかな」


「そーよ。恋人はアリスなんだから。よそ見してたら、愛想つかされるわよ」


「ソレは困る」

 もはやアリスと別れるなど、想像もできない、したくない、マサヒコだった。

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