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貴方の瞳に映りたい  作者: 蒼華
本編
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53 アルム兄様の心配性


捕縛作戦決行日の2日後。セリーナ経由で城へ呼び出された。

用件はダン子爵家についてだと思われる。


マーリンに支度を整えて貰いながら、マーリンの視線はシェラルージェの左手にある指輪に注がれて、ニマニマした生暖かい眼差しをシェラルージェに送ってくる。その視線に晒されてシェラルージェは真っ赤になり顔から熱が引くことがなかった。


捕縛作戦決行日に、ハリー様の気持ちを知って、ハリー様からの結婚の申し込みを承諾したシェラルージェは、戻ってきたアルム兄様にすぐに異変を気づかれた。まあ、瞳を真っ赤にしていたら誰でも気づくかもしれないけれど。

アルム兄様は馬車の中に入ってくると、ハリー様の膝の上に座っていたシェラルージェを見て眉をひそめた。

そして「手が早いな」とぼそっと呟く。


「まだ赦してないよ? シェラを離してくれる?」


アルム兄様の初めて聞く冷え冷えした声に、叱られたと思ったシェラルージェはハリー様の膝の上で固まった。

ハリー様は固まったシェラルージェを優しく大丈夫だというように叩いたあと、ゆっくりとシェラルージェを膝から下ろした。そしてアルム兄様に向き直ると、姿勢を正して挑むように見据えた。


「アルム、シェーラ嬢に結婚の申し込みを承諾してもらえた。私をシェーラ嬢の結婚相手として認めて欲しい」


ハリー様の真剣な眼差しを受けて、アルム兄様はシェラルージェを見つめた。


「シェラは本当にハリスでいいのかい?」

「はい。ハリー様をお慕いしています」


アルム兄様に認めて欲しくて、自分の気持ちを伝える。

臆病だった私はいつも自分の気持ちを伝えられなくて後ろ向きだった。

でも、ちゃんと言葉にしないと誤解されたり、誤解したりすることがあることを身にしみて分かった。まだまだ伝えることは苦手だけれど、今はハリー様の気持ちを知ったことによって自信が持てたからアルム兄様に伝えることが出来たのだと思う。


「そう。シェラの気持ちは分かった」


シェラルージェの返事を聞いたアルム兄様は険しかった表情を和らげる。


「父上に伝えておくよ」

「宜しく頼む」

「お願いします」


ハリー様と同時にシェラルージェは頭を下げた。

そんな話をしている内に屋敷に戻ってきていて、シェラルージェは追い立てられるようにアルム兄様に屋敷へ押し込まれた。

マーリンに湯浴みを促され、身体が温まった頃には睡魔が襲ってくる。やはり疲労は溜まっていたようだった。

ベッドに入ったらすぐに瞼が落ちてきたけれど、左手の薬指に指輪があることを確認して幸せな気持ちで眠りに落ちた。



それからまだアルム兄様やお父様から何も言われていないけれど、マーリンや他の使用人達から「良かったですね」とか「これで少しは安心ですね」とかシェラルージェの身を案じるような声をかけられた。

今までそんなに意識していなかったけれど、ランバルシア家の使用人達はシェラルージェの気持ちも状況も全て知っていて見守っていてくれたのではないかと思えるような節が思い返すと所々に見受けられた。

だから、みんなの応援してくれる言葉を信じてお父様の言葉を待つことにした。


身支度を整えて玄関に向かうと、アルム兄様とハリー様が待っていた。

ハリー様はシェラルージェを見つけると、愛しくて仕方ないかのように瞳を細め柔らかく笑いかける。


(夢じゃない、のよね……。嬉しい…)


ハリー様の気持ちがすごく伝わってきて、シェラルージェもハリー様と同じ笑顔で笑い返した。


時間も忘れてハリー様と見つめ合っていると、近くから咳払いが聞こえてくる。

ハッとして音がした方を見ると、苦笑いをしたアルム兄様がいた。

そして、その奥にいた使用人達は甘い物でも食べすぎて胸やけを起こしたような顔をした者と、マーリンと同じようにニマニマと生暖かい眼差しを向けている者がいた。

その姿が目に入った瞬間、シェラルージェの顔が朱色に染まる。

恥ずかしい。

みんなに見られていたことに居たたまれなくなって両手で顔を覆って下を向く。

どこかに隠れてしまいたかった。


そこにハリー様の声がかかる。


「シェーラ」


落ち着いたハリー様の声におそるおそる顔を上げると、変わらない笑顔のハリー様が手を差し出していた。


「参りましょう?」

「─はい」


ハリー様の堂々とした態度に、これは恥ずかしい事ではないのだと自分に言い聞かせる。

それでも、みんなのあの視線にはどうしても恥ずかしく思ってしまうけれど。


ハリー様にエスコートされて馬車に乗り込む。続いてアルム兄様も馬車に乗り込むと、城に向かって出発した。


馬車の中でアルム兄様と二人きりになると、アルム兄様の視線が気になった。

先ほどの苦笑いはシェラルージェがはしたないと思われただろうか。

心配になってアルム兄様を見つめていると、苦笑された。


「心配しなくても、婚約話は進めているよ」

「え?」

「まあ、まだまだ先の話だけれどね?」

「 ! ──アルム兄様、ありがとうございます」


アルム兄様に婚約話を心配していると誤解されてしまったけれど、告げられた内容に胸が高鳴った。

先の話であってもハリー様とのことを認められた事実は変わらない。

シェラルージェの顔に華やぐような笑顔が零れた。

アルム兄様もシェラルージェの笑顔につられるように柔らかく笑った。


「シェラが幸せになれるのなら兄様はどんな手助けも厭わないよ」


アルム兄様の言葉に深い愛情を感じて、そして今までのアルム兄様の言葉を思い出して感極まって涙が込み上げてくる。


「アルム兄様、大好きです……」

「ほら、泣かないで。兄様はシェラの笑顔が好きなんだからね」


アルム兄様にハンカチで涙を拭われて、半泣きの顔で笑顔を浮かべる。


「はい」

「今日はダン子爵家のことを聞くことになるから、心をしっかりと保つんだよ?」

「はい」

「辛くなったら、後で話を聞いてあげるからね」

「はい、ありがとうございます」

「瞳が真っ赤だ。痛むかい? ああ、すぐに屋敷に戻って医者に診せるか」

「ふふ、大丈夫です」


心配性なアルム兄様に、自然と笑いが漏れる。

シェラルージェが笑うと、アルム兄様も安心したのかそれ以上は何も言わずに笑ってくれた。

城に到着する頃には、シェラルージェは何を聞いても落ち着けて聞く心構えができた。






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