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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第二話 調教の通常運用(リアルスキル)
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5 前哨戦:VS出入り口

 次の日。ついに決行の時がやって来た。


「さすがに誰もいないな」

「まあ授業中だからな」


 俺と須藤は午後の授業をサボり、創韻倶楽部の部室である空き教室へ来ていた。まだ昼休みが終わったばかりなので姫鶴はいない。


「じゃ、いつものやつをつけろ」


 俺はまたユルいうさぎのお面を須藤に渡す。須藤は露骨に嫌そうな顔。


「どうしてもつけなきゃだめか?」

「だめだ。顔が知られていないというのはでかい有利だと何度言ったらわかる?」

「だから俺は知られてるだろ」

「俺は知られてないんだよ」

「理不尽だ……」


 不承不承、須藤はうさぎの面をつけた。俺も同じく面をつける。たちどころに怪しい二人組のできあがりだ。


「理不尽ではない。お前は情報戦の重要さをこれっぽっちも理解していない」


 うさぎの面をつけた須藤に言ってやった。


「そんなの、俺たちの情報を相手に与えなきゃいいんだろ? こっちの知っている情報はフル活用して……でも俺の顔はすでに知られてるんだから、俺がこの面つけようがつけまいが別によくないか。声や格好でばれるし。お前はつけててもいいけどよ、うさぎの面とかかっこ悪いんだよ」


 ああ、やっぱりわかっていないな、これは。


 一の戦力で十の戦力を押し返すには、情報戦において優位に立つことはほぼ必須だ。ただでさえ俺たちは弱いのが集まっているのだから、そういうのは常に意識していてほしいのだが……。


「それはお前がいつも創韻倶楽部に負けてるのにも関係しているんだぞ。まあそのへんは後でレクチャーしてやるとして、まず目の前の課題だ」


 創韻倶楽部の部室は、普段は誰も使っていない。

 この空き教室は使うとき以外は鍵がかかっている。解放されるのは創韻倶楽部の部活動の時か、あるいは申請して許可が下りたときだけだ。


「だな。どうやって中に入るかだ」

「まあ見ていろ」

「ていうか、本当にこの教室の中に『本』を開けるための『鍵』が保管してあるのか?」

「この前襲撃したときの感じだと、誰かが持ち運びしていそうだな。でもそれを確かめに侵入するわけだ」


 さすがに中に人はいないから、今日は安全だ。


 ただ、鍵がかかっていてこのままでは入れない。ここは例のアレでいく。

 俺は手のひらに能力である土の塊を召喚する。


「なんて素敵なドアなんだ。鍵がかかって入れないなんて」


 そしてドアをうっとりと見つめた。


「……遼?」

「かたくなに人を入れないその姿勢、高嶺の花を口説くときのように俺の心を熱くさせる。微動だにしないのはお前の強い意志がそうさせるのか? なんて気高く崇高なんだ。俺にはとても真似できない。滑らかな表面は、まるで上質なダイヤモンドを触っているかのように心地いい。ああ、どうにかしてお前の中に入りたい! 俺はすごく入りたいぞ!」


 俺は愛撫するようにゆっくりとドアに指を這わせていく。我ながらすごくきもい。


 だがしかし。


「あと、えーと……すごい!」


 もうほめ言葉が何も思い浮かばなくて、俺としたことが陳腐な言葉を選んでしまった。

 無理だろ、だって教室の出入り口にそこまで愛着ないだろ。


 手を見ると、土の塊はどろどろに溶けて液状化している。よし、もうこれくらいでいいだろう。もう二度と教室の出入り口など褒め称えるか畜生。


 俺が液体になった土を操ると、土は生きているようにドアの隙間から教室内へ入り込む。

 土はそのまま表面を上へ上へと登っていき、真ん中にある鍵を開け――


「くっ」


 鍵を開け……やっぱきつい!


