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#26 呪われた仔

「んごくっ、んごくっ、ごくっ……」

「大丈夫?」

「は、はい……あ、ありがとうございま……す……」


 私たちが用意した水を飲み。

 あの街から救出された少女は、生き返ったって顔をしているわ。


 ここは上星号の車内。

 私たちはあれから、この娘を回収して上星号車内で介抱しているというわけ。


「そろそろ聞いてもいいかしら? あなた、名前は?」

「や、八重・B・ストリングス……」


 私がそう聞いたら、この娘は名乗ってくれたわ。

 八重・B・ストリングス。


 緩衝地帯の街らしく、いろんな民族の文化の混成を感じさせる名前ね……


 まあそれはさておき。

 確かにあの街の名簿にあるわ。


 行方不明者として掲載されているし、ほぼほぼ間違いないわね。


「八重ちゃんて言うんだ! 可愛いね、好きな食べ物は何? 趣味は?」

「え? え、えっと……」

「ち、ちょっと火南香乃音!」


 まったく……またあんたなの火南香乃音!

 八重さん戸惑ってるじゃない!


「えっと……ひ、羊の肉が好きで……し、趣味は農作業で……」


 ……って、そこは律儀に答えちゃうの八重さん!?

 いやいや、いいんですよそんな。


 この火南香乃音に、そんな気使わなくても!


「羊さん好きなんだ! ちょっとクセあるけど美味しいよね〜!」

「はい、大好きです! えっとあなたは」

「あ、ごめんね! 私香乃音。火南香乃音!」


 ……え、ちょっと……

 何よこれ、何か通じ合っている?


 いやいや、そんな!


「ははは、向氷ちゃん! 今日のところは火南に完敗だよ。」

「り、利澤先輩……」

「向氷ちゃん、あんたやっぱりちょっと真面目過ぎるんだよ! もっと肩の力を抜かねえとな!」

「か、風間先輩も……」


 ち、ちょっと!

 まったく両先輩方、また火南香乃音を!


 私だってやってるのにい!


「まあ、あの娘を避難所に送るまでの仕事だからねえ……むしろあんまり感情移入しない方がいいかもしれないねえ。」


 あ……まあ、そうですね先輩。

 上星号はもう、避難所に近づいていますね……


 ◆◇


「ここは、ネオポット街の住民一時避難所でよろしいですか?」

「あ、はい。えっと」

「日本国上星学園街より参りました、上星学園第一戦車連隊です! 行方不明者のうち一人を発見・保護し……医師の許可も降りましたので、護送しました次第です。」

「あ……お、お疲れ様です!」


 そうして、避難所に着くと。


 受付の女性に風向井監視官はそう話を通してくれたわ。


「八重・B・ストリングスさんのご家族は……あちらですね。」

「ありがとうございます。……さあ、八重さん。」

「あ、ありがとうございます……」

「八重ちゃん、寂しいよう……」

「はい、私もです香乃音さん……」


 入口の影から中を覗くと、たくさんの人が床にシートが引かれた上で休む中。


 八重さんのアメリカ人と日本人のご両親も見えたわ。

 だけど……


「お、お父さん、お母さん……」

「What!? 八重……お前は……お前は何でここにいるんだ!」


 私たちが尚も中を見守る中八重さんがご両親に寄ると、お父さんがそんな反応を示したわ。


 ち、ちょっと……

 か、感動の親子の再会にしてはあんまりじゃないですか!


「近づくな! やっぱりそいつは……そいつは、忌々しい魔砲獣の仔だ!」

「お、お父さん……」


 だけど次の言葉は、私たちにも聞き捨てならないことだったわ。


 ま、魔砲獣の仔ですって!?

 それには心当たりがない訳ではなかったわ。


 私たちが八重さんを助けた時の状況よ。


 地面に横たわっている、サンダーバード型の魔砲獣の姿。


 その魔砲獣の口が徐に開き。

 中から出てきたのは、何と八重さんで……


「YES! この娘は、昔魔砲獣が私たちの街を襲った時。その内の墜落した一匹の口から出て来た! 私は反対したが……妻が引き取ると言って聞かなかったから渋々引き取って育ててやったというのに! その恩を仇で返すのか!」


 な……ほ、本当ですか八重さんのお父さん!

 それってまさに……まさに私たちが彼女を助けた時と同じじゃないの!


「そうだ! そんな化け物のせいで!」

「shit! 化け物は帰れ!」


 で……でも!

 気づけばお父さんだけじゃなくてあの街――ネオポット街の人たち皆までもが八重さんを責めてるこの状況、どう見たって異常ですよ!


「八重ちゃん! ひどい、皆して」

「待ちなさい火南香乃音! あんたが出て行ったって火に油を注ぐだけよ!」

「で、でも!」


 ええ、私も今回ばかりはあんたと同じ気持ちよ火南香乃音。

 でも……今私が言った通り。


 今のこの状況は、私たちが出る幕じゃないのよ!


「い、いや……いやああああ!」


 くっ……な、何これ!?


 こ、この娘――八重さんが叫んだ声が、脳内にキャンキャン反響して……


 ◆◇


 ――何なのだ、この数日間は? 魔砲獣たちが無闇やたらと、長距離を群れで移動しているが。


「はっ、ワーム! その件については未だ調査中でして……」


 その頃、地下鉄道のアジトとなっているオアシスでは。


 どうやら彼女たちと連携している魔砲獣たちの異状に、ワームたちも気づいているらしく。


 シャドウが必死に弁明しているわ。


 だけど。


「!? わ、ワーム……また魔砲獣の群れが大挙して森から出て行くと……」


 ――何?


 ワームとシャドウが話す傍から、また魔砲獣の行軍が始まったわ!


 ◆◇


「こちら風向井! 第一戦車連隊、応答せよ!」

「! 監視官……こちら利澤!」

「至急、上星号に生存者を乗せてこの場を離れよう! 魔砲獣の大群が迫っているそうだ!」

「……了解!」


 そうして、再び避難所周辺では。


 念のため周囲を警戒すべく上星号に戻っていた私たちに、監視官が機関車より指示を出したわ。


 だけど、これって……


 ――近づくな! やっぱりそいつは……そいつは、忌々しい魔砲獣の仔だ!


 ま、まさか本当に八重さんが?

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