覚醒
目の前に、白が広がっていく。
僕の前の白。
白白。
白白白白白白白。
何もない。
僕の前から何もなくなった。
少し前のことを思い出す。
僕の心の中で、僕と戦った時のこと
その時と同じように僕の手にはナイフが握られている。
「リョウト」
後ろから、声がかかった。
振り向く。
わかってる、来栖なんだろ?
来栖がそこにいた。
僕の見慣れた来栖が、何度も助けてくれた来栖が。
死んだはずなのに。
いる理由は、分かってる。
「これは……テレパシーだ、残留思念のようなものだ」
来栖が僕に残したからだ、自分のコピーを。
でも、と思う。
「来栖は超能力を使えなかったはずだけど」
今すぐ来栖に抱きついていきそうになって踏みとどまる。
だって、彼女は。
「別に、超能力は特別なものじゃない
誰にでも微細だけどあるんだ
なんとなく通じ合うのはテレパシー、勘でクイズの答えを当てるのは予知
……ま、リョウトの力は頭の虫によって引き起こされたものだけど
虫がなくても使える人はいるってことだな」
田宮の話を思い出す
たしかに頭の虫で超能力者が「増えた」と言っていた。
でも、そんなことよりも。
「まあ、強い思いがないと強い力にはならないみたいだけど
私はお前に伝えたいと思ったから残留思念になったわけだ」
「なあ、リョウト私の話を聞いてくれないかな?」
理屈なんてどうでもいい。
細かいことなんてくだらない。
とにかく来栖の話を聞かなきゃいけないと思った。
来栖は笑いながら、僕に言う。
「なんか昔に感じるけどさ、相手をお前が殺した時
自分を殺しにかかってきた相手を殺すのは正しいかー?なんて話したよな?」
覚えてる。
全部。
僕は殺して構わないと言った。
「あれ、自分で考えてみたんだけど私が正しいと思うんだ」
彼女の一言一句聞き逃さないようにしようと僕は耳に集中していた。
「でもお前も正しいと思う、この世の全てを救うなんてこの理不尽な世界じゃ無理だ」
でも、と来栖は言った。
「やっぱり私はさ、それでも偽善でもいいから少しでも優しい世界にしたいんだ」
「だから、頼む八代を恨まないでくれ」
その言葉の次に何を言う?
「……勘違いするな八代を許せとは言ってない、あいつは大量快楽殺人者だ」
それは、僕も同じだろう。
「それは違う」
どういうことかと聞き返したくなったけど、来栖がガンガン話を進める。
「ただ、私はべつにあいつを恨んでない」
「正直お前にこうして伝える機会をくれたことだけは奴に感謝してる」
「……リョウト、私のお前への感情は愛だと思う、もちろん特別な」
息が詰まりそうになった。
うれしさからじゃない、その言葉を聞いてもう来栖と僕がこの時間が終わったら会うことは絶対できなくなる。
そういう背景から出てくる言葉で嬉しいはずがない。
いつの間にか、ナイフの感触が消えていた。
見ると泡になって空に舞っていこうとしている。
「だからさリョウト、私が原因の憎しみで戦うな」
「お願いだ」
「受け入れてくれるか?」
「当たり……前だよ……」そう返すのが精一杯だった。
「じゃあ最後に力を貸す、私からお前に」
そう言って来栖の体が消えていく、じわじわと焼かれていくように。
気付けば僕は手を伸ばして懇願していた。
なんでこんなにあっけなく無意味に人は死ぬんだよ
理不尽すぎるだろ!
「待って!待ってよ!僕も来栖が好きなんだ!まだ話したいことも、言いたいこともあるんだ!
そうだ、さっき僕と八代が違うって言ったじゃんか!なんでか教えてよ!」
消える寸前、来栖の声が僕の耳元に届いた。
____お前は、敵「しか」殺さなかった__________
____そして、仲間を守るために戦った________
僕は倒れたまま手を突き伸ばしていた。
空に向かって、まるで何かを掴もうとしていたかのように。
窮屈だけど、綺麗に見えていた空。
気絶して数秒も立っていないようだった。
普段より短い気絶
いつも通りの時間寝てたらどう考えても酷いことになってた。
喜ばしいことなのに、僕の胸はひたすら寒かった。
だけど。
「僕、結局戦うしかないんだ」
八代は空に浮かんでこっちを見下ろしている。
睨み返す。
僕は僕の中の残虐で、戦いが大好きな僕を呼んでいた。
この世界は理不尽だから、こういう自分だって必要なんだ。
僕の右手に鉄パイプが握られている。
強く握りなおし_________
集中。
来栖は力を貸すと言っていた。
それを信じる。
発光、あたり一面がなんというかまるで太陽がそのここに在るみたいに
照らされて。
そして、プリズムが止み。
僕の手の鉄パイプは、剣になっていた。
白も黒も入り混じった歪で、不気味で悪趣味な剣。
無意味に来栖は死んだ。
世界は理不尽だから。
でも、僕はそれが無意味なんて認めたくない。
だから、僕は来栖の意思をできる限り受け継ぐ。
「・・・・・・?なんだお前その髪の毛」
八代が、困惑してた。
僕は言われて前髪を引っ張り、気づいた。
白くなってる来栖みたいに。
____力を貸す_____
____残留思念_____
そうか、とわかる。
来栖は僕に自分の力をくれたんだ。
頭の中に、跳び方もパンチの仕方も蹴り方も来栖のものが全部わかる。
ありがとう。
僕は八代を倒す。
奴をどうにかしないと、このままだと奴がこの町の王になってしまう
それほどの力がある。
そうなったら、僕の仲間もあってきた人たちも誰も救われない。
そして、来栖は奴を憎むなと言った。
「……わかったよ」
来栖に向けてつぶやき、僕は八代に向かって跳ぶ。




