20 幼い日の出来事 Ⅱ *少し不快な表現あり
ガサッという音とともに現れたのは、シェラルージェと同じくらいの年の令嬢1人と同じくらいかひとつかふたつ年上の貴族子息6人だった。
(この人達もこの花壇が気になってきたのかな?)
シェラルージェは場所を譲ろうと思って立ち上がる。
そんなシェラルージェを見て、令嬢が近づいてきた。
「あなた、今日初めて来た人でしょう」
突然話しかけられてびっくりした。
シェラルージェは戸惑いを覚えながらも答える。
「はい、そうですけど?」
シェラルージェの言葉に、キュッと令嬢の目に力が入った。
「まだわたくしに挨拶しにきてないわよね?」
シェラルージェはたくさん人が居すぎて誰に挨拶したか覚えてなかった。
「えっ、そう、だったかな? …ごめんなさい」
だから、目の前にいる人がそうだというならそうなのだろうと思って謝った。
「ごめんなさい? それだけ?」
「?」
(それだけ?ってどういうことだろう)
「口の利き方も知らないんだな」
令嬢の隣にいた子息が苛ついたように言いだす。
「お兄様の言うとおりですわ。礼儀がなっていませんわ」
今喋ってる2人は兄妹だったようだ。
……礼儀?
礼儀がなってないと言われて、謝り方が良くなかったのかなと思い、もう一回丁寧に謝った。
「申し訳ありませんでした」
シェラルージェが謝ると、目の前の令嬢はにんまりと笑った。
そして、機嫌が良くなったのかシェラルージェに笑いかける。
「それで、わたくしと仲良くなりたいのよね?」
「えっ? そう、かな?」
「そう、仲良くしてくれますのね?」
そう言うと妹の方は口の端をあげて笑った。
「でしたら友好の証にその手に着けているブレスレットをくださいな」
令嬢の目線がシェラルージェの手首にあるブレスレットに注がれていた。
「それくらいいいでしょう?」
それくらいと言われて首を振る。
これはお祖父様にお祝いに頂いたものだ。
欲しいと言われてあげられるものではない。
「これはお祖父様が下さったものだから、駄目です」
「お祖父様もお友達の証に渡したと言えば喜んでくれるわよ」
よく分からない理屈に、シェラルージェはなんでそんなことを言われるのか分からなかくて困惑した。
動かないシェラルージェに兄の方が苛つき始めたようだ。
「いいから黙ってブレスレットを渡せ」
「いやです」
きっぱり断ると妹の方は口を尖らし、兄の方は目をつり上げ睨みつけてきた。
そして、後ろにいた子息達に命令する。
「おい、お前達、腕を押さえろ」
兄の方の言葉に、周りで戸惑っていた子息達は近づいてきた。
ただ、それでも囲むだけだった。
しかし、シェラルージェは囲まれてしまってからもう逃げられないことに気がついた。
そのことに恐怖を感じ始める。
「早くしろ」
また兄の方が周りにいる子息達を怒鳴りつける。
兄の方の言葉に身体をビクつかせた子息達は一歩シェラルージェに近寄ったが、そこで立ち止まっただけだった。
それにしびれを切らした兄の方はシェラルージェに急に手を伸ばした。
「っ……」
(いや…!)
恐怖で息が詰まった。
兄の方の手が触れたと思ったときに、パシッと何かに弾かれたかのように兄の方が後ろに飛んで囲んでいた子息達を巻き込んで倒れ込んだ。
「きゃあ」
妹の方がそれに驚いて悲鳴を上げる。
シェラルージェには何が起こったのか分からなかった。
転がった兄の方も何が起こったのか分からない顔をしていたが、シェラルージェを見ると怒鳴り散らしてきた。
「お前が俺を突き飛ばしたんだな」
シェラルージェは首を振って否定する。
それに兄の方は怒りで顔をもっと真っ赤にした。
「お前以外誰がいるんだ」
もう一度掴みかかろうとして、兄の方は一瞬躊躇すると今度は足下に落ちていた石を掴むと投げつけてきた。
当たる!と思って目を瞑ると、バシッという音とともに兄の方が「うわっ」と声を上げた。
おそるおそる目をあけると、兄の方の顔に赤い筋が走っていた。
シェラルージェを睨みつける兄の方は目が血走り、キレて鬼の形相をしていた。
そして、今度はシェラルージェを罵ることにしたようだ。
「凶暴おんな」
「俺に逆らったらどうなるかわかってるんだろうな」
「生意気なんだよ」
「ぶさいくのくせに」
途中で妹の方もシェラルージェに言葉を投げつけてきた。
「ケチね」
「一つくらいいいじゃない」
「意地汚いわよね」
「可愛くないくせに」
シェラルージェは初めて聞く悪意のある言葉に恐怖を覚えた。
そしてシェラルージェの耳には2人の言葉が入ってこなくなった。
というか、入ってきても脳が理解するのを拒否していた。
「そこで何しているんだ!」
どのくらい時間がたったのか、呆然と2人に罵られるままだったシェラルージェを、助けてくれる人が現れた。
突然現れた人に驚いた兄妹は慌てたように助けに来てくれた人と反対方向に走って逃げていった。
それについていくように他の子息達も走り去っていった。
シェラルージェはその様子を全て見ていたけれど、何も感じなかった。
石を投げられた時に座り込んでいたシェラルージェは近づいてきた人をただ見ているだけだった。
「大丈夫か?」
助けにきてくれた人は逃げ去った子息達を追いかけるのを諦めて、片膝をつくとシェラルージェを覗き込む。
何の反応もしないシェラルージェを見て、痛ましそうに眉をひそめると怪我がないか確認し始めた。
座っていたシェラルージェを立たせて、服に付いていた土埃を払い、乱れた髪の毛を手櫛で直す。
シェラルージェはその間も為すがまま人形のように従っていた。
助けてくれた人は怪我がないことを確認すると手を繫ぐ。
「帰ろうか」
優しく手を引かれたとき、シェラルージェの瞳から涙が溢れてきた。
泣き始めたシェラルージェを見て、助けてくれた人は優しく驚かせないようにそおっと抱きしめて、背中をぽんぽんとあやすようにたたいた。
「大丈夫」
「もう大丈夫ですよ」
何度も何度も繰り返し言ってくれた言葉にやっと安堵して、シェラルージェは意識を手放した。




