閑話 ある侯爵のお節介
「ほう、珍しいな」
王家主催の夜会に参加していた私は、会場に入ってきた男に目を留めた。
その男は高位貴族では珍しく近衛騎士の副団長にまで登り詰めた実力とカリスマを備えた将来有望な若者だ。
ただあまり社交的ではなく、こういう夜会や舞踏会など人の集まる場所には仕事が忙しいとの理由で出席しない少し困った男だった。
会場内の至る所で感嘆のため息が聞こえてきた。
それにしても、若いご令嬢からの声が凄いな。
頬を染め、熱い眼差しで見つめる令嬢の多いこと。
中には、どこぞの奥方も騒いでいるようだが、まあ相手にされるわけもないし確かに旦那よりはいい男だしな、仕方ないか。
本人はまったく女性に騒がれても浮かれもしない。
興味がないのか受け流す姿が様になっている。
久方ぶりに見たが男ぶりもあがったようだ。
若造感がなくなり頼もしくなっている。ジルヴァン様にだいぶ絞られたのだろうな。
それにしても、夜会に参加するとは珍しい。
少しは結婚相手でも見つける気になったのだろうか。
侯爵家や伯爵家の男性陣と話している男を見て思案する。
(ふむ、そうだな、あれを勧めてみるか)
我が侯爵家の3番目の娘との婚約話をまた勧めてみることにしようと思った。
前々から、あの若者の家には婚約の打診をしていたのだが、素気なくあしらわれていた。
まあ、そこまで縁を結ばなくてはいけない間柄ではなかったのでそのまま放置していたのだが、私はあの若者を昔から、かっていたのだ。
フォード侯爵家の嫡男のくせに騎士学校に入ったからだ。
幼い頃から聡明で朗らかで、本当に現フォード侯爵にそっくりな子どもだった。
だから、そのままいけばフォード侯爵の後を継いで豊かな領地をますます繁栄させていくだろうと他人の息子ながら楽しみにしていた。
それなのに、突然騎士学校に入った。
本来なら貴族子息は王立の貴族院に入って交友を広げていくのだが、その貴族院には行かず平民も通う騎士学校に入ったということで当時話題になった。頭がイカレタのかと陰口をたたく者もいたようだが。
陰口をたたく者は理解していないのだ。
その者が不可能に挑戦しているのだと。
世間の批判も物ともせずに実力主義の騎士学校に入り、家の権力も及ばない己の力だけでやっていかなくてはならない過酷な環境に身を置いているのだと。
そして、あの若者は見事近衛騎士の副団長になるというところまで成し遂げた。
まあ、あの若者が近衛騎士になったあたりから陰口を叩いていたバカ共も目の色を変えて媚びを売り始めたようだか、そんな者達をフォード侯爵もあの若者も相手にするはずもない。
だが、そんな者達が諦めるような殊勝な心持ちなど持ち合わせているわけもない。
そして、今日の夜会に姿を見せたことから、また新たに婚約の打診も増えるであろう。
そんな煩わしさを解消させるためにも、ここは私が防波堤となり他の者どもなど蹴散らしてやろう。
さて、将を射んと欲すればまず馬を射よともいうし、まずはフォード侯爵にでも話を持っていくべきかな?
会場内にいるであろうフォード侯爵を探して視線を巡らせた。