「かっ、勘違いするなよ、お前なんてこれっぽっちも好きじゃないんだよ! たかが入り口が図に乗るな! 本当はできることなら一生触りたくないんだよ。誰が触ったかもわからない手垢で薄汚れていやがって。誰にでも触らせるとかとんだビッチだな! この変態め! 細かいへこみや傷は古くなって芽が出かかっているじゃがいもか何かか!? お前のような不潔で不出来な入り口はさっさと廃棄処分にでもなってしまえ!」


 ガチャ。

 やっと開いた。疲れる。


「そんな疲れるまでお前は一体何と戦っているんだ?」


 うさぎのユルい目で見ていた須藤に、


「おのれの運命とだ!」


 俺は言い放った。


 中に入るも、そこは一見普通の空き教室。

 机の中も教壇の中もカラで、あやしいところは何もない。

 唯一きな臭い本棚は――


「詩集とか創作指南本がほとんどか……」


 さすが文芸部系、いちおうそれらしいものは揃っているらしい。


 お、マザーグースじゃないか。

 小葉菜先輩も好きだったが、なぜこれが人気あるんだ? いまだに理解できない。

 ほのぼの感のある詩集たちに紛れてラヴクラフトや江戸川乱歩の短編集とかもありなかなかカオスな本棚だ。


「怪しげなものはないなぁ」

「そうだな」


 須藤に相槌を打ちながら、俺は掃除用具入れの扉を開ける。

 手ごろな道具はないかな。


「遼、お前まじめにやってるのか? 掃除なんてしてどうする?」


 須藤はなかばあきれていた。

 いきなりモップを取り出した俺を不審がっているのだ。

 俺はモップのブラシ部分を外して先端を解体する。


「うむ、いい感じだな」


 長い柄だけになったそれを外のベランダに出しておく。


「何をやっているんだ?」

「いや、べつに。捜索を続けるぞ」

「……なにやってるの? 私たちの教室で」


 不意に俺たちの会話に挟まれる、女の声。ひっそりとしていてつややかで、もし形があるなら細く鋭そうな声色だった。


 入り口に、氷上笹露が立っていた。


 笹露は、地面に目を向けながらアイスを一口、小さな唇に運び入れる。

 仮面の下で、俺は口元を笑いでゆがませた。


「いつからお前たちの教室になったんだ? そちらもこの空き教室を使わせてもらっている身だろうが。俺たちはちゃんと許可をもらって入っているんだ。文句を言われる筋合いはないはずだが?」

「嘘つけ。勝手に侵入してるだろ」


 よせばいいのに、須藤は本当のことを口にする。


「須藤」

「なんだ」

「余計なこと言うんじゃない」


 入り口には笹露がいて、退路を塞ぐようにして立っている。ここは三階だから、逃亡するときは廊下に出るしかない。


「授業にも出ずに何をやっているの?」

「それはお互いさまだろう。ま、サボっている者同士仲良くやろうじゃないか」


 俺の声を聞いても、笹露は昨日まで会っていた者だとは気づいていないようだった。


 伏せたままでこちらと目は合わせないが、静かな怒りを内包させる笹露の相貌。周囲の空気が、急激に冷え込み始める。


「むっ?」


 須藤も室内の異変に気付いた。吐く息がわずかに白くなっている。

 相手はすでに戦闘態勢。

 話す気もない、逃げられない……か。


 まあ、笹露は俺が呼んだのだがな。昼休みの終わりごろ、二年の教室へ行って彼女の席に「変な二人組が部室を荒らしている」と書いた紙切れを入れておいた。昼休みになったら彼女はすぐに教室を出て、終わるまで一人で過ごしている。その習慣を利用させてもらった。


「須藤、『銀の楔』を一本俺によこしてくれ」


 俺はこそこそと須藤に耳打ちする。「……?」不思議そうにしながらも須藤はうなずくと、笹露の隙を窺うようにした。


「正直に話してやろう。目的は貴様らの持っている『鍵』だ」


 そして宣戦布告する。


 すべては予定通りだ。さて、笹露はどう出てくるか……。

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