13 空想造形
「次は魔石茸…」
「待ってください。先に私が食べて問題ないと判断するまでこの肉を食べていてください。」
「…そうね。魔獣の肉にも興味があったのよ。」
街で売っていた肉はもう食べ尽くしたので、今は魔獣の肉を食べている。
…まぁ、現地調達する計画だったから問題ないのだけれど。
地面に刺さった串を取って、串から軽く土を払う。
そして、肉にかぶりつくっ!
「美味しいっ!」
はしたない食べ方だけれど、ジュワァっとのアツアツの肉汁が溢れてきて、とてもジューシーで美味しいわ! 普通に食べるより背徳感があって美味しさが増している気がするわ!
定期的にリクエストしようかしら。この食べ方。
「…では、いただきます。」
レティは魔石茸と思われるキノコを手に取り口元に運ぶ。
ゴクリと、私はつばを飲み込む。どうなるのかが未知数すぎる。
がぶりとレティはキノコに噛みつき、咀嚼する。
…顔には少し戸惑いの表情が浮かんでいる。…やっぱり、少し怖いのは怖いのね。
レティは全部を飲み込むとハッとした表情をする。
「――っ!?」
「大丈夫!?」
レティが急にみぞおちの辺りを押さえる。
やっぱり食べるべきじゃなかったのかしら…!? どうすれば…っ
「……はい、大丈夫です。…なれない感覚だったので、少し驚いただけです。」
「そう。なら良かったわ。」
私はもうレティなしでは生きていけない体になっているのよ…!
…そもそも確実にこの森を抜ける前にやられるわね。
ひとまず、レティに異常がなくて良かった。…異常はあるのだけれど、体調を崩すとかじゃないみたいだから、一安心ね。
「…魔力の循環が早くなりました。……濃度も上がっていますね。」
「苦しくはない? 本当に大丈夫なの?」
「えぇ、むしろ好調です。みぞおちの辺りに新たな臓器ができたような感覚です。」
「レティが大丈夫なら良いけど…」
私も試してみようかしら。もう好奇心が理性を抑えられなくなってきているわ。
「では、こちらをどうぞ。」
私の思考を読み取ったかのようにレティは魔石茸を渡してくる。
恐る恐る、キノコを口元に持ってきて…
がぶりっ! と、勢いよく齧る。
んっ、肉厚で美味しいわね。味付けが薄い塩だけだから、キノコの味がしっかりしているわ。
ハグハグと、すべて食べ尽くすと……
「っ…!」
…!? みぞおちに新しい何かができたような感覚…
魔力茸を食べたときにできた細い管が全てそこに集約するような感覚がある。そこから、新たに魔力が作られているような感覚もある。
「…大丈夫ですか?」
少し心配そうにこちらの顔を覗いてくるレティ。
心配してくれて嬉しいけど、多分大丈夫ね。…なんだか、体に力がみなぎる感じがするわ。
「えぇ、問題ないわ。ありがとう。」
「いえ。」
…なんだか、感じたことのない奇妙な感覚ね。今ならなんだか、魔法も使えそうな気がするわ。
魔力の真髄を知覚した魔道士は、魔導書を使わずとも魔法が使える。…ごく一握りの人間だけれども。
要はそれぐらいの全能感があるっていうことね。
「…では、最後にこれを食べてみましょうか。」
「そうね。……食べるときに目が眩みそうだけれどね。」
魔核茸と思われるこのキノコ。…さっきのキノコはきっと魔石茸だったのよね。
あの辞典にも載っていなかったし、魔力茸の説明に適用すれば、食べることで体に魔石を宿すっていうことになるのよね…?
……あれ? 私魔獣になっていないかしら…?
「多分これは魔核茸なのよね…?」
「おそらく。魔核は上位の魔獣に入っていることがありますね。」
「……私たち人間を超越するんじゃないかしら…?」
「いえ、人間も魔石を手に入れることは実際にありますので、私たちは運良くショートカットができただけだとでも思っていてください。」
……まぁ、戦闘はほとんどレティがやるんだろうけどね…
流石に魔導書の使い方… あわよくば魔法も使えるようになりたいわね。
そうすれば大量の魔導書を持ち歩くなんてことをしなくて済むわ。
「また逆も然り、魔獣が心石を手に入れることもありますので。」
「心石…?」
「知りませんでしたか…?」
「えぇ。教えられなかったわ。どの文献にも載っていなかったもの。」
「…ふむ、そうですね…」
初めて聞く単語ね。…もしかして動物特有のものだったりするのかしら…?
「心石というのは魔石の対になるものです。魔石は月の魔力、心石は陽の魔力を使いますね。」
「……なんで知られていないの?」
「人間から手に入れられると知られてしまえば、とんでもないことになるのは目に見えていますから。」
「…まぁ、魔石よりは簡単に手に入れやすいからね…」
でも、家畜からでてきてもおかしくないと思うのだけれど……
いや、考えても仕方ないわね。
「まぁいいや。早く食べましょう。」
「理論上は似た作用だと思いますが、一応先に私が食べさせてもらいますね。」
「…レティばっかり危険を犯していてなんだか申し訳ないわ。」
「私はエルセに仕えているのですよ?」
「…うーん……」
せっかくの旅なんだから、上下関係とかそういう面倒くさいこと取っ払って気さくに旅をしたいんだけど…
「じゃあ、同時に食べようよ。」
「それでは毒見の意味が…」
「じゃあ今レティのことを解雇するわね。」
「…………えっ?」
ふふっ、戸惑っているわね。
でも、こうしない限り対等に接してくれないじゃないの。
「ということで、これからレティには対等な友達として旅を続けましょう!」
「……はい。わかりました。」
…かしこまった口調は癖として残っているみたいだし、許してあげよう。
というか、私はもう既に友達みたいな感覚だったのだけれど、まだレティにメイドとしての自覚があったことに驚きだったわ。
……もう私はどこかの貴族の令嬢として生きるつもりもないのに。
「ってことで、友達祝としてキノコでかんぱーい」
「…いえーい。」
煌々と光ってるキノコ同士をぶつけ合い、食べ始める。
……なんだかんだいってレティもノリが良いのね。
モグモグと、キノコを食べ尽くす。すると不思議な感覚に全身が覆われる。
……ん?
「『空想造形』」
直感的に頭に浮かんだ言葉を発すると、体からなにかが抜けて、目の前で四角いキューブとして具現化した。
「……え?」




