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23 居場所(完)

 ――結婚してほしい。


 ヴィンセントの求婚にエステルは頭が真っ白になった。


「もともとは俺に道を拓いてくれたってことで感謝はしていた。でも、アルディオンで自分の力で居場所を作ろうとする君の姿を見て、いつのまにか惹かれていた。ずっと君と一緒にいたい、と思ったんだ」


 ヴィンセントが真摯に言葉を重ねる。エステルの胸がいっぱいになった。


「君のアルディオンでの居場所をもう一つ増やしてくれないか?」


 エステルの頭によぎるのは、ヴィンセントとの思い出。

 最初にエステルの力を見せる場を作ってくれたこと。

 幼い日のエステルの言ったことを覚えていて感謝してくれたこと。

 居場所を作ってくれたこと。

 こうしてラグナリアまで一緒に来てくれたこと。


 いつしかエステルも、ヴィンセントのことを深く信頼していた。


(でも、それだけ?)


 ヴィンセントにワルツを申し込んでくる令嬢にとてももやもやした。

 エステル以外と踊らないと断ってくれて嬉しかった。

 そして何より、彼が隣にいるととても勇気が出る。

 それは彼が特別な存在である証左じゃないだろうか。

 信頼だけじゃない。きっと。


(――そうだ。私もずっとヴィンセント殿下が特別だった)


 ヴィンセントを誰にも取られたくない。

 彼の隣にいるのは自分でありたい。

 だからこそ、あんなにもやもやしてしまったんだ。


 それはもう、恋と言っていいんじゃないだろうか。


 そう気づいたら、いても立ってもいられなくなった。


「大好きです。ヴィンセント殿下!」


 エステルは勢いのままぎゅっとヴィンセントに抱きついた。


「え、エステル?」


 まさかエステルが抱きついてくるとは思わなかったのだろう。ヴィンセントが動揺している。

 が、すぐにエステルの背中にぎゅっと腕が回される。


「まさかこうくるとは……予想外すぎる」

「駄目でしたか?」

「駄目じゃないよ」


 そっとヴィンセントを見上げると、彼が甘い瞳でこちらを見下ろしていた。

 ヴィンセントが囁くように尋ねてくる。


「……それで、求婚の返事は?」

「さっき返事をしたつもりだったんですけど」

「きちんとしたのが聞きたいんだ。エステル」


「もちろん、OKです!」


 エステルが笑顔で答えると、ヴィンセントは本当に幸せそうに微笑んだ。


 


 * * *



 

 ラグナリア行きの前にアレクシスに出してくれと頼んでいた書簡。

 ヴィンセントは最初から本気だったらしい。そして実際に書簡は出されていた。

 宰相が架け橋、といっていたのは、同盟の証のことではなく、ヴィンセントとの結婚を指していたことに気づく。


 正式な書簡だったということは、もちろん、アルディオンの国王夫妻にも許可をとっていたということだ。

 もっとも、エステルが承諾したら、の条件がついていたそうだけれど。


 エステルの承諾を得たヴィンセントは意気揚々とその旨をレオナルドに伝えた。

 婚約話は驚くほどスムーズに進んだ。陛下には兄が口添えしてくれたのも大きいらしい。

 わずか数日でヴィンセントとエステルの婚約が正式に決まった。


 ラグナリアの方で派手は発表をする予定はないが、エステルはそれでかまわないと思っている。

 守備騎士団の皆には報告して、祝ってもらえた。それだけで十分だ。

 



 * * *


 

 

「なんだか緊張します」


 アルディオンの王宮まであともう少し。

 馬車の中でエステルは緊張していた。


 なにせ、ラグナリアへ向かったときとこちらに戻ってくるときで、ヴィンセントとの関係が変わっているのだ。

 みんなにどういう顔をして会えばいいのかわからない。


 だというのに。

 エステルの隣にぴったりと座ったヴィンセントは余裕だ。エステルはドキドキしっぱなしなのに。


「大丈夫だよ。既に両親には連絡済だし、祝いの言葉をもらっている。ラグナリアとは同盟もあるし、みんな祝ってくれると思うよ」

「それはもちろんわかってますけど。なんだか恥ずかしいというか……」


 もごもごと口ごもるとヴィンセントが笑みを深くして身体を寄せてきた。


「かわいい」

「!」

「いや、でも本当の話、何も困ることはないよ。むしろ、みんな祝ってくれる。賭けてもいい」

「だと、いいんですけど」


 エステルは馬車の外に視線を向ける。王宮が近づいてきた。


 ヴィンセントの妻になるのは、一筋縄ではいかないだろう。まず、王子妃教育が必要だ。冷遇されてきたエステルには、教養が足りない。それを自覚している。

 だが、辛いことばかりではないはずだ。

 特にダンスについては、絶対覚えて次の夜会ではヴィンセントと踊るつもりでいる。

 ヴィンセントのためだと思えば、辛いことだって頑張れる。


 馬車がとまる。王宮に着いたのだ。


「ほら。エステル」


 先に馬車を降りたヴィンセントがエステルに手を差し出す。

 エステルはその手を取った。


 アルディオン。エステルの居場所へゆっくりと降り立つ。

 出迎えてくれたのは、アレクシス……と思いきや、後ろには今までエステルが可能性を見てきた騎士たちや侍女たちがいた。ナタリーもいる。


「おかえり。よくやった。ヴィンセント。エステル殿下」


 アレクシスが代表して労いの言葉をかけてくれる。


「そして、婚約、おめでとう」


 その言葉を合図に周囲がわああと盛り上がる。口々にかけられる祝福の言葉。


「おめでとうございます。ヴィンセント殿下! エステル殿下!」

「ヴィンセント殿下。ようやく通じたんですね!」


(ああ。私はここにいていいんだ)


 エステルは心の底からそう感じることができた。

 ヴィンセントの方を見ると、彼と目が合う。


「ほら。みんな祝福してくれただろ?」

「はい」


 お互いに微笑みあうと、周囲からひゅーとからかうような声が飛んだ。


 エステルは、これからこの国で生きていく。

 エステルの価値を見つけてくれたこのひとの横で幸せになるのだ。

 エステルは迎えてくれたみんなを見回すと、笑顔で言った。


「みなさん、ただいま!」

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

居場所がテーマのお話でした。

エステルとヴィンセントの物語を楽しんでいただければ幸いです。


そして、少しでもよかったと思っていただけたなら、ブックマークや下の☆☆☆☆☆の評価で応援していただけると、とても励みになります!


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