デブ男との決着
僕と来栖は、あのデブ男と戦うことを決めた。
でもさ、そのためには奴とまた会う必要があるんだ。
だから自分たちから探しに行くことにして時間が空いたら街中をうろちょろしてみたよ、そんで見つからなかった。
そんな無駄時間が数日間。
……無暗に探しても見つかるわけないだろ馬鹿か。
と自分でも思う、なんであんなに無策だったんだろう?若いからか?
まぁでも、今は無策じゃない。
"デブ男の行き先を予想する"っていう作戦を思いついた。
さて、その作戦を実行するため僕と来栖は、始めて出会った公園のベンチで作戦会議をしていた。
「えーっと、まずあの男の行き先と言ってもどこでしょうか」
「そりゃあ……どんな人を襲ってるのか調べればいいと思いますよ」
僕は事前に印刷しておいた資料を取り出す。
無駄時間の間に桜木さんに頼んで作ってもらっておいた、デブ男情報をまとめた冊子だ。
「うお、なんですかそれ?」
「最近こういうの作るの得意な知り合いが出来たんですよねー」
もちろんこれにはヤツの被害者や、出現場所についても載ってる。
奴がただ無作為に人を襲うようなヤツならこの情報をもとにしたって意味ないかもしんないけどね。
……とりあえず被害者リストを見てみよう。
来栖の父と母、そして僕の父と母が載ってる。
他にもたくさんの名も顔も知らぬ人が載ってる。
ほとんどが二人ずつ殺されているみたいだ。三人や四人はたまに。
「……うーん、情報が歯抜けですね」
「そうですね」
桜木さんのまとめた資料は"不正確な情報"という注意書きがあちこちにされてる。
いくつかあのデブ男がやった可能性が低いという記載のある事件もあった。
たぶん確証が持てる情報がしっかり集まらなかったからなんだろうけど、コレをもとに作戦を建てるのはまずいかもしれない。
参考程度にとどめておこう。
「でも二人ずつ殺されるっていうのはヒントになりませんか?」
「……たしかに、もしかして恋人や夫婦等を狙っているんですかね?」
来栖の発言はたしかに納得がいった。
二人ずつ殺されてるって事はたぶんあのデブを探すヒントになる。
しかし、二人ずつが多いってなんでだろうな?
ずっと二人ずつやってんならともかく、三人やったりしてていまいち規則性が無いんだよな。
うーん、なんだろう?ふと一つ思いついた。
とりあえず来栖の帰宅時間を聞く。
「学校からの帰りにいつも体育館とかでスポーツして帰るから午後9時くらいですね」
そして、僕があの男と会った日の帰宅時間は午後9時くらいだ。
桜木さんの話を聞いたりしてたから遅くなった。
……午後9時くらいに帰宅した二人が、どっちもあのデブ男に鉢合わせしてる。
もしもこれが偶然じゃないなら、あのデブ男は毎日の行動を結構規則的にやってる可能性がある。
いやたぶん規則的にやってる、だから被害者は基本的に二人なのだ。
確証は無いが、あのデブの行動パターンはこういう感じだと思う。
まず人間が二人いる家を見つける、その後夜遅くになってから押し入って二人を殺して食べる、もしも食べている最中に家に帰ってくる人間がいたらそいつも殺す……というのが大まかなパターンだと思う。
ちなみになぜ"二人いる"家に押し入るのかは、あのデブと戦った僕にはわかる。
三人いるならどうにかあのデブは取り押さえられるかもしれない。
一人しかいないなら、あのデブは腹が満たしきれない。
だからあのデブにとっては、襲うのにちょうどいいのが二人組なのだ。
おそらく殺されている人間がたまに三人になる理由は、ヤツの犯行現場に鉢合わせてしまった人が殺されるから。
たまにいる夜遅くに帰って来る人間が殺されているのだ、先日あいつに襲われた僕のように。
今思いついた多くの事を僕は来栖に伝えた。
「なるほど、そういえば私たちは色々探していたが、あいつは拠点でも持ってるんじゃないのか?」
「え?」
来栖も色々考えていたらしく僕の予想だにしてない事を言った。
「あんな奴往来では目立つし、普段はどこかで身を潜めているんじゃないのか」
「……ぁ!」
こんな簡単なことにどうして気づかなかったのだろう?
デブ男が常に外を出歩いているわけではない、むしろ犯罪者なんだから移動の時間以外は大人しくしてる可能性は高い。
例えば、デブ男が殺して真の持ち主をなくした家の中とか……
そして翌日、僕らは学校をサボってあさっぱらから探す。
とりあえず事件が起きた周辺地域をうろちょろうろちょろ、もしもあいつが拠点を構えているならここら辺だろう。
探していたら、桜木さんと会った、寝坊して学校に遅刻してた。
まあ、それはどうでもいい話なのだが。
彼女は"それ以上調べるな"とメールが届いているのを見せてくれた
「いったいどれのことかわからんが、私は意外とヤバいものを調べてるってことだろ?」と嬉しそうだった。
頭おかしいんじゃないかあの人?
