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第七話 山の麓の町のとある物語 その4

一章は前振りや設定的な部分が多いのでサラッと読み流していただければ幸いです

「バカもんが!」


 ユウサイは帰ってくるなり、開口一番、カズヨシを怒鳴りつける。


「お前は自分がどれだけ危ないことをしているかわかっとるのか!」

「……いえ」

「いいか、わしらの顔立ちはこの土地の人間とは根本的に違う。これがどういう意味になると思う」

「変な風にみられる、とかですか?」

「ふん、そんなもんで済めば運がいいわ。ワシは旅の最中、悪魔とののしられ、時には命を狙われたぞ。ワシの目が届く範囲であれば、お前を守れんことはないが、勝手に動き回られればワシにはどうすることもできん。わかったか!」

「……はい」


 カズヨシはうなだれ、こんこんと続くユウサイの怒号を耳にする。


 ユウサイは決してカズヨシが憎くて怒鳴っているわけではない。それをわかっていたからカズヨシもまじめに説教を受けていた。


 しばらくユウサイの説教が続き、終わって夕食の支度をする間も少し気まずい雰囲気が二人に立ち込める。


 今晩の夕食は蛇肉の串焼きとパンであった。この世界の食事で蛇肉はそれなりにカズヨシの鉱物であったが、怒られた後ではまともに食事を楽しむことができなかった。


「今日はどうして黙って町に行ったりしたんだ?」


 気まずくなったのか、ユウサイが口を開く。


「え、」カズヨシは委縮しきって言葉に詰まってしまう。


「別にもう怒っとらん。それよりも答えんか」

「……本が読みたかったんです」

「本?」

「はい。昨日、図書館を見つけて、それでいってみたくなったんです」

「ほう、で、どうだった?」

「まだほとんど読めませんでした」

「ま、だろうな」


 ユウサイは嘲笑を含めながら当たり前だと椅子の背もたれに体重をかける。そして水の入ったグラスを手に取り、ごくごくと飲み始める


「で、でも、……友達ができました」

「なっ、」


 カズヨシがそういった瞬間ユウサイが信じられないというように目を見開き、飲んでいた水がきかんに入り、激しくせきこむ。


「ちょ、大丈夫ですか」

「いや、お前、今なんていった」

「友達ができました」


「はぁー」と、ユウサイは驚きを隠せずあんぐりと口を開け、間抜けな声を出す。しかし、すぐにその表情はいつものような余裕のある表情に戻るも、少しだけ口角が緩んでいた。


「その友達ってのどんな奴だ?」

「女の子です。寝てたら向こうから話しかけてきて、文字の読み書きを教えてもらいました」

「ほう、女か。それで、かわいかったか?」

「ちょ、急になんですか!」


 ユウサイはますます口角を緩め、まじまじとカズヨシに詰め寄る。顔を赤らめ、恥ずかしがるカズヨシを愛おしく思うがゆえの行動なのだろう。


「ま、何はともあれ、そうか、友達ができたか。これはワシも祝福してやらねばなるまい」


 そう言ってユウサイは少しの間緩み切った表情のまま目を閉じ、考え込み、「よし」と声を上げる。


「これからは文字の読み書きはその娘に教えてもらえ。それと、いろんな人間と話す努力もしてみろ」

「で、でも、師匠の話じゃ、僕は……」


 先ほどのユウサイの話がカズヨシの脳裏を横切る。


「そうだな。そこで、」


 そういうとユウサイは席から立ち、物置棚から一枚のトランプほどの紙きれを取り出す。その紙切れには何か、幾何学的な文様が描かれている。


「こいつが何かわかるか?」

「いえ」

「こいつはな、簡易版魔法陣、またの名をスクロールと言ってな、だれでも簡単に魔法が使えるようになる」

「へえ、なんかすごいですね」

「ただし、効果は一回。それに紙に書かれた魔法以外は使うことはできんし、結構値が張る。こいつ一枚でいくらすると思う?」


 ユウサイに尋ねられ、カズヨシは町でのいろんな商品の相場や、ユウサイからもらった情報をを思い出す。


 金貨、銀貨、銅貨の価値の比率は、一対二五対四百。ひと月金貨一枚でそれなりに裕福な暮らしができること。食材なんかは銅貨数枚で購入できることなどを考慮し、自分なりの価値をつける。


「銀貨一枚くらい?」

「あー残念。正解は金貨一枚だ」

「えええ!、うっそだぁ。そんな紙切れ一枚に金貨一枚って、誰も買いたがらないでしょ!」

「それがそうでもないんだわな。カズヨシ、この世界に魔法が使える人間って何人に一人だと思う?」

「え?。うーん、街ではちらほらいたような気がするし……五人に一人くらいですか?」

「ハズレだ。正解は十五人から二十人に一人といったところだ。そんでもって魔力とともに魔法陣を紙に残せる人間はもっと限られる。それに加えて、貴族連中なんかは防衛のために少々値が張っていてもスクロールを欲しがる。農民でも魔法を用いて野菜を育てるほうがはるかに効率がいいから規模がそれなりのところじゃ、金貨数枚をはたいてでも野菜を売りさばけば採算が十分に取れる」

「なるほど……。で、そのスクロールで何するんですか?」

「お前の存在を少しいじる」


「……は?」ユウサイの言葉の意味がよくわからず声を出す。


「まあ、正確にはお前の兜に少し細工する。お前が兜をつけることは普通のことだと町の連中に思い込ませる幻術をかけるんだ。ワシのキツネ面にも同じようなものがかけられている」


 そう言ってユウサイはカズヨシの兜を持ち出し、スクロールを掲げる。すると、スクロールを消えるとともにカズヨシの兜に光がまとわりつく。そしてその光はしばらくすると消え失せ、あたりには何もなかったかのように静寂が残る。


「これで良し。後は、」


 ユウサイはまたも物置棚から何かを探し出す。今度は封筒のようだ。


「これをもっておけ」

「なんですか?」

「中に住民証が入っとる。何かあったとき役に立つだろう」


 ユウサイに渡され、封筒の中身を確認する。中には厚紙にカズヨシの個人情報が記入された住民証とそれに関する誓約書などが入っていた。


 それからユウサイは席に戻り、食事を再開する。食事の最中、カズヨシに町でのこまごまとしたルールーを教える。そこからは特に何かあるわけでもなく、食事のあとは日課である剣の修行を行い、フロに入り、一日を終える。のであった。


次回の投稿は明日の10:00ごろです

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