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貴方の瞳に映りたい  作者: 蒼華
本編
11/63

10 ハリスの失恋?


マリーのお茶会の数日後、ハリス様から館に予約が入った。


「失礼します」


約束の時間に垂れ幕をあげて入ってきたハリス様の声は沈んでいるように聞こえた。


実際に現れたハリス様の顔は落ち込んでいるようで覇気がない。

ハリス様の様子にシェラルージェは驚きながらも、マリーのお茶会でハリス様に視線を逸らされたことがまだ棘となってチクチクと胸を刺した。


ハリス様に険しい表情をされて視線を逸らされたということは、あの時何か嫌われるようなことを知らずにしてしまったのだろう。

あんな表情で視線まで逸らされたのはそうとしか考えられなかった。

ハリス様に嫌われてしまったと思うと、子爵令嬢の姿ではまだ会いたくなかった。


だから、どんな顔をして顔を合わせればいいか悩んでいたら、先に館の方で会うことになって少しほっとしていた。


「いらっしゃいませ、ハリス様」

「こんにちは」


ハリス様は律儀にも返事を返し、シェラルージェの前の椅子に座る。


何も話しださないハリス様に、シェラルージェは意を決して話しかけた。


「お預かりしていた聖石をイヤリングに加工し創術いたしました。ご確認ください」


シェラルージェはイヤリングとして完成した品をハリス様の前に置いた。

ハリス様の想い人に贈られるイヤリングを創術することは辛かったけれど、家業である創術を蔑ろにすることだけはシェラルージェには出来なかった。

創術は人を幸せにするもの。そう教えられてきたし、シェラルージェもそう思ってきた。

今までも自分の創った物がその人に幸せをもたらすよう心を込めて創術してきた。

それは人前に出られなかったシェラルージェの誇りだったし、人を幸せにしてきた一族の誇りでもあった。


だから、ハリス様の想い人に贈られる物だと分かっていても、その人に幸せをもたらす物を心を込めて創術した。


自分で思うのもなんだけど、素敵なイヤリングが出来たと思う。

それこそシェラルージェ自身が着けたいくらいに。


しかし、シェラルージェが置いたイヤリングをハリス様は沈痛な面持ちで見つめていた。

不安に思いハリス様に尋ねる。


「お気に召しませんでしたでしょうか?」


品物としては最高の物を用意出来たと思っていたけれど、ハリス様の表情は苦しげだった。


「いや、とても素敵な物だと思う。素晴らしすぎて……」


その後の言葉が続かず、ハリス様は黙り込んでしまった。

重たい沈黙が部屋の中に広がる。


(えっ? どういうこと? やっぱりお気に召さなかったということ?)


シェラルージェは困惑して、どうすればいいか分からなかった。

すると突然ハリス様が頭を下げた。


「申し訳ない。お金は払うので、このイヤリングはそちらで処分してもらえないだろうか」

「えっ?」

「申し訳ない」

「いや、あの、ちょっとお待ちください」

「…………」

「理由をお聞きしてもよろしいですか? さすがにそのまま受け取ることは出来ません」

「…………」


シェラルージェが言葉を重ねてお願いすると、頭を下げたままだったハリス様は頭を上げた。

そして、静かに話しだした。


「…もうイヤリングを渡せなくなりました」

「…なぜかお聞きしてもよろしいですか?」

「その女性の耳にすでにイヤリングが着けられていたからです」

「? イヤリングくらいは女性なら身につける物ではないですか?」

「いえ、その女性は今までイヤリングをしたことがなかったのです」

「…それで?」

「初めて着けたイヤリングの色がある方の色だと気がついたのです」

「それは…」

「そういうことだと思いますよね。やはり……」


シェラルージェに説明しながら、ハリス様は落ち込んでいった。


シェラルージェはどうすれば良いのか分からなくなった。


ハリス様が失恋してよかった?

……そんなこと思えるわけなかった。

その女性とうまくいってほしいと思っているわけではなかったけれど、でも、話を聞いていると勘違いの可能性だってある気がして、なぜかモヤモヤした。


何故そう思うのか考えて、考えて、思い当たった。

正面からぶつからないで裏で(おとし)めるような人間になりたくないのだと。

だから、モヤモヤしたのだと。


そう感じたのなら、シェラルージェのすることはひとつだった。


「ハリス様、それでその女性を諦められるのですか?」


顔を上げたハリス様はそんなことが出来ないからこそ苦しげに眉をひそめていた。


「まだそうだと決まったわけではないと、お話を聞いて思いました」

「………」

「ハリス様はまだその女性がその方を好きだと言ったのを聞いたわけではないのですよね?」

「………」

「でしたら、まずはイヤリングを渡してからでも遅くないと思うのです」


シェラルージェが言葉を続けていると、ハリス様の瞳に光が戻ってきた。


「ですから、こちらのイヤリングをお持ち帰りください」


言葉と共に、イヤリングが入ったケースをハリス様の前に押し出す。


シェラルージェは必要なことは言い終えたのでハリス様の返答を待った。


ハリス様はイヤリングを見つめたまま考え込んでいた。

そして大きなため息をつくと、シェラルージェを見つめた。


「大変ありがたい助言を頂き、目が覚めました。何もしないまま諦めるなど男のすることではありませんね」


ハリス様は苦笑を浮かべていたが、もう暗い顔はしていなかった。

イヤリングの入ったケースを懐にしまい、ハリス様はシェラルージェに向かって深くお辞儀をした。


「代金はあとで届けます。素晴らしいイヤリングを創っていただきありがとうございました」

「いいえ、喜んでいただけたのでしたら、それでよろしいのです」

「本当にありがとうございました」


ハリス様は立ち上がると、もう一度お辞儀をして帰っていった。



シェラルージェはハリス様を見送りながら、自分も頑張らなくてはいけないと思った。

ハリス様にあんなことを言ってしまったのだから、私も頑張って話しかけられるようにならなくては……。

まずは、何故嫌われてしまったのか、それをどうにかしなければならない……と思ったけれど、かなり難しいことなのではないかと思った。









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