貴方は、もしや。
見慣れた白い制服。
この、声。
貴方は、もしや。
私の顔から血の気が引いた。ゆっくりと顔をあげ、声の主を仰ぎ見れば……ああ、やっぱり。
艶やかな金色の髪はいつも通りサラサラと流れるように美しい。深い緋色の瞳が私を真っ直ぐに見つめていた。
「千尋様……! ど……どうして、だって妖気が」
だって、千尋様の妖気なんて感知していない。こんなに近くに寄ったりなんかしたら、今までの私だったら涙ぼろぼろ悪寒が止まらず、震えまくって腰を抜かすレベルの筈なのに。
「真白が怖がるから、抑えている」
「だ……って、こんな学園の近くで。お屋形様がお怒りになるのでは」
「一度も二度も三度も四度も同じだ。ちなみに、あのいけ好かない男なら今日は休みだが」
「いけ好かない男?」
「雅だ。探しに来たのであろう」
「-------!!!!」
バレている。完全にバレている。
いや、この前の流れでいったらそりゃ想像はつくだろうけど……ああ、だからわざわざ妖気を消してまでこうして近づいてきたのね。
この前は千尋様をうまく撒いたと思ったのに、能力の違いがこんなところであだになるなんて。千尋様の方が圧倒的に妖気を捉える範囲だって広いんだもの、そりゃ敵う筈ないけどさ。
「残念だったな、無駄足になって」
「べ、別に……」
「ほう、雅が目当てではなかったと。それでは絢香に会いに来たのか? 先ほども楽し気に語らっていたようだが」
それも、見られてましたか……。
「ああ残念だ、雅の邸の場所を教えてやろうと出向いたんだが、こちらも無駄足だった」
なんですとーーー!?
「ふ」
急に千尋様のご尊顔が柔らかく笑み崩れた。
「真白は嘘はつけないようだな。そのように真ん丸な目をして……教えて欲しいのだろう?」
あああああ。、喉から手が出る程欲しい、その情報……!
だって、学園のセキュリティは厳しいし、そもそも私はもう在校生ですらないから学園の情報に触れることすら難しい。
もしかしたら攻略本には書いてあったのかもしれないし、雅様ルートを攻略していたら雅様の邸の場所なんか一発でわかったのかもしれないけど、前世では千尋様ルート一択だった私と真白バカだった絢香さんというダメコンビにとって、その情報はお宝なのだ。
雅様を尾行して邸をつきとめるつもりでいたけれど、妖力は断然雅様の方が高いし、途中で見つかる確率の方が実は高いわけで。
ううう、欲しい。雅様の邸の場所……マジで知りたい。
「尻尾を全力で振りそうな勢いだな、鼻息が荒いぞ」
からかうような千尋様の口調に、あたしの折れかけた心が、ギリギリ理性を取り戻した。
「いえ、自分で突き止めます」
よく言った! よく言ったぞ、私!




