19 香りで彩る
「……うーん、他になにかないかしら…?」
「寄り道するとしても、あと小一時間ぐらいしかありませんよ。」
「…そうね………あ、香木なんてどうかしら?」
「かさばらない程度になら。」
「流石にそんな量を買うつもりはないわ。じゃあ、それを売っているところに行きましょうか。多分あるんじゃないかしら?」
大通りを散策していれば見つかるでしょう。
あまりにも見当たらなければ誰かに聞き込みすればいいだけだし。
ギイィと扉を開き、香木屋にはいる。
するととたんにブワッと木とは思えない、甘さを感じる香りが漂ってくる。…これが香木の香りなのね。なんだか落ち着くわ。
「いらっしゃいませぇ~」
女性の店員が快く挨拶をしてくる。なんだか雰囲気が柔らかいのは香木のせいなのかもしれないわね。
「何をお求めですかぁ?」
「旅のリラックス用になにか無いかと思って。」
「それでしたらぁ、こちらとかどうでしょうかぁ?」
店員は茶褐色の木片を指さす。
「サンダルウッドと言ってぇ、甘くてクリーミーな香りがしますよぉ? 香木を使う人の中ではぁ、かなりポピュラーでぇ、お手頃な値段なんですよぉ。」
「へぇ、いいわね。」
「ほかにもぉ、檜などの森を感じる香りもいいですよぉ。」
檜は建材としても使われているけど、こういうのもいいわね。
「香木以外にもぉ、こういうのもありますよぉ?」
「何かしら、これ?」
店員は液体の入った小瓶を手に持つ。
「これはぁ、精油といってぇ、植物から取り出したぁ、香りの塊みたいなものですぅ。これはさっきのサンダルウッドの精油ですぅ。」
「へぇ、興味深いわね。」
「…初めて見ますね。」
「最近確立された技術だからねぇ、流通数も少ないのよぉ。知らなくてもおかしくないわぁ。」
「「へぇ〜。」」
この量で香りを楽しむことができるのかしら?
「このアロマストーンのくぼみにぃ、数滴入れるとぉ、勝手に揮発してぇ、香りが広がるわぁ。香木と違ってぇ、火を使わなくても楽しめますよぉ。あまりかさばらないしぃ、旅人さんにはこちらのほうがおすすめですよぉ。」
「へぇ〜。じゃあ、初めて出し簡単そうなそっちにしようかしら。」
「少しぃ、お高くなりますがぁ、大丈夫ですかぁ?」
「えぇ。問題ないわ。」
大量に貯蓄してある金貨がマジックバッグにパンパンに入っているからね。
流石にここ10年ぐらい尽きることは多分無いと思うわ。
香木も魅力的だけれど、今回は旅先で気軽に使える精油を優先するわ。
「ではぁ、どの種類を購入しますかぁ?」
「先程のおすすめの2つでお願いするわ。」
「わかりましたぁ。」
近くの棚から2つ小瓶を取り出してくる。…まぁ、お試しだしこれぐらいの量でいいわね。
試してみて、良かったら別の街で探せばいいだけだし。……売ってる確証はないけれど。
「合わせて銀貨7枚になりますぅ。」
「はい。」
「大銀貨1枚ですのでぇ、銀貨3枚のお返しでぇす。そうそう、お客さぁん。」
「はい?」
お釣りを受け取り、店をあとにしようとすると店員に呼び止められる。
「こういったものもどうですかぁ? 最近始めたんですよぉ。燻製チップをぉ。」
「燻製チップ?」
「燻製するとき、食材に香りをつけるものですね。」
「よく知っているわねぇ。旅をするならぁ、そういうのもどうかなぁって思ってぇ。」
「良いわね、それ。」
燻製にすれば食べ物が長持ちすることも知っているし、魔獣の肉も余っているから早速今夜やってみるのもありね。
「初心者には林檎がおすすめですよぉ。あとぉ、値段少々お高めですがぁ、東の海をわたった先の〝和〟から取り寄せたぁ、桜などもおすすめですねぇ。他にはぁ、ヒッコリーなどもぉ、おすすめですぅ。」
「じゃあ、それ3つ全部お願いするわ。量は…」
「500gずつで。」
「わかったわぁ。合わせてぇ…銀貨4枚ねぇ。」
「はい。」
私は、先程のお釣りの銀貨3枚と、新しく銀貨1枚を取り出して店員に渡す。
「お買い上げありがとうございましたぁ〜」
私たちは店をあとにし、大通りに出た。
「もう、特に思いつくこともないし、街を出ようかしら。」
「そうですね。」
今日はいい買い物ができて良かったわ。




