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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第二話 調教の通常運用(リアルスキル)
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4 今月の小遣い全部アイスに使いそうな覇王ディアボロス

 次の日も、俺は昼前の授業を早引きした。


 また近くのコンビニへ笹露お気に入りのアイスを買いに行かねばならない。昨日と同じ手段で笹露に言い寄る必要があるためだ。


 しかし毎回アイスを買いに行くというのも面倒なものだな……かといって買い置きはできないし。


 ていうかマジで高いわ。値段が。容量少ないくせに一個三百円とか、たとえ美味くても正直理解できない。

 バイトとかしてないからその値段が地味に痛く、金が微妙になくなっていく。数多の国々を漏れなくねじ伏せてきた俺の交渉術をもってしても、母さんに今月の小遣いを上げてもらうことはまかりならなかった。


「はあ? 学校までのバス代は別にあげてるしそれくらいで十分でしょ!」

「いや、しかしだな、俺が覇王として再び君臨するのに必要な――」

「わけわかんないこと言ってんじゃないの!」

「とにかく俺に投資していれば今後――」

「さっさと学校行きなさい! 遅れるわよ!」


 以上、今朝の会話である。まさに聞く耳持たず、交渉の余地は微塵もなかった。


 俺の思い描くシナリオ通りに事が運べば、俺の所持金はアイスだけで底をつく計算。

 くっそ。これでしくじったら本当にどうしようもないぞ。


「まさに背水の陣か。フフフ上等だ」


 泣きそう。


 俺のお財布事情を鑑みて、笹露を裏切らせる作戦はできるだけ早めに行いたい。


 目撃者を警戒しながら、俺は生徒玄関を出る。


「ゆ、許してくれ!」


 ――ふと聞こえてきた、男の情けない声。


 体育館裏からである。


「……何だ?」


 だがそんなことよりコンビニへ行くのが先決だ。気にせず行こうとすると、


「許すわけねえだろうが!」


 聞いたことのある声がして、俺は立ち止った。


 今の声は……。


 俺は声のするほうへ忍び足で近づいていく。

 体育館裏である。もと小夜の住まいである朽ちた椅子のある場所で、複数の男子生徒を確認した。


 四人ほどが地面に倒れてうめいている。

 立っているのは三人だ。

 その中に見知った人物は二人。


「肩ぶつかったくらいでいちゃもんつけてきやがって」


 言いながら、見覚えのある奴が知らない男子生徒の胸倉をつかんで締め上げている。


 日焼けした活発そうな男。創韻倶楽部の永橋行平であった。

 締め上げられている男子生徒は困惑しながら、行平をなだめようとする。


「それはお前らからぶつかってきた――」


 頬が腫れている。殴られた後だろう。


「あぁ!? 言いがかりだろうが! ふざけてんのか?」

「いや、本当にお前らがぶつかって……」


 俺は壁を背にしながらその光景を観察する。


「ほどほどにしとけよ行平ぁ」


 少し離れたところで、眼鏡をかけた男子生徒――創韻倶楽部の三日月勇がにやにやしながら行平に忠告した。五本の指先からは能力の赤い糸が伸びて、締め上げられている男子生徒の身動きを封じていた。


