13 夜会 Ⅲ
「……今日はアクセサリーを着けていらっしゃらないのですね」
「……えっ?」
「あ、その、この前の王女殿下のお茶会の時に珍しくアクセサリーを身につけていらっしゃったので、少しだけ気になりまして……」
突然話しかけられて、驚いてしまった。
マリーのお茶会の時? あの時は初めてづくしだったから、ドレスも何を着て行ったらよいのか分からずマーリンやお母様に相談したりで大変だった。
「…あの時ですか? えーと、あの時はマリー様のお茶会に初めて招待されたので、マリー様の瞳の色を身につけたくて、それでお母様に相談したらちょうど良いイヤリングがあったので着けたのです。マリー様にも似合うと言っていただけてとても嬉しく思いました」
私の言葉を聞いて、ハリス様は少し目を見開くと、優しく笑った。
「…そうだったのですね。大変お似合いでした」
「ありがとうございます」
ハリス様の言葉を聞きながら、やっと少し冷静に考えられるようになった。
さっきのハリス様を思い出しても、無理して誘って下さったように見えて、今も無理して笑って下さっているのかと思うととても辛かった。
ご迷惑をおかけしすぎて、もう相手をするのさえ辛いのではと思ってしまう。
ただハリス様はとても優しく義理堅い方なので私を嫌いであっても仕事を放り出すようなことはされないだろう。
今も義理でダンスに誘って下さったのだと思うと申し訳なくて、どうすればハリス様に少しでも嫌われずにすむのか分からなかった。
シェラルージェが落ち込んでいると、ハリス様が続けて話しかけてきた。
「シェラルージェ嬢、……最近いろいろな所にお出かけになさってますよね。ご無理をなさってませんか?」
「えっ?」
「いえ、ジルヴァン様から人前が苦手だと伺ってましたので心配になりまして…」
「……ご存じだったのですね」
貴族令嬢として恥ずべき事実を知られていたことにより落ち込んだ。
「失礼いたしました」
「いいえ! ハリス様に謝っていただくことではありません」
シェラルージェは慌ててハリス様をとめた。
「少し…社交を頑張ってみようと思ったのです」
そう答えたシェラルージェの言葉に、ハリス様は少し考え込むように押し黙った。
…今更と思われたかもしれない。そう思うとまた落ち込みそうになる。
最近、落ち込んでばかりいる気がする。
自分のダメなところがどんどん出てきて、嫌になった。
ちょうど曲も終わり挨拶をして離れようと思ったら、ハリス様は手を離してくれなかった。
「シェラルージェ嬢、疲れてらっしゃいませんか?」
「…少し」
「では、バルコニーで少し休まれた方が良いでしょう。ご案内します」
そう言い終えると、シェラルージェの手を引きハリス様は歩き出した。
強引なハリス様に驚きながらも、ここで留まっていると、睨みつけているご令嬢達に捕まってしまう気がしたので大人しくついていくことにした。
途中ハリス様はドリンクを受け取り、バルコニーに出た。
誰もいないのを確認すると、シェラルージェを椅子に座らせ、ドリンクを渡してくれた。
椅子に座ると、疲れていたのか椅子に吸い込まれるように体が重くなった。喉も渇きを覚え、貰ったドリンクを一口飲む。すると、より喉が渇いて半分くらい一気に飲んでしまった。
シェラルージェが落ち着くのを待っていてくれたようで、ハリス様は静かに微笑んでいた。
シェラルージェはフロアから連れ出してもらえたお礼をまだハリス様に言っていないことに気づき、姿勢を正すと頭を下げた。
「ハリス様、社交に不慣れな私にお付き合い下さりありがとうございました。とても心強く助かりました」
「そんなにたいしたことはしてませんよ」
「いいえ、私ひとりでは何も出来なかったと思います。お気遣いいただきありがとうございました」
もう一度お礼を言うと、ハリス様は座っている私の視線に合わせ膝をついた。
「少しは社交に慣れましたか?」
「……社交に慣れるためにはかなり時間がかかりそうで少しだけ憂鬱です」
シェラルージェが俯いて答えると、近くから声が聞こえてきた。
「それでは、自分で良ければ練習相手を致しますよ」
「えっ?」
驚いて顔を上げると、思ったよりもハリス様の顔が近くにあり驚いて仰け反ってしまった。
そんなシェラルージェに笑いかけるとまた同じことを繰り返した。
「自分で良ければ社交の練習相手を務めると言ったのです」
「でも、それでは御迷惑をおかけいたしますので……」
「迷惑ではありません。ジルヴァン様からもシェラルージェ嬢を頼むと言われておりますから」
「………」
シェラルージェはお祖父様の名前を出されてしまうと、もう断ることは出来なかった。
ハリス様はお祖父様の命令で私の護衛騎士を務めて下さっている。だから、お祖父様の命令には逆らえない。
「分かりました。どうぞ宜しくお願いいたします。ただ、少しでもご都合が悪くなれば仰って下さい」
「そんなことにはなりません。大丈夫です。それよりもシェラルージェ嬢、こちらこそ宜しくお願いします。では善は急げとも言いますし、明後日は空いておりますか? 私がちょうど休みの日なのです。せっかくなので出かけてみませんか?」
「えっ?」
「明後日のご予定はどうですか? 空いてますでしょうか?」
「…空いてますが」
「そうですか。では明後日の11時にお迎えに伺います。昼食をご一緒しましょう。良い店が最近オープンしたそうなのです。そちらへお連れいたしますね」
「…はい」
ハリス様のたたみかけるような勢いに、シェラルージェは頷いていた。
「それでは、アルムのところに参りましょう。心配していると思うので」
そう言って差し出されたハリス様の手に掴まり立ち上がると、ハリス様にエスコートされてアルム兄様の元へ向かった。
アルム兄様のところに着くと、とても心配していた。
シェラルージェがハリス様と踊っていたところまでは見ていたらしいのだが、アルム兄様もダンスの相手が途切れなくて私を見失ってしまったらしい。
そのことをしきりに謝られてしまった。
ハリス様に助けられたことを伝えると安心したように笑ってくれた。
アルム兄様も疲れているようだったし、私ももう帰りたかったので、アルム兄様に帰りたいと伝えると一緒に馬車に向かった。
馬車に乗り込むと、乗り場まで見送りにきてくれたハリス様が声をかけてきた。
「それではまた明後日に」
シェラルージェに笑いかけると、馬車の扉が閉められた。
走り出した馬車の中で、アルム兄様に問いかけられてしまった。
「明後日ってどういうこと?」
アルム兄様の問いに、ハリス様と出かけるようになった経緯を話した。その話を聞いてアルム兄様は意味深な言葉を言っただけだった。
「ふーん、なるほどね」




