表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/47

月をなくした街 無駄じゃないよ

大道寺に僕は、剣をあてた。


苦しむ大道寺。

そんな、と思う。

彼の体は、消えていく。

理屈はわからないが。

それはそれで、もういいんじゃないかと思う。



でも、来栖はこんなやり方喜んだろうか?

……これしかないからこれでいいん、だよな?


自分にわからない世界

事象の地平線は

無限にあるのだから。



だけど、消えゆく彼を見てると、僕の中で急速に熱が冷めていくのが解る。


漠然とした不安、切なさ。


虚しさが世界に広がる。


何の感動もなく。

ただ、僕は元の世界に戻った。



電波塔の一階、この前一度きた場所。


「戻ってきたか」

桜木さんの声がする。


ああ、戻ってきたんだな。

僕は、戻ってきたんだな。


最強であろう敵との戦いを終えたのに。

僕の心は、ひどく寂しい。


もう、目的がない。


急速に自分のやってることが何だかわからなくなった感じ。


来栖といっしょにいた日々が走馬灯のように脳裏に浮かぶ。


僕は、何をしているんだ?


「リョウト?リョウト?」

皆の声が遠くに聞こえる。


春雪の声が聞こえてきた気がした。

遠く、遠くからの声。

僕の中の僕ですら意志失ってぐったりしていくのがわかる。


そういえば。


僕は、あの屋上で空を見上げた日から。

ずっと、緊迫した状況にぶち込まれて。


グワングワンと視界が揺れる。

違う、体が揺れてるんだ。

僕の前の世界がグチャグチャに歪んで。

黒く塗りつぶされて。

ドサ、と何かの倒れた音がした。

僕が倒れたのだと思う。


ああ、もう何度も何度も味わった気絶。

でも、今回はこのまま寝てしまっていいだろうか。

もう……………疲れた。


僕の

灰になった心が、動くことを拒絶していた。


______________________________


柔らかい感触の上で目覚める。

どこぞのソファに寝ていたみたいだ。


目覚めると、匂いがした。

臭い、鼻につく、鼻水を出そうとしてくる。

そんな、変な匂い。


また、また何かあったのか?

まだ。何か僕にさせる気かよ。


跳び起きて、目の前の光景を見て絶句する。


畑。

畑がそこにあった。


色んな野菜が、育てられている。


土の栄養が枯れて

食料が作れないとかで、あんな街になったというのに

ここは、そんな街と関係ないかのように。

野菜は大きく育っていた。


「……なんで?」

桜木さんがどこかからシュバってやってきて待ってましたと言わんばかりに解説しだす。

「人の死体だって、しっかりと処理を施せば肥料になるんだ!」

「……!」

つまり、人の死体を肥料に栽培をしてるのか?

誰の?

そんなの、分かってる。

これまで僕の目の前で死んだり、殺されたりした人たち。

「彼らの死が生を生む……あの惨劇の数々も無駄じゃなかったってことだな」



「リョウトさん~ちょっと来てくださいっス」

春雪が野菜たちの向こうで僕を呼ぶ

慌てて僕は彼女のもとへ向かった。


そして。

「このカブ辛いんっスけど、助けて」

半泣きになりながら、お願いしてカブを差し出してきた。

受け取って食べると。

辛い、ホントに辛い。

泣きそうになった。

辛さだけで泣いたんじゃないと思う。


来栖にも、食べさせてあげたかったと思う。


「……ここは、電波塔の中かな?」聞くと。

春雪は頷いた。

塔の中で栽培するなんて、どうして決めたんだろうか?


心を読んだかのように桜木さんが解説をする。

「ここも汚染に対するシェルターになってるワケだ

街全体までもが大気汚染されてもここが人類の最後の砦になるように

色々工夫してたらしいな」

ずっと、雑魚っぽいと思ってたけど。

「ぽい」だけだなこの人。


「……ああ、階段はそこだ。登ったほうがいいぞ」

その言葉を受けて咀嚼する時間も惜しく。

駆け上がる。


さっきの空間と打って変わって、無機質で寒い。

ゾクゾクとする空間。

「おッ、リョウト来たか」

キョウヤがいた。

この機械だらけのメタリックな空間

どこかで、見たことが……ああそういえば学校の放送室を

デカくしてパワーアップさせたような感じがする。


放送室?ああ、マイクがあるな。


「うん、早くするんだリョウト君」トキヤがいた。

大道寺の脳+メイドロボもいる。


そして、トキヤが僕をマイクの前の席に座らせて。


「フヒ、マイクチェックバッチリDAなーの」ライムの声。

なに?

何をさせようっていうんだ?


「リョウト、食料不足から解放されるかもしれないって伝えるんだ」

『君が僕を倒してくれたおかげでここを自由に使えるようになったんだ』


ああ、そうか。

と思う。


僕は、何ももう迷うことはなく。

マイクに向かう。


後ろにみんなの気配を感じる。

温かい。

「ちゃんと、町中に放送届くから」

ぼそぼそ後ろからキョウヤが耳元でささやく。

くすぐったい。


うん。

よし。


「皆さん、どうもはじめましての方が多いと思います」

マイクに向かって思うままに喋っていく。


「コレまで、理不尽なこの状況に苦しんだ人がいるでしょう」

来栖も、この理不尽さに死んだ。


「今も、戦っている人がいたでしょう」

敬語を使っている自分がいた。


「守るべき人を失ってしまった人もいたでしょう」

僕のように。


「だけど……」

僕は、つらつらと喋ることが出来る。

それは、自分のことを喋っているからだ。


「一旦、休みませんか?」

心の中に穴は開いたまま。

だけど。


「希望を、失ったわけじゃないのだから」

このまま、生きて行こうと思う。


そして、最後に僕は具体的な希望。

食料不足の解決策はしっかりあること。

等々を言い。

放送を終えた。


心の穴は、きっと一生埋まらないけど。

それでもいいかと思う。

埋められるなら、その時はその時だ。


僕は、皆に振り向く。

思い思いの表情をしていた。


戦いを終えられる安堵や喜び、救えなかったものがあることの悔しさ。


でも、今は僕は寝たい。


しばらくゆっくりと。


起きたらまた理不尽に立ち向かうから。

だから、僕は。

眠る事に決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