「ふむ……」


 俺は顎を撫でた。

 なるほどな。能力を一般人に使って天狗になっているようだ。自分たちから喧嘩を吹っかけて、見えない力で打ちのめす。弱い者いじめをして、優越感に浸っているのだ。


 どうやらあの二人、自分の持っている力におぼれているらしいな。能力を試したくて仕方がないのだろう。


 実に若い。そういうのは嫌いじゃない。真似しようとも思わないがな。


「……何をしているの?」


 いきなり後ろから声を掛けられて、俺はびくりとなった。


 氷上笹露だ。


 しまった! 油断していた。もう昼休みのチャイムは鳴っていたのか。


「あ、氷上先輩……」


 まずい人物に見つかってしまった。

 ここで捕まっては、俺に勝ち目はない。なにせ三対一である。昔の俺ならまだしも、今の俺では太刀打ちできない。


 三対一になる前に逃げおおせるしかない。俺は後ろ手に粘土で作った短剣を隠しながら、笹露の息の根を止めて退路を確保することを選んだ。


「来て」

「?」


 だが、様子がおかしい。笹露の顔にも少し焦りが見える。

 思っていたら笹露は俺の手を引いて、その場から駆け出した。




 校門の外まで来ると、笹露は俺の手を離した。


「氷上先輩、もしかして昨日言ってた『あまりおすすめしない』っていうのは……」


 俺は虫唾が走るさわやか系演技で、事情をうかがう。


「あまりよくないの。あの二人の評判」


 そういえば、檜山も情報を提供する際、あの二人に関しては何か言いにくそうにしていたのを思い出した。


「いつもあんな感じなんですか?」

「……ん」


 笹露は小さく頷いた。


「確かに文系とは思えない雰囲気ではありますね。あまり創作活動してなさそうっていうか」

「……あの二人は、創韻倶楽部にいる目的が私とは違うから」

「目的?」

「楽しみたいだけっていうか、楽しければいいっていうか。好き勝手ばかりして」

「ああ、そういう」

「創作の話はするけど、全然まじめにやる気はないの。あんな感じで素行も悪いから、創韻倶楽部の評判にも影響していってるし」


 まあ俺たちが覗いた時も笑いながら語り合ってるだけだったしな。あんなもの雑談であってもディスカッションとはいえない。


 そもそも、参照者だから創韻倶楽部にいるだけ、というのもありえる。

 対して、笹露は『鍵』の管理のほかに真剣に創韻倶楽部としての活動もしたいということか。


「そっか。なんていうか、二人と先輩の間に温度差があるんですね」


 まじめにやりたい笹露と、好き勝手楽しみたい男二人。

 たしかに活動のベクトルが違うなら、軋轢ができるのもやむなしか?


「あの二人仲がいいから、私が入る余地ないっていうのもあるし」


 初めに覗いた時も、笹露はしゃべらずにアイスを口にしているだけだった。二人のペースに合わせられなかったのだろう。


 俺は胸中でほくそ笑む。

 創韻倶楽部は、現在あまりうまくいってないようだ。


「……あ、ごめんなさい。私、近くのコンビニ行くつもりだったから、こんなところまで連れてきてしまって」


 今更だが、笹露は俺と校門の外まで来ていたのに気づいた。俺は笑顔で言った。


「一緒に行きましょうか」

「…………」


 笹露の端正な顔立ちが曇っていく。

 そしてまた頭上から、能力の白い球が出現した。


「……だ、だめですか? 一緒に行っちゃ」


 正直かなり怖い。

 気づかぬふりをして無防備でいなければならないのだ。彼女が分別をわきまえていてよかった。


「あなたは学校へ戻りなさい」


 笹露は言って、俺の背中をそっと押した。

 瞬間、俺の心にわずかな変化が生じる。

 なんというか、いきなりすごく鬱っぽくなったというか、拒否されているという事実に存外悲しくなってしまって、彼女の言う通り学校に戻ったほうがいいのではないかという考えが浮かんだ。

 だがすぐに俺はそんなネガティブさは払いのけた。


「いえ、俺もコンビニに用事があったので」


 言いながら、内心驚く。

 俺の気分が落ち込んだという効果は、笹露によってもたらされたものだ。自分のものではない自覚がある。


 驚いた……この白い球、『鬱気オブセッション』に近い効果も持っているのか。


 『鬱気』は精神系の下位魔法で、心に効果を及ぼす。ただこの魔法は他人の気分を少し落とすだけで、殺傷能力はない。性的興奮を覚えている男をたちまち賢者モードにしたりはできるが、効果としては禿げている奴に「ハゲだね」と言ってそいつを落ち込ませるのと同じようなレベルでしかない。


 この効果を使って俺を心変わりさせるつもりだったようだが――俺は少し戸惑っていた。


 笹露の参照者の能力は凍結のはずだ。凍結のほかにも能力があるというのか?

 話が違う。

 能力は一人ひとつではないのか?


「あなた、よほど精神が強いみたい」

「? どういうことです?」


 などと俺はとぼけてみせた。

 精神を左右するタイプの下位魔法には、効きやすい者と効きにくい者がいる。感情を鬱っぽくさせる彼女の能力も、効き目には個人差があるのだろう。


 もちろんこの俺の魂にその手の精神攻撃は効かん。よほど使い手が熟達しているか、魔法が強力なものでない限りはな。


「なんでもない。……ちょっと、うらやましいわ。ちょっとだけ」

「よくわからないですが、コンビニまでご一緒しても?」

「……好きにして」

「ありがとうございます。ところで」

「?」

「本当にあの高いアイスしか食べないんですか? しかもチョコのみって」

「食べないわ」

「百円のやつとかでもいいじゃないですか」

「そんなもの口にする価値はないわ」

「さいですか」


 俺は爽やかな笑みの向こうに、黒々とした手ごたえを感じていた。


 『鬱気』は俺には効かない。警戒すべきは凍結の能力だけ。


 材料はそろってきた。

 笹露を堕とす目途も、ある程度はついた。


 ならば少しくらい予定を早めてもいい。

 ――創韻倶楽部を完膚なきまで破壊しようじゃないか。

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