第九話 山の麓の町のとある物語 その6
一章は前振りや設定的な部分が多いのでサラッと読み流していただければ幸いです
「ボク、マホウつかえない……」
カズヨシは魔法の存在を知るや否や、真っ先にユウサイのもとで魔法の発動を何度も試みていた。しかし、一向に魔法が使えるようになる気配はなかった。
そのため、魔法に対しては一種の劣等感を抱いていた。その代わりに、魔法がなくともユウサイは魔法にも勝るとも劣らない剣術を駆使していたため、自分はその技を受け継ぐのだと躍起になっていた。
「別に使えなくたっていいわよ。魔法が使えなくたって魔法院で魔法学の先生をしてる人だっているし」
「マホウイン?」
「あら、聞いたことないの?。首都にある大きな魔法専門の学校のことよ。あそこでこの国の主だった魔法技術が開発されてるの。んでもって、そんなところだから魔法使いには困らないの。だから自分が魔法を使わなくちゃいけない必要なんてないのよ。使える人間にやらせればいいんだもの」
「デモ……」
「そうねえ、あなたは魔法院には興味ないでしょうね。でも私は行かなきゃいけないの」
そう言ってエリナは人差し指を魔導書に向ける。すると魔導書は淡い光を帯び、宙に浮かび上がった。その光景に思わずカズヨシは感嘆の声を上げる。
「いってなかったけど、あたし、魔法使いなの。だから将来的には魔法院にも行かなくちゃいけないの」
自信気にエリナはどや顔を決めると続けて口を開く。
「これまであんたの勉強に付き合ってあげたんだから今度はあんたがあたしに付き合いなさい!」
エリナの横暴な態度に反論しようとカズヨシは口を動かすが、舌が回らず噛んでしまう。いまだ、ネイティブと口論ができるほど口は回らないのだ。
仕方なくカズヨシはエリナに引っ張られ、ともに魔導書を読むことになるのであった。しかし、
「えー、なにこれ……」
「センモンヨウゴ、おおいね」
二人は顔をしかめ、開いた魔導書の内容にたじろぐ。
「モット、カンタンなの、ナイカナ?」
「そ、そうね……」
エリナはバツが悪そうな顔をして本から目をそらす。
すぐさま本を元あった場所に戻し、別の魔導書を二人は探し出す。そして数冊のよさげなものを机の上に広げる。
「猫でもわかる魔法学、猫は文字読めないし分厚い。魔法の絵本、絵本はこんなに文字おおくない。よくわかる基礎魔法学、よくわかんない。……何よ、どれも難しくて読めたものじゃないわ。表紙詐欺もいいとこね」
エリナは手に取った本を片っ端から否定し続ける。結局どれもいいものがなく、最終的に一番薄い百ページほどの入門書を読むことにした。しかし、やはり内容が半分も頭に入ってこない。エリナもカズヨシも船をこぐ始末である。
そうこうしているうちに日が傾き始めるのであった。
「あー、もうこんな時間かぁ……」
そう言ってエリナは席を立ち去ろうとする。
「あ、そうだ。明日は私、来れないわよ。じゃ、またね」
エリナは一言カズヨシにそう告げると走って出て行っていってしまった。エリナが図書館に来る頻度は週に三回から多い時で五回程度である。エリナにも予定があるのだから仕方がないのではあるが、それでもカズヨシはエリナと一緒にいたいと日を重ねるごとに思いを募らせて、もしかすると、と淡い期待を寄せながら毎日図書館に通っていた。。
エリナが去ったのち、カズヨシも帰ろうと魔導書を元あった場所に戻そうと視線を移す。
しかし、魔導書を手に取ったとき、カズヨシはふと思う。この本を自分が先に理解しておき、それをエリナに教えてあげればエリナは自分のことを好きになってくれるのではないか?と。いや、そうに違いない。そう思い、カズヨシは受付で住民証を見せ、魔導書をカバンにしまい込む。
実際にエリナの心がそれほど単純なのかははなはだ疑問ではあるが、恋は盲目。カズヨシは寸分の疑いもなくそう信じ込むのであった。
その後、山小屋に戻り、食事中にはしを片手に魔導書の解読を試みる。
「魔導書とは、また変わったもんを借りてきたな」ユウサイは眉を顰め、本をのぞき込む。
「し、師匠には関係ないです!」
そう言ってカズヨシは魔導書を抱え込む。その姿を見てユウサイは何かを察したかのように口角を上げ、鍋をすする。
カズヨシがこのような態度をとるのは初めてのことであったが、最近、彼が恋をしたことを察していたユウサイはすぐにカズヨシの浅はかな魂胆が読めた。
「お前は存外、見栄っ張りよな」
カズヨシはいまいちその言葉の意味が理解できなかったが、それ以上ユウサイは何もしゃべらなかった。
その晩は結局、ほとんど読めずに修行に入り、疲れて風呂に入って眠りこけるのであった。
翌日、顔を洗い、恒例のマラソンを終え、修行を終え、昼食を終え、山を下る。
最近は目標のタイムには届かないが、一人でもなんとか一定のペースを保って降りれるようになったためユウサイがついてくることはなくなっていた。
カズヨシの何一つ変わらない日課である。しかし、その日は少しだけ違った。
次回は22:00ごろのよていです
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