閑話 ある子爵令息の正義
王家主催の夜会の日。
俺の女神が哀しんでいた。
ルビーレッドの瞳に涙を浮かべて「哀しいわ」と呟いている。
そして体を震わせ、手にしていたハンカチに涙が吸われていく。
涙で濡れた瞳が綺麗で、哀しんでいる姿に胸が苦しくなった。
女神はある子爵令嬢のせいで哀しんでいた。
その子爵令嬢の行動が貴族令嬢として恥ずべきことだったと。
同じ子爵令嬢として恥ずかしいと嘆いていた。
その子爵令嬢は今まで社交界では見たことがなかった。
兄らしき男の後ろに隠れてオドオドとして、笑顔も固い。
まったく魅力の欠片もない女だった。
他の貴族達は、兄の方の知り合いなのか女にも挨拶をしに取り囲んでいた。
俺は興味もなかったから、挨拶もせずにすぐに女神のところへ行った。
俺の女神は今日もとても可愛くて美しかった。
水色の髪の毛が緩やかに編み込まれ、後れ毛が少し色っぽかった。
唇も艶めき、許可があればキスしてしまうくらい魅力的だった。
瞳もいつも潤んで、俺を見つめる瞳が好きだと訴えていた。
ただ、俺の女神は父親から反対されているらしく、俺には気持ちを告げられないと言う。
そんな女神が可哀想で、俺に出来ることなら何でもしてあげたくなる。
女神の周りには勘違いしている男達が山ほど居たけれど、愛されているのは俺だけだ。
ただ可哀想だから、女神の近くに居ることくらいは許してやってる。
女神の愛をもらっている心の広い俺は、愛されていない男達が侍るのを見逃してやっているんだ。
そんな俺の女神が、同じ子爵令嬢だなんて恥ずかしいと嘆いていた。
俺の女神を悩ませるなんて、その子爵令嬢は悪女でしかない。
同じく話を聞いていた男達も同じ意見だったのか、顔を見合わせると頷き合った。