そんなこんなで、桜木さんと別れて来栖と一緒にまた探す。
そしてだいぶ時間がたった。
道端で僕たちは疲れ果てて立ち尽くす。
「……だいぶ時間がたったけど、見つかりませんね」
来栖が言った。
「まーたぶん、向こうはあんま動いてないですし」
僕が返答する。
一応被害者の家に行ってみたりはしたんだけど、手がかりは無かった。
はぁ……もう夜の9時か……僕と来栖はこのくらいの時間にあの男と鉢合わせしたんだよなー
なんて思っていると悲鳴が聞こえてきた、と思う。
気のせいかもしれないほどに小さい音だった。
しかし来栖も聞いていた、これは本物か?
僕たちは走る、悲鳴のもとへと。
悲鳴のしたあたりにたどり着くと、周りに人家のほぼない少し寂寥感のあるところであった。
ぽつんと一軒だけ、小さめの家がある。
そこのドアがぶっ壊れて開いているし、血の匂いがする。
だから迷わず来栖とともに入っていく。
廊下で僕よりも少し小さい女の子があのデブに襲われそうになっていた。
彼女はたぶん中学生くらいか?
デブ男は女の子に今にもとびかからんと追い詰めているが、女の子は怯えて足がすくんでいるのか走って逃げだせない。
……デブ男を挟み、僕らとその少女は対峙した。
彼女は突然家に入ってきた僕らに目で助けを求めている。
あのデブが少女を殺そうととびかかる瞬間は一番油断するはずだ、
なんて来栖に伝える間もなく。
彼女は飛び出していた、デブを殴り飛ばしに行っていた。
僕は少女の向こう側に何か人の死体が見える。
おそらくこの家の本来の持ち主、そこにいる少女の両親。
「なんだお前!?」
デブ男は急に来栖になぐられてふらついていた。
「お願いしますよその子!」
そしてデブ男を取りおさえようとしながら僕に叫ぶ来栖。
どうやら襲われてた中学生の子を助けろという事らしい。
僕も戦いに来たんだけど、無駄に仲間の指示に逆らう程馬鹿でもない。
取っ組み合う二人の横を通り抜ける。
「それじゃあいったん君は外に出ようね」
怯える少女の手をずるずる引っぱって家の外まで出した。
腰が抜けて立てなくなってる。けどまぁここなら大丈夫だろ……
「ごめんね、僕らがあいつ倒すから君は大人しくしといて」
とだけ伝え、僕も戦いへと足をはやめた。
来栖とデブ男の戦いは僕が来たラもう終わってた。
いや待て、早ッ!来栖がもうデブ男を気絶させとる!すっご!あいつ僕が超能力でようやく倒した相手なんだけど!?どんだけ強いの君!?
「あのー!?あのー!?電話線繋がってるのに!」
そして来栖は滅茶苦茶電話に向かって叫ぶ、警察に連絡しようとしてるみたいだ。
デブは壁に気絶してもたれかかる。
そんな状況になっており、僕をひどく落胆させる。
デブ男倒したかったのに知らない間に終わった。
「あのー警察署なんか知らないけど無人でしたよ」
このままじゃ延々と電話しそうなのでとりあえず教えてあげる来栖は驚愕した。
もしかして警察壊滅してるのかもよ?という事を教えたのだから当たり前だ。
「そう?忙しいんですかね?」
けど半信半疑だった。
わかる、僕は実際見たけどアレが見間違いだとまだ思ってるし。
……電話をあきらめた来栖はデブに歩み寄り、僕のほうを見ながら言った。
「意外とスッキリしないものですね、復讐なんて」
彼女は復讐のために戦ったが、殺しまではしなかったらしい。
そんなものなんだろうか?僕は復讐なんてしなかったからわからない。
しかし、「うぐぐぐぐぐぐぐぐ」とデブがうめくのを見ると
やっぱりトドメ刺した方がいい気がする
・・・・・・え?うめく?気絶してなかったっけこいつ
デブは起き上がろうとしていた。
その眼には憎悪が、見て取れる。
「うぐううううううう!」
と起き上がり、来栖に殴りかかった、しかし。
ブン!ブン!ブン!
という空を切る大きな音が鳴る
来栖は平気で全部の攻撃を避けていた。
「なあ、お前」デブ男に来栖は訊ねる。
ブン!
避けるたびに的確に相手の体に攻撃を加える。
「何で殺して食うんだ?」
ブン!
