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60 カルトラは酔うと、人が変わる

「なぁ、ジジイなんで僕にあんないい店黙ってたんだよ、なぁなぁ。」


機嫌良さそうにドワーフに絡んでいるカルトラ。


どうやらカルトラは酔うと人が変わるらしく、店でもウェーイなどとジョッキどころかピッチャーを掲げてイッキなどを披露していた。


アイリスティアがそちらに視線を送ろうとすると、ママさんやナミリナが慌てて話題を振ったり、身体で隠したりしていたが、少しその様子が見えてしまったのだ。


「オッシャ脱ぐぞー。」


なんて声も聞こえた気がしたので、それからは教育に悪いから子供が見てはいけないと思い、間違っても見ないようにしていた。


それからも音ではどんちゃん騒ぎを、目ではママさんが眉をしかめる様を見て、アイリスティアはカルトラという人物がよくわからなくなっていた。


先ほども酔いはまったくと言っていいほどに冷めておらず、アイリスティアにも絡んで来ようとして、ドワーフに投げ飛ばされたが、打たれ強いのか、すぐに復活し、またけろっとドワーフに絡んでいる。


「なぁなぁ、なぁったら、なぁ!」


「いい加減うっさいわ!ほれ!家に着いたぞい!儂はここまでじゃ!」


「おう!よくやった、ジジイ!あははは、はっ!!」


「…またのう、アイちゃんや。…はぁ…今度、ママに謝りに行かんと…。」


ドワーフがトボトボと帰って行くのをアイリスティアが手を振って見送っていると、忘れていたとドワーフは戻って来て、アイリスティアに耳打ちしてきた。


「あっ、それと寝る時は【消音】を使うんじゃぞ。」


「?えっと…は、い?」


「よし!おじいちゃんとの約束じゃ!武運を祈る!」


アイリスティアとドワーフがそんなやり取りをしていると、カルトラはドアを開けてしまった。


「おーい!僕が帰ったぞー!!」


「うわ、ヤバっ!アイちゃん、じゃあの!」


「…はい…おやすみなさい…。」


ドワーフが駆け去って行くのを見て、アイリスティアは物凄い不安を感じた。



アイリスティアが中に入ると、ノーリとカルトラは向き合っていた。


「今帰ったぞ!嫁、水!」


えっ?


カルトラの見せる、素面なら絶対にしないであろうノーリへの振る舞いにアイリスティアは目を見開いた。


アイリスティアがノーリが怒るのではないかと思いヒヤヒヤしていると、ノーリは一瞬イラッとした顔をしたものの、やれやれと折れた様子を見せ、コップに水を汲んで持ってきた。


