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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第二話 調教の通常運用(リアルスキル)
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6 それはかつての魔槍のように?

 周囲は寒くなっているというのに、笹露の頭上に白い球が出現しているわけではない。何もない。が、能力は発現している。


 以前襲撃した時も頭上には何もなかった。

 ……やはりそういう戦い方をせざるを得ないか。


「『鍵』を渡すわけにはいかない」


 すでに、彼女の周囲は冷気で凍り始めている。


「先手必勝だ!」


 須藤は自分の腕に『銀の楔』を刺し、もう一方の手に刺していない楔を握ると、笹露へと突貫する。


 楔の腕を前に出して接近している。たしかにあれならば前方の冷気は防げるが、あまねく凍結を防げるわけではない。


「うおわぁっ」


 凍った床に滑ったのか、須藤は見当違いの方向へ逸れていき、目の前にあった教壇に頭からぶつかる。並んでいた机が衝撃でずれて倒れたりほかの机とぶつかったりして、笹露の前までずれ動いた。

 滑ったときに当たったのか、周囲の机も巻き込みながらの壮大な激突だった。


「む?」


 何か、違和感を感じた。何かはまだはっきりとしない。

 まあ須藤などどうでもいい。


「まあ待て。今のは須藤が勝手にやったことだ。すまないと思っているが、俺は関係ない。俺はべつに喧嘩腰で奪おうとしに来たわけではない。落ち着け」


 俺はもろ手を上げて、ひとまず説得を試みる。

 まずは一番平和な方法――交渉をしてみる。


「……どういうこと?」

「俺のことじゃないのだが……友達を救いたいからって、必死になって『本』の中の情報を手に入れようとしている奴がいる」


 どうにか笹露の気をそらそうと、俺は言葉をつなぐ。


「弱いし頭も回るほうじゃないくせに、俺に出会うまでは一人で学校に忍び込んだりして『本』を探していた。努力は実らなかった。そういう奴のために、たとえば俺たちとお前たちで『鍵』をシェアすることはできないだろうか?」


 言っていて、俺は後悔した。なんで姫鶴のことを引き合いに出したのか。


 まるで、俺があいつの願いを本気でかなえたいと思っているみたいではないか。


「お前らだって『本』が手元にない状態では『鍵』があっても宝の持ち腐れだろう。俺たちが『本』を見つけたら、お前たちに管理を任せると約束しよう」

「……それは、あなたたちが『本』を持っていてはじめて成立するものでしょ?」

「…………」


 その通りだ。

 そちらの『鍵』の使用権をお互い共有する代わりにこちらの『本』の使用権をお互い共有できるようにしよう――公平に取引するなら、こういったお互いがお互いの持っているものを欲している条件が望ましい。小手先でごまかしただけで、俺たちは取引材料を何も持っていない。


「馬鹿にしないで。私たちは『鍵』を悪用されないように、生徒や外部の人間たちからずっと守ってきた。理由なんて関係ない。例外はないわ」

「本当に『鍵』を共有させてくれないのか?」

「何度言わせるの? 大人しく帰るなら見逃してあげてもいいけど?」

「ずいぶん上から目線じゃないか」

「あなたの能力は粘土でしょう? 須藤の馬鹿はどの道私にはかなわない。私が負ける要素はない」

「もう一度言うぞ。本当に『鍵』をシェアするという提案に乗ってくれないんだな?」


 俺はポケットに入れていた手を抜いた。手にしているのは、粘土で作った短剣だ。


 笹露はこのときはじめて俺のほうに目を向ける。


 やはりだ。

 粘土の能力とわかってはいるが、どんな特性を持った粘土なのか、どう有効なのかわかりかねている。


 だから用心している。


 奇襲も成功できないくらいのたいしたことない能力だろうとあたりをつけていても、少しは警戒する。


 まあ実際たいしたことないんだけど。


「……くどい。そんな要求飲まないわ」

「ならば力ずくでも奪わせてもらうぞ!」

「!」


 俺が言ったと同時、俺の能力で作りあらかじめ笹露の足元へ忍ばせていた土が笹露の足をからめとるようにとらえた。


 両足首を固定するように土を絡める。


「くっ」


 笹露はバランスを崩しその場にへたりこんだ。少し厚手の黒タイツを履いているので、遠くからはスカートの中は微妙に見えない。見えたところでどうということはないのだが。


 俺は手に持っている粘土を遊ばせながら微笑した。


 当然、土を出現させる量が倍になったわけではないし、同時に二個土の塊を出せるようになったわけではない。


 俺が持っている方はあらかじめ用意したただの粘土。偽物だ。


 偽物に注意を向かせ、本物は奇襲するべくひそかに床を転がって笹露へ近づいていったのだ。途中まで下を向いていたから、こちらに注意を向けさせる何かが必要だった。


「長々と話していたのがあだになったな。俺の能力は確かに弱いが小細工が利く。いつでもアイスとかなんだ? キャラ付けか? お前のアイデンティティなんて誰も気にしてないんだよ。便利な能力が手に入ったからただ図に乗っているだけの小娘が。どうせ創韻倶楽部でも男二人に囲まれていい気になっているんだろう。女王様気取りは楽しいか? ん?」