カウンター主体の戦い方だ。
「何で殺さなくていいはずなのに殺す?」
ブン!ブン!ブン!
もう、戦いは飽きた、と言っているような消極的な戦いを来栖はしていた。
そして、来栖はデブ男の腹に蹴りを入れた。
よろけてうめくデブ男。
しかし
「殺してやるうううううう!」
デブ男は自分の腕をかみちぎって食った!そうすると彼の全ての傷が治った!
超能力!?なんでこいつもつかえるんだ!?
などと思考を巡らしているとデブ男は来栖の腕にかみついた。
「ぐあッ!?」
マズイ!このままだと来栖の腕が持ってかれる!
僕はデブ男の顎をナイフで切って口を開かせた。一応ナイフ持っててよかった!
来栖は一旦デブ男と距離を取った。
「止血しといてください!」
僕は彼女に叫ぶ。
「……私が退いたらそっちが危険に」
「どうにかします!」
するとデブ男は悲痛な叫び声をあげて、泣きわめく。
くそ、うるさいな!ばかばかしい声しやがって!笑うぞ!
デブ男は標的を僕に変え殴りかかってきた、助かる、怪我した来栖に向かっていかれるよりは……それに僕はお前と戦いたかったしな。
しかしまぁこいつは単純な動きをしてる、先に攻撃が来ることを身構えていれば簡単によけれる。
僕は集中する。右手に人の首の感触を感じた
攻撃を避けながら、右手のその感触を思いっきり握りつぶした。
デブ男の首から ゴキッ! と楽しい音がして僕の口角は緩む。
人を傷つけるのは決して笑い事ではないはずなのに。
そしてデブ男は倒れ、いや、倒れない。
僕になぐりかかってくる。
強すぎだろ!?首折られてまだ死なないのかよ!?
だがデブ男は僕に攻撃を当てられず空振りし壁を殴りつけた。
その瞬間、壁にバカでかい穴が開く。
・・・・・・は?なんだその威力……?え……?
「うああああ!」
デブ男はめちゃくちゃに腕を振り回し僕に突進してきた。
マズイ、これ殴られたら死ぬ!
「うおおおおおおおお!!」
僕は叫び集中した、脳みそが沸騰して焦げそうな痛みに襲われながら超能力……サイコキネシスを使う、死という恐ろしい存在は僕に絶大な集中力をもたらした。
デブ男の両腕が、ごきりとおかしな方向に曲がる。
そしてすばやくデブ男のひるんだ腹にナイフを突き刺す。
「がああああああ!」
それから何度も何度も突き刺す、突き刺して引き抜いて突き刺して引き抜いて突き刺して。
血しぶきが上がり上がり上がり。
無理やり押し倒して、一気に首を突き刺す。
「あああああああああ!」
再生する超能力をさっき見たが、アレの発動条件とかは正確にわかってない。
もしかしたらいきなり体力全快とかになるかもしれないので油断せずナイフをぶっ刺し続ける。
「ああああああああああああ!」
そうしているとデブ男と僕、どっちが叫んでいるかわからなくなってきた。
でも僕はナイフを刺し続けた。そうでもしないとこっちが死ぬかもっていう理由とはまた別に薄暗い決して許されぬ欲が僕を突き動かした。
何秒も、何分も、そうしていた。
そして、誰がどうして叫んでいるのかまったくわからなくなったころ。
いつのまにか、来栖に羽交い絞めにされたまま。ナイフを振り回していた。
「やめろッ!もう死んだ相手にお前は!」
何か、いわれているので返答しようとするも
「フーッ!」
そんな声と呼べないようなものしか出ない。。
もはや僕の気が狂ったのかデブ男の死体を見て、僕は楽しくなりそうだった。
しかし急に頭の中に映像が流れ込んできやがった。
映像は僕の頭を無理やりこじ開けで、激痛とともに流れ込んでくる。
あぁ嫌だ。
やせ細った少年が、大けがをして震えている、両の手首からどくどく血を
流して今にも死にそうだ。
映像は切り替わる、頭の中でかってに流されてイライラする。超能力に目覚めてからこんなもん見せられるようになって糞が。
やせ細った少年が、泣きながらだれか食べていた。
母親、らしい、お母さんお母さんと泣きながら食べてる。
頭が痛い、脳みそのなかをぐりぐり鉄の棒でかき回されてるような
食い荒らされてるようなそんな痛み。
「いい加減にしろ!」
映像に気をとられていたが現実では来栖が暴れる僕をおさえていた。
壁や床を蹴ったりと、暴れていた。
「クソ、錯乱してるのかッ?!すまん!」
来栖は、暴れる僕を殴りつけたらしく、ゴンという鈍い音がした。
僕は思う。
ああ、今日も気絶かあ。
そして僕の視界に黒が広がる。