「はい、水。」


「おお、サンキュー。ゴクゴクゴク、プハーッ!ヒック…いや〜、やっぱりノーリが淹れてくれた水が一番だ!最っ高!!流石僕の嫁!」


「はぁ…まったくあんたは…って、あら、アイちゃんもお帰りなさい。アイちゃんも飲む?」


「えっと…はい、ではいただきます。」


「うん、じゃあどうぞ。って言っても、ただの水だけどね。」


「ありがとうございます。」


アイリスティアは水を一口口に含むと、少し歩いたからか、喉を通り抜ける感覚が心地よく、自然と笑みが浮かんだ。


すると、ノーリは優しく微笑んでいて、もう一杯どうと差し出してきたので、お願いしますと渡すと、自分の分も持って来てアイリスティアの隣に腰を下ろした。


「アイちゃん、こいつ、かなり飲んでいたみたいだけど、なんか変なことしなかった?迷惑掛けたりとか…。」


「そんなことないよな!アイ様!僕は至って普通、紳士だった。」


調子に乗り、ガハハと笑うカルトラ。


すると、ノーリは余計に心配そうになり、アイリスティアに聴く。


「…アイちゃん、正直に言ってね…。」


「…えっと…まあ…なんと言いますか…。」


そうアイリスティアが言い淀むと、ノーリは額に手を当てた。


「…ああ…やっぱりやったんだ…。」


「…まあ…はい。」


「…んぁぁ…また謝りに行かなきゃ…。どこの飲み屋だろ…。出禁になってないといいけど…。」


またという言葉と驚きの少ないノーリの様子にアイリスティアはこんなことが頻繁にあることを覚り、ノーリの苦労を慮った。


ポンポンと肩を叩くと、ノーリはありがとうと短く言い、アイリスティアへと笑顔を浮かべた。


「で、アイちゃんは今日どんなもの食べてきたの?美味しかった?」


「はい、とっても甘くて、瑞々しかったです。」


「へえ~、ということは、スイーツ関係のお店かな?ここにもそういうところあったんだ。うん、じゃあ今度一緒に行こっか♪」


「はい。」


「他にはどこに行ったの?」


「え?」


「いや、だってごはん処にも行ったんでしょ?夕飯がお菓子やフルーツだけってことはないでしょ?ごはん処、スイーツ店、飲み屋って回って来たんでしょ?」


「……。」


ノーリに聞かれたことにアイリスティアが黙ってしまったので、ノーリは首を傾げると、変に思い、頭を捻った。


すると、一つの結論に至ったのか、アイリスティアへと尋ねる。


「…ところでアイちゃんどこでご飯食べてきたの?」


「…えっと…【夜恋華】です。」


「…もう一度言ってもらっていい?」


「…【夜恋華】です。」


すると、ノーリの仕方ないわねといった様子が消え去り、アイリスティアに微笑む。


「…アイちゃん、この馬鹿の酔いを冷ましてもらえる?そしたら、寝ちゃっていいから…ううん、もう寝ちゃいなさいな…母さんと…って、母さんは早いから寝ちゃっただろうから…うん、今日はアヤと寝ちゃいなさい。いい?」


ノーリのアイリスティアにかける言葉は優しいままで笑ってはいたが、額には怒りマークが浮かんでおり、拳はふるふると震えていた。


「えっと…あんまり怒らないであげてくださいね。僕のことを心配してくれたらしいので…。」


アイリスティアが怯えたように見えたのだろうか?ノーリは拳を解き、額に浮かんだ青筋に消えろ消えろと頭を振ると、アイリスティアを優しく抱きしめ、微笑んで頬にチュっとした。


「うん、わかったわ。今日は手加減してやるかな?」


ノーリのそんな反応にアイリスティアは大丈夫そうだと安心したのか、微笑むと、言われた通りに魔術を使い、部屋をあとにした。


「はい、おやすみなさい。ノーリさん、カルトラさん。【アンチポイズン】」


「はい、おやすみなさい、アイちゃん。」


ドアが閉まる直前をアイリスティアは見ていなかったが、その時ノーリには獰猛な笑みが浮かんでいた。


「あ、あれ?ここは?」


カルトラのその声が聞こえた後、ちょっとした説教でも聞かない方がいいかと、アイリスティアは部屋の音が外へと漏れないように約束通り【消音】を掛けて、アヤの部屋に向かった。


トントンとノックし、事情を説明すると、アヤは満面の笑みで応えてくれた。


「はい、もちろんです!私もアイちゃんとずっと眠りたいと思って、待ってたんです!さぁ、それじゃあ寝ましょう!」


明かりを消し、早速布団に潜り込むと、二人の息遣いが聞こえ合うような距離感がどこか心地よく、互いに見つめ合っていた。


どちらからともなく、笑いが漏れ、アヤが抱きついてきたので、どれほどの間か優しく頭を撫でていると、アヤの体温の温かさが伝わってきて、いつの間にか目蓋が重くなり、二人の寝息のみがベッドからは聞こえるようになるのだった。



【消音】によって音が外界と途絶された世界では、日が昇るまで、ノーリによるカルトラのメンタル殲滅戦が続き、マーサが起きると、アイリスティアを預かったマーサまでもそれに加わった。


外が騒がしくなった頃、朝ご飯を求めて起きてきたラクトがたしなめると、マーサがご飯の準備をし始め、徹夜だった二人は寝ようとしたのだが、ギルドからの使いが至急来るようにというので、寝ずにギルドへと向かうことになる。


帰って来るなり二人は爆睡したのは言うまでもない。


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