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第六話 山の麓の町のとある物語 その3

遅れてしまい申し訳ありません……


一章は前振りや設定的な部分が多いのでサラッと読み流していただければ幸いです


「カズー。ゲームしようぜ」


 何だろうと前を見る。そこには小学校の友人が自分の部屋で携帯ゲームを片手に自分に声をかけていた。


「うん」


 そう言って自分のゲーム機を探す。しかし、それはどこにもなく、なくしてしまったと、焦り、泣きそうになる。


 そんな自分を友人は笑いながら眺める。やがて友人の声は遠くなり、ゲーム機は見つからないままいつの間にか一人ぼっちになっていた。


「どこいったの……?」


 どこを探しても見つからない。やがて自分すらもどこにいるのかわからなくなり、底知れない恐怖に襲われ、大粒の涙が零れ落ちる。


 そこで夢は終わった。



 遠い記憶。夢の中で話しかけてきた彼の友人の名はトシユキ。カズヨシが小学校にいたとき、もっとも仲が良かった友人の一人であった。


 今となっては合うこともかなわない。少し悲しい気持ちになるも、カズヨシはその夢をすぐに忘れ自分が寝てしまっていたことを確認する。


「ねえ」真横からかわいらしい声が兜に響く。


 周囲を見渡すと右隣に鼻のそばかすが少しだけ目立つも、大きなきれいな青い瞳をしたウェーブのかかった金髪の少女がいた。


「ハ、ハイ!」


 緊張して少し裏返った声が出る。


「ヨダレ、垂れてるよ」


 そう言って少女はハンカチを差し出す。


「キ、キニシナイデ」


 カズヨシは片言の現地の言葉で対応し、兜から垂れるよだれを袖で拭う。そのしぐさを見て少女はクスクスと笑う。


「ナンデスカ……?」

「ふふ、変なしゃべり方。どこか別の国から来たの?」

「ソ、ウデスネ」


 別の国、ではなく別の世界なのだが、自分が奴隷であることを悟られないために嘘をつく。


「なんで兜つけてるの?」

「ボクノカオ、アマリ、ミセタクナイ」

「恥ずかしいの?」

「ハイ」

「ふーん。ねえ、読み書きの勉強してるの?」


 少女は語学書を指さし、飴玉のように透き通った目で兜の中をのぞき込もうとする。


「少し前まで私もそれで文字の読み書きの練習してたんだー。だからちょっとくらいならおしえてあげよっか?」


 そう言って少女はカズヨシの向かい側に座り込む。そしてカズヨシの開いていたページから丁寧に読み上げ、カズヨシに教え始めた。


 カズヨシは断ろうかとも考えたが、その前にはじめられ、断るに断れなくなり、そのまま、なし崩し的に小さな教師をつけることとなった。


 ユウサイの発音は現地人とそん色ないレベルではあったが座学における教育はそれほどうまい部類ではなかった。カズヨシが熱心に付き合い、何とかここまでになってはいるが、やはり上達は遅い。しかし、少女の教え方は教本にのっとっている分、要点が抑えられており、また、発音も美しく、それなりにわかりやすいものであった。


「アノ」ふと、少女の顔を見る。


「ナンデ、コンナコトシテクレルンデスカ?」

「迷惑だったかしら?」屈託のない純粋な表所で不思議そうに小首をかしげる。

「イエ、ソウジャナクテ……」

「たまたまあなたが変な兜をつけてたから、たまたま私の目についたの。だから教えてあげてるの」


 少女は自信気に胸を張り、「エッヘン」と続いて口にする。


 カズヨシには少女の考えがとんとわからなかったが、これ以上聞いても何かあるとは思えなかったため、おそらくこの少女は暇だったのだろうと結論づけ、それ以上尋ねはしなかった。


 それからそれなりに時間がたち、お互いに何でもない会話を交わすようになったところで日が傾き始めていた。


「そういえば、あなた、なんていうの?。私はエリナ!。エリナ・マーガス!」


 少女は元気よく名乗りを上げる。


「ボクハ、カズヨシ・ヒラノ、デス」

「そう。これからよろしく!。カズヨシ。それじゃ、またね!」


 そういうとエリナは満面の笑みで手を振り、その場から走り去っていった。その姿をカズヨシは見えなくなるまで目で追い続けた。


「マタ、ネ……」


 この時、自覚はなくともカズヨシはエリナにひそかな恋心を抱いていた。思春期に入り始める年ごろではあるため、異国の少女に優しくされては恋に落ちるのも無理はないことであろう。年ごろの少年の心というのは非常に単純なのだ。


 エリナが去り、少しの間物思いにふけると、途端に我に返り、本を元あった場所に戻す。あわただしく図書館を出て山の入り口に向かって走り出す。その途中のことであった。


 何やら遠くのほうから歓声が上がり、荷馬車の音がゴトゴトと大きな音を立てて彼のいる方角に近づいてきていた。


 幸い、この時間からであれば陽が沈む前に山小屋に戻ることができる、そう考え、好奇心の赴くまま、カズヨシは音のもとへ向かう。


 音が大きくなるごとに人だかりができていき、まるで祭りのようである。カズヨシは人ごみの中をその小さな体で器用にすり抜けていき、最前列にたどり着く。


 そこには山道から続く巨大な蛇の死体が何台もの荷台によって運び込まれていた。そして、そのヘビにカズヨシは見覚えがあり、蛇の前を先行する人物にも見覚えがあった。そしてその人物はカズヨシと目が合い、それと同時にずかずかと歩み寄ってくる。


 慌ててその場から立ち去ろうとしたが首根っこをつかまれてしまった。


「おい、なんでここにいるんだ」


「え、えっとお……」カズヨシは目をそらし、言い訳を考える。しかし、そんなものはない。


「ったく、帰ったら説教だぞ」


 そう言ってユウサイは先ほどの位置に戻り、役場に向かった。


 去っていくユウサイをしり目にカズヨシはうなだれ、とぼとぼと山を登るのであった。



次回は本日の22:00ごろの予定です

ブクマとかしていただけたら作者の励みになります!


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