どうしよう、絢香さん!
ううむ……悩む。悩みすぎる。
「ど、どうした真白。そんなに悲しい顔をされると……」
「?」
おろおろした声に見上げれば、千尋様が弱り切った顔をしていた。私があんまり悩んでいたものだから、いたたまれなくなってしまったらしい。
「別に俺は、真白を困らせたいわけではなくてだな。危険がないようにと」
困った顔でもきれいだなあ。長い睫毛がふるふる揺れて視線が泳ぐ様まで美しい。千尋様はなんだか一生懸命に何事かを言い募っているけれど、申し訳ないけれど頭に入ってこない。ついつい見惚れていたら、いよいよ千尋様の動きが怪しくなってきた。
あ、若干頬がさくら色に。ちょっと目もうるっとしてきてない?
うわあ、なんだろうこのご褒美スチル。ゲームでもこんなに眼福なスチルはなかったよ!?
あっ!
残念、後ろ向かれちゃった……せっかく目の保養だったのに。千尋様の肩が僅かに揺れてる気がするけど、好み過ぎる顔が見えなくなったせいでようやっと私も冷静に頭が働くようになってきた。
どう考えても雅様のお屋敷に絢香さんの妹さんが居る可能性が高い。やっぱりここはいったん絢香さんと相談する時間をつくるべきだ。
そして、できれば千尋様にも今日は雅様のお屋敷に近づくのを思いとどまってもらいたい。雅様に警戒されるわけにはいかないんだもの。
それだけは、千尋様にしっかりお願いしなければ。
心に決めて、私は千尋様の広い背中に思い切って声をかける。
「千尋様」
びくり、と肩が震えた。
「確かに千尋様が仰る通り、雅様の家に行くのは危険な気がします」
「!」
さらに方が大きく揺れた。
「わ、分かってくれたか……!」
「はい、今日は雅様もお休みだそうですし、とりあえず大人しく帰ります」
「む、それでは明日以後はどうするつもりなのだ」
ていうか千尋様、なぜに後ろを向いたままなのでしょうか。背中に真面目に話しかけてる私、結構間抜けな感じになってません?
「まだ雅様のお屋敷の場所すら分かってませんので手も足も出ません」
「そうか!」
顔が見えてないせいだろうか。あからさまに嬉しそうな千尋様の様子に、若干イラッとした。でもこうして安心してもらえるのは、これから行おうと思っている交渉事には有利だから。
「千尋様も、雅様のお屋敷には近づかないでください」
「む? なぜだ」
なぜだと言われると……刺激して欲しくないからですが。そう言ってしまうわけにはいかない。
「あの、その、やっぱりその、心配ですし……」
「そうか!!!! 真白は優しいな!」
めちゃくちゃしどろもどろだったのに、私の言葉を素直に喜ぶ千尋様を見ると、なんかこう罪悪感がむくむくと湧き上がってくる。
ごめんなさい、千尋様。




