#25 魔砲獣の仔
「ふう……憂鬱だねえ。」
「何なら降りっか、利澤?」
「いんや……ただ、人死にはゴリゴリだなって思えてねえ。」
列車魔砲上星号が、線路上を行く中。
私たちは魔砲獣の襲撃があった村――正確には、その跡地に向かう気の重さから少し塞いでいたわ。
状況を纏めると。
突如として魔砲獣の大群が、かつてない速度でその街を襲撃し。
慌てて各地の学園街(どれか一国の領土ではなく緩衝地帯だったためよ)は列車魔砲を派遣したけれど、到底間に合わず。
到着した頃には、街は焼け野原になっていたらしいわ。
「焼け野原、か……本当に憂鬱ですね、先輩たち。」
「ああ、そうだね向氷ちゃん……」
「こ、鉱美……」
「み、美葉……」
私は思わず、そう口走って。
皆もそれに同調してくれたわ。
「駄目だよ、そんなこと考えちゃ! 私たちが行かないとなんでしょ、皆♪」
……相変わらずと言うべきなのかしら、火南香乃音以外はだけどね。
「まったく……相変わらずねあんたは! 私たちが行っても、もう戦い――いえ、地獄はもう終わってんのよ! だから」
「だから何? 私たちが行っても、まだ誰か助けられるかもしれないんでしょ! だから」
――間もなく、目的地に到着する! 総員持ち場につけ、付近に魔砲獣の群れがいないか警戒せよ!
「り、了解!」
「了解♪」
と、どうやらこの言い争いは一旦お預けになったわ。
まあ確かに火南香乃音の言うことにも一理はあるわね!
これは仕事なんだし、個人的な感情や事情を差し挟む余地なんてない。
それは確かね!
◆◇
「ここ、か……」
「こりゃあ、想像以上に地獄絵図だねえ……」
私たちはそのまま、特に襲撃に遭うこともないまま街の跡地に着き。
そのまま上星号から分離した自分の魔砲戦車で跡地を駆け回るけど。
いずれの建物も崩落していたり、焼けてしまっていたり。
もはや、街は原形すら止めていなかったわ!
「ひどい……ひどいよこんなの!」
火南香乃音も、惨状には絶句した様子だわ。
「こちら向氷! ただ今生存者を確認中ですが、視界内にその反応はなし!」
私も動揺しながらも、報告を上げる。
既に生存者は遅ればせながら到着した、上星学園の第二戦車連隊をはじめとする各国の部隊に保護はされているんだけど。
私たちも、残りの生存者の捜索活動に邁進しないとなのよ!
「でもこれって……地下鉄道の仕業なんでしょうか?」
私はその通信の中で、ふと湧いた疑問を口にしたわ。
そう、魔砲獣の群れがいきなり人を襲うとすれば。
それはやはり、何らかの人による介入があったんじゃないかと思ってしまうわ。
前のフロンティアへと重要人物を護衛する戦いの時。
どんな手を使ったかは定かじゃないけど、突如として魔砲獣の大群を引き連れて地下鉄道の連中が現れたように――
「いや向氷ちゃん……どうやら、その考えは違うみたいだ! こちら利澤、皆! 早く来てくれないかい、ちょっと面白いものを見つけたよ!」
え……な、何ですって利澤先輩!
お、面白いもの、ですか?
◆◇
「こ、これは……」
「ま、魔砲獣が!?」
私たちは利澤先輩の言うポイントに急行し、その光景に絶句したわ。
私たちの目の前にいるのは、何と。
地面に横たわっている、サンダーバード型の魔砲獣の姿。
「魔砲獣の死骸……? 撃ち落とされたんでしょうか?」
「いいや、忘れたかい? ここに駆けつけた部隊は、どれも魔砲獣の襲撃には間に合わなかったって。」
そ、そうですね利澤先輩……
そもそも、こいつには見たところ傷がありません。
じゃあ、こいつは何で死んでいるんでしょうか?
「恐らく、力尽きたんだよ……飛び続けられる限界を超えたことが原因でね!」
と、飛び続けられる限界!?
それを超えてまで攻めて来る……
た、確かに魔砲獣たちが自分でそうするとも地下鉄道の奴らの差金とも考えづらいですね……
「こいつ一体じゃなくて、探せば周り中こんな死骸ばっかりだったりしてな……まあ、まだ魔砲獣が潜んでいたり新たに攻めて来たりする可能性もゼロじゃない! 周囲を最大警戒!」
「り、了解!!」
まあ何にせよ、未だ警戒は怠れない。
それも事実です、先輩!
「ま、待って神奈ちゃん! ま、魔砲獣さんピクリって動いたよ!」
と、そこで火南香乃音が声を上げたわ!
まったく、あんたは相変わらず……
いや待ちなさい、動いたですって?
魔砲獣の死骸が!?
「皆、砲身をこの死骸に照準! まだ虫の息ではあるのかもね、止めを刺すよ!」
「了解!!」
利澤先輩の指揮の下、私たちは砲身を死骸に向ける。
やっぱり、魔砲獣の生命力は侮れないわね……
と、その時。
「!? ま、魔砲獣の口が開いて……?」
「な、あれは!?」
私たちが、更に驚いたことに。
その魔砲獣の口が徐に開き。
中から出てきたのは、何と。
「に、人間が!?」
「ま、魔砲獣の中に!?」
私たちは、目を疑った。
それは紛れもなく、眠っている様子のまま転がり出て来た人間の少女だったから――




