作戦会議
「聞き捨てならない話だからな。だがそれは誤解だぞ」
千尋様は、さも心外だと言いたげに腕組みする。
「確かに我ら妖狐一族は、伝統や一族の掟を重んじる。融通が利かなそうだと言われれば、そういう面もあるかも知れない。しかし筋さえ通せば、友人や……大切な人の助けになることにやぶさかではないぞ」
「その筋を通すのが面倒なんだよなー」
小さな声で、絢香さんがひとりごちる。
だよねぇ、お屋形様が納得いくレベルで筋を通すの、ぶっちゃけ難しいと思うわ。
「……それに、別に一族まで動かさずとも、俺が手伝う分には問題ないだろう」
「そもそも一族動かしてもらおうなんて思ってねーよ。ぶっちゃけお前が単独で動いたとしても、そのうちお前の親父や周囲の奴らが、呼んでもいねえのにしゃしゃり出てきて面倒くせえことになりそうだってのがイヤなの」
「そんな大層なことになるような事をしでかそうとしているのか! ならばなおさら真白を関わらせるわけにはいかん!」
ぐいっと手を引っ張られたかと思ったら、一瞬で千尋様の背に庇われていた。千尋様の背中しか見えないけど、これは絢香さんがムカつきそうなパターンだなぁ。ケンカにならなきゃいいけど。
「てめぇなぁ」
あ、やっぱり。絢香さんの声、超不機嫌そう。
こそっと千尋様の背中から顔だけ出して覗いてみたら、絢香さんはゲンナリしたようにため息をついていた。
「……」
あ、絢香さんと目が合っちゃった。
に、睨まないでよ。私が悪いわけじゃないもん。
「……別に大それたことしようってわけじゃねーよ」
もう一回大きなため息をついてから、絢香さんはそう言った。
「真白にはさ、突然失踪した俺の妹を探してくれって依頼してたんだ」
「あ、絢香さん!?」
「で、お前が雅ん家で見たっていう俺のそっくりさんが、その妹じゃねーかと思うわけよ」
「……!」
絶句する千尋様に、絢香さんが畳み掛けるように告げる。私はもうハラハラしてどうしようもない。絢香さん、今まで頑なに千尋様に隠してきたのに、そんなにガッツリとカミングアウトして大丈夫なの?
ていうか妹さんって家出っていうか逃げたって聞いてたけど……「失踪」とか言われると余計に事件感が高まらない?
「やっぱ俺も妹が心配なんだよ。もしかしたら雅の屋敷に閉じ込められてるんじゃねえかって思ったらさ……わかるだろ?」
「助けにいこうとしているのか」
「ああ、大切な妹だからな」
思わぬ話の流れに、私はもう馬鹿みたいに口を開けて間抜け面するしかなかった。
絢香さん、なにその沈痛な面持ち。千尋様、完全に騙されてるじゃん。
千尋様、妹さんは家出です! 乙女ゲーのヒロインが荷が重いって逃げただけです! そして絢香さんはその身代わりでいるのが嫌すぎて、トンズラこいた妹さんを捕獲したいだけなんです……。




