うわあ、あり得る
そ、それは慎重にもなるよね……。
「ちなみに一族率いて全面戦争のシャレになんねえルート、確かお前の千尋様ルートだって聞いた気がするワケ」
「うわあ」
「物騒なんだよ、お前の元許嫁」
「悪かったわね、現婚約者。でもまさか、セカンドではそんな事になっているなんて……いや、でもあり得るかな、ウチの一族なら」
妖狐一族は特定の方向に異常に結束が固い。一族の頭であるお屋形様と、その跡継ぎの千尋様を守るためであれば、一族の総てをかけて戦うだろう。
「だよなー、妖狐一族ってなんか怖えーんだよ。お前なんか許嫁じゃなくなった途端、一族から追い出されてるしよ」
腕組みしたまま頬っぺたをぷくっと膨らませて、絢香さんが言う。
なんだか私よりも悔しそうにしているのが不思議だった。……でも、ちょっと嬉しいかな。
「だからあんま千尋に出張って来て欲しくないわけ、俺としては。あいつも面倒くせえけど、その後ろにくっついてくる一族ってのがもうキナくせえし融通きかなそう」
確かに、雅様の一族と妖狐一族が全面戦争とかなったら目も当てられないかも。
私も絢香さんに倣って腕組みで「うーん」と考えこめば、いきなり後ろから「コホン」とわざとらしい咳払いが聞こえた。
「!?」
バッと後ろを振り返ったら、やっぱり千尋様がいる。このところ、いきなり登場多すぎない!?
「真白が一族追放になっている件については、取り消せないか意見衆と協議中だ」
「えっ」
「これから先、親御殿とも永久に会えぬのは真白も辛いだろうし、何より……」
そこで言葉を切った千尋様は、私をじっと見てからフイと視線を逸らした。
「いや、やめておこう。それより絢香、先ほどの話だが」
「いやいやいや、テメー勝手に人の部屋に入って来て、何普通に話進めようとしてんだ!」
絢香さんがベッドから勢いよく立ち上がりながら千尋様に詰め寄る。軽いファイティングポーズで、今にも殴りかかりそう。
さっきまでは千尋様の突然の登場にさすがに驚いていたのか、ぽかーんと口を開けたまま時が止まったように固まっていたというのに、ほんとうに威勢がいい人だなあ。
「お前ももっと怒れ! 男が部屋に勝手に入って来てるんだぞ!? ストーカー案件じゃねえかよ」
「まあそうなんだけどさ。だから言ったじゃん、絢香さんが来るともれなく千尋様も来ちゃうって」
「だから怒れって! お前がそんな風だから調子に乗るんだぞ!」
そうかも知れないけど……と思いつつ千尋様を見上げてみれば、珍しくシュンとした情けない顔をしていた。
やだ、ちょっと萌える。




