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第59話

 これから忙しくなる!


 ……と意気込んだ通り、そこからの日々は忙しかった。

 一作目の時も、そうなんだけど「描く」のは忙しくない。

 実際、私がやらないといけないことの優先順位一位である舞台の漫画化はスムーズだった。

 シナリオができているおかげでネームは早くできたし、一作目の漫画のスピンオフだから背景や制服のデザインに悩まない。

 描くのが決まれば手が早いのが自慢。

 主役である推しに似せたお気に入りのイケメンが沢山描けるのも筆がのる。

 というわけで、アーシャやナダールに消しゴムやベタを少しだけ手伝ってもらっただけなのに二週間ほどで原稿が出来上がってしまった。

 スーイさんも、劇団からも一発OKで直しは無し。

 これで当分は色々なチェックをするだけだから暇かな~……と思ったんだけど、甘かった。

 

 私が原稿を頑張っている間に、舞台のことも建築のことも出版のこともどんどん決定していって、それは嬉しいんだけど……。

 

「出版社から、二作目の出版権の契約書です。読んでサインをお願いします」

「うちの店の方も、男性用スラックスの契約書です! 読んでサインお願いします!」

「劇団からの契約書です。こちらはシナリオ監修とポスターなどのイラスト作成に対する報酬の契約書、こちらは権利関係の契約書、こちらは舞台シナリオの漫画化に関する契約書です。読んでサインをお願いします」

「うちの店の、今度は観劇セット用の契約書です! 複数社絡むのでここと、ここと、ここと、こっちにもサインお願いします!」

「出版社から、舞台の漫画化についての契約書です。読んでサインをお願いします」


 これ!!!!

 この契約書ラッシュ。

 なんで契約書ってどこの世界でもこんなに文字が多いの?

 元の世界の契約書よりは文面が簡潔でまだ読む気にはなるし、ナダールが要約してくれるからなんとかなっているけど。

 でも、こんなのまだ序の口だった。


「建築会社の方から、国に提出する建築計画書、事業計画書に関する依頼が来ました」

 

 ナダールやアーシャの店が関われることになったので、話を進めることにしたドワーフの国での建築事業。

 これがまた大変で……。


「ドワーフの国の建築基準が厳しくて、ガラス部分以外の外壁に使える素材がこのリストの中からしか選べないとのことと、ガラスの透明度に関する質問、あとは……」


 そんな専門的なこと言われてもって感じなんだけど、資材や素材のサンプルも沢山送られてきていて、一生懸命考えたり選んだり……疲れた。

 自分の家も建てたことないのに素材選びとかマジで無理! 大きなビルになった時のイメージなんて全然わかない! 元の世界の建築に使われる素材とはちょっと違う気もするし……。

 元の世界でコラボポーチを作る時にレースやファスナーのサンプルを沢山送ってもらってどれを使うか選んだときは楽しかったんだけどな……。


 そしてこういう確認は他にも……


「二作目の装丁のデザイン案です。表紙の紙はこれで、タイトル用のインクは……」

「スラックスの試作ができました! 監修お願いします!」

「舞台セットの背景チェックをお願いします」

「スラックスの獣人用の試作ができました! 監修お願いします!」

「新聞広告のラフができました! 確認お願いします」

「舞台で使う小物と、通行人キャラクターの衣装の監修お願いします!」

「二作目の書店用の紹介文のあらすじ、これでいいですか?」

 

 この前もやった。

 この世界での漫画一作目の時。

 でも、一回やったから慣れるものでもない。

 しかも舞台化は元の世界でも経験してないから、アニメやグッズの監修とはまた違って結構大変。

 小物の裏側とか、建物の別の角度とか、漫画に描いていない部分を改めて考えないといけないものが多すぎる!

 元の世界が舞台だから、鞄一つとっても構造を知っているのは私だけだし。

 自分の作品が立体になるのは楽しいし……って前もなんとか楽しんで乗り切ったけど、今回も、なんとか……なんとか乗り切った。

 

 あとはあれだな……

 

「瓶のラベルと箱のサイズが決定しましたので絵を……」

「新聞広告用の絵を……」

「観劇セット用の絵を……」

「舞台ポスターとパンフレット用の絵を……」

「書店に貼るPOP用の絵を……」

「舞台雑誌への広告の絵を……」

「酒のチラシ用の絵を……」

「店舗の壁に飾る絵を……」


 仕方がない。

 これは本当、仕方がない。

 絵は速く描けるし楽しいから、大丈夫。

 あまりにたくさん頼まれるから、どれがどれ用とかサイズとかぐちゃぐちゃになりかけたけど、なんとか……。


 なんとかこなしたけど、正直しんどい!!!!!!

 絵を描くのが好きだけど、早いけど、色々使ってもらえて嬉しいけど!!!!!!!!


 この世界、デジタルが無いからマジでしんどい!!!!!!!!


 デジタルが無いって、私の作業もそうなんだけど、出版社とか色々製造する工場にもパソコンやデジタルの技術が無いわけで……コピペとか使いまわしがきかないわけで……。

 似たような絵を何枚書かされたことか……!

 それに加えて、拡大もできないからか、漫画一作目の時にも描いた特大の看板用のイラストをまた頼まれた。

 自分の身長くらいならまだ、まだ一応、美大時代に特大キャンパスを埋めた経験で何とかなった。

 何とかなったんだけど……。

 つい……。

 ついついコラボカフェになったのが嬉しくて……。


「カフェ用に等身大のキャラのパネル作ろうよ!」


 なんて元の世界でやってもらって嬉しかったことを自分で言ってしまった。

 等身で描くのが大変なこと、後から思い知った……。

 リアル人間サイズってバランス難しい。

 しかも、出来上がったら出来上がったで……

 

「ミヤコ様! うちの店頭にもこれ置きたいです!」


 なんてキラキラした笑顔でアーシャに言われて……


「ヤダ様。劇場の入り口にもあればファンの方が喜ぶと思うんです」


 なんてキラキラした笑顔でラヅさんにも言われて……

 描いたよ。頑張った。これはまぁ、自分が言い出した責任もあるし。


 でも……


「ミヤコ様、劇場の前に出す看板なのですが……」


 ナダールとラヅさん、劇団のマウンティアさんやファイヤーウォールさんたちが、部屋に入らないからとお城の倉庫に搬入した劇場看板用の板は……。


「これ、私が描くの?」

「看板職人に頼んでみたのですが、今まで描いたことが無い絵柄なので自信が無いと言われまして……」


 他の仕事はいわれるままだった私も、思わず無言になった。

 だって、これ……何センチ? いや、違う。

 何メートル?

 壁画のレベル。

 縦が私の身長四人分で、横は私の身長一〇人分……より大きいな。


「こんな大きさ描いたことないんだけど……」

「右半分は文字で埋まるので、半分でいいのですが」


 それでも大きい。

 無理だって。

 そう思うのに……。


「ミヤコ様の絵が大きく描かれていれば、絶対に目を引くと思うんです! 塗りの部分は看板職人も手伝ってくれると思います」

「ぜひ、ヤダ様の繊細な絵を看板として使いたいんです!」

「ヤダ様、お願いします!」

「お願いします!」

「……わかった」


 イケメン三人で懇願はずるい。


 グリッド線を引きまくって、何とか下絵を完成させるだけで三日、ペン入れに二日、そして塗りには職人さんの力も借りて五日かかった。

 まぁまぁ上手くできたと思うけど、普段、原稿用紙サイズでしか動かさない腕や机に座りっぱなしの足腰は悲鳴を上げ……。

 

 さすがに元の世界が恋しくなった。


読んで頂きありがとうございます!

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