 そして硬さを維持するために頑張って言葉を選ぶ。


 笹露は挑発されて、ぴくりと反応する。顔がやや赤くなり、困ったような怒ったような色をはらんでくる。


「私を……侮辱しないで」


 笹露は俺をにらみつけながら、あろうことか宙に浮かび上がった。


「なんっ――」


 俺は罵倒を忘れて言葉を切ってしまった。


 また、別の能力だ。


「どういうことだ」


 空中で静止する笹露にあっけにとられる。


 土の柔らかさが元に戻ったおかげで、笹露の拘束が解かれた。


 それから明らかに図ったようなタイミングで、蛍光灯が落下してくる。

 すんでのところでそれに気づいた俺は後ろによける。


 続けざまに蛍光灯は落下。


 バックステップでよけつつ、


「蛍光灯もお前がやったのか? まるで念動力でも使えるみたいだな」


 探りを入れる。


 次第に床が凍結していき、俺の足元まで迫る。


 背中に壁がつく。

 いつの間にか一番後ろまで下がっていたらしい。逃げ場はない。


「なるほど。ようやく読めてきたぞ……お前の力」


 蛍光灯が落ちてきたことで、今まで笹露が使っていた力に、ある共通点が見出せた。


 ――温度を『落とす』、気分を『落とす』、物を『落とす』……これは、つまり。


「……『グレイトフォール』。言っておくけど、私は創韻倶楽部の三人の中で一番能力に恵まれたの」


 宙に浮かびながら、笹露は冷ややかな目で俺を見下ろし、つぶやいた。


 あらゆる下落の能力――って、おいおい、そんなのありか?


 須藤の突進をそらせたのは、黒板方向に落下する力を発生させたからだ。

 笹露が浮いているのは、下に落ちる重力と天井に落ちる能力の、ちょうど力の釣り合う点に身体があるから。細かい調整もできるようで、たしかにこれは今までで一番やっかいかもしれない。


 だが、無機物はいいが生き物に能力を強く影響させるには、かなり近づかないといけないはずだ。これは俺が今無事であることと、突っ込んでいった須藤が無事ではないことから想像できる。


 まだ問題ない。これくらいの能力なら許容範囲だ。


「いててて……」


 机に埋もれる須藤は使い物にならない。腕に刺さっていた楔も、ぶつかった衝撃か外れて床に転がっていた。


 笹露は上から俺を見下ろしている。


「……残念だけど、終わりよ。大人しくして」


 落ちていた蛍光灯の破片が、次々に宙を舞っていた。


 先のとがったそれは一つ一つがもれなく凶器。教室内に飽和する、無重力空間のようなありえない光景。わざわざ蛍光灯を落下させて壊していたのはこのためか。


「ますますお前がほしくなったぞ、氷上笹露!」


 残念だがここまでほぼ思惑通りにいっているんだよ。説得しようとしたり拘束しようとしたり戦いを避けようとしていたのはただの保険に過ぎない。

 そのどれも失敗したならば――想定していた手段に出るしかない。


 蛍光灯の破片が俺に向かって『落下』してくる。俺はそれを転がるようにして飛びのく。


 逃げた先は、廊下側ではなくベランダ側。

 俺はガラス戸を開け外へと転がり込む。


「――やはりか!」


 ベランダのすぐ壁際。教室内からは見えないような位置に、白い球――『グレイトフォール』が浮いていた。


 笹露の能力は普通の武器型能力と違い、白い球がちゃんとした武器として機能しているわけではない。しかもわりと大きいため目立つ。能力を出すときは相手に破壊されないよう、見えない位置に隠して守らなければいけない。


 俺はベランダに出していた長柄の物を手に取った。先ほど解体したモップの柄である。

 俺は隠し持っていた『銀の楔』を取り出して、粘土の能力で楔の全身を包み込むようにして長柄の先端に固定する。

 槍の刀身――を形作った。包み込んでいる粘土が『銀の楔』に刺さっている扱いになって、鈍く銀色に輝きだす。――能力を無効化し吸収する特別な槍の完成である。


 武器型は武器そのものに固有の能力が備わっている。つまりそれは本人でなくとも能力を使える可能性を示している。

 そのあたりのことはあらかじめ予習済みだ。ただ本人が『本』の有効範囲内にいて、なおかつ能力の発動を許可していなければならないが。


「……っ! なぜ私の能力のことを」


 笹露は焦燥感のある表情で、白い球をさらに外へと移動させる。

 動きは徒歩くらいの速度でかなり遅い。なるほど、弱点の塊みたいなものだな。隠したくもなる。


 武器型の参照者は、能力を破壊されると気を失う。

 これが、破壊できる最初で最後の機会だ。


 白い球は、ベランダのさらに外側へ出る。


 手では届かない位置に白球が浮かぶ。槍でも同様、振るって届く距離ではない。ここは三階だから飛び込んで切るわけにはいかない。


 凍結が周囲を包み、重力が壁に向かって発生していた。だが能力吸収の槍を持っている俺には少々効きが悪い。


 彼女の能力も強い。だが、失敗だったのはこの俺に槍を持たせたことだ。


「うかつだったな! 俺はもともと槍使いなんだよ! たとえ空中で動いていたところでこんな距離の攻撃、当てるのは造作もないわ!」


 槍を大きく振りかぶった。


 ひとたび振るえば最高位の魔力障壁さえ容易に破り、ひとたび投擲すれば一個中隊の戦力をほぼ壊滅せしめるほどの魔槍を所持していた俺が、今やこんなしょぼい手作りの槍に希望を託している。


 だがそれも悪くない。


 俺は凍結と重力に耐えながら、浮かんでいる白い球に向けて槍を投擲する。


 槍は落下の能力を無効化しながらまっすぐ飛び、回避しようとゆっくり動いていた白い球を穿ち、砕いて貫いた。


「悪くない、じつに悪くないぞ!」


 意識を失って須藤の上に落下する笹露を見やって、俺は高らかに笑い声をあげた。

いい加減うさぎの面はずせよ……

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