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第六章 舞鶴入港

「取り舵いっぱい、錨鎖準備、舞鶴入港!」

「取り舵いっぱーい!錨鎖準備ぃ―!」

 艦橋に、信さんと副長役の赤松晴美さんの声が響く。

 翔鶴は、左に大きく曲がると、舞鶴への入港進路についた。

「着岸は北吸桟橋ですね。」

 僕が声をかけると、信さんがうなずいた。

 着ている第二種軍装のポケットから航空時計を取り出す。時刻十二時五十九分。

「失礼しまーす。」

 ハルが扉を開けて入ってきた。腕には、二匹の子犬を抱いている。

「信さん、舞鶴についたら、東亜と共栄を散歩させてきてもいいですか?」

 東亜と共栄は、僕とハルが飼ってる胡麻毛の柴犬だ。知り合いのブリーダーさんのとこからもらってきた兄弟犬で、東亜がハル、共栄が僕の犬。ということになっている。

「いいよ。」

「ありがとうございます!」

 タグボートが近づいてきた。艦尾のほうを押して、着岸をサポートする。

 ボーーーーー―!

 同じ桟橋に着岸している瑞鶴が汽笛を鳴らした。乗組員たちが舷側に立って敬礼で翔鶴を迎える。

 もやい綱が岸壁との間にかけられ、錨鎖が海中深く降ろされた。船体へのタラップがかけられる。その様子を見ていたら、うしろから肩をたたかれた。

「ん?」

 後ろを見ると、ハルが東亜と共栄を連れて立っていた。

「散歩行くよ。今朝は行ってないんだから。」

「うぁん!」

 共栄が吠える。

 共栄のリードをもってタラップを降りた。

 二人とも真っ黒な詰襟の士官用の第一種軍装だ。ハルの腰にはおばあちゃんからもらったという白鞘の軍刀。二人とも、軍帽をかぶっている。

(軍服に犬って・・・・目立ちすぎじゃ・・・・まぁ、港内だし、いっか)

 こうしてみると、海軍の飛行機乗りというより、陸軍の軍犬兵みたいに見える。観光客の視線がこっちに集中しているのが痛いほどわかる。ああ、恥ずかしい。

 最近はドラマや映画に出演したりもしてるけど、「航空隊隊員その一」とか「搭乗員その一」とかで最悪「風防越しのシルエットだけ」っていうのもあるから、あまりじろじろ見られるのには慣れてない。ああー、やっぱり恥ずかしい。

「ヤス、もっと胸張って堂々と歩きなよ。エースパイロットでしょ?」

「まぁ、そうだけど・・・・恥ずかしくないの?」

「わたしみたいな女性零戦パイロットはなかなかいないし、模擬空戦で全国一位だと結構注目されるから、なれちゃった。」

 いいよね、そういう人は・・・

「クゥン?」

 共栄が不思議そうな顔で見上げてくる。

「なんでもないよ。」

 そう言って頭をなでると、共栄は嬉しそうに目を細めた。

 赤レンガで作られた倉庫のあたりを散歩して、岸壁に出た。沖合には、戦艦「比叡(ひえい)」、「霧島(きりしま)」が停泊していて、岸壁との間を(うち)()(てい)が往復し、二隻の艦の周りを駆逐艦が取り囲んでいた。

 自衛隊には、「記念動態保存艦隊」という第二次世界大戦や日露戦争などで活躍した軍艦たちを「功労艦」として動態保存する部署がある。ちなみに、旗艦は佐世保にいる護衛戦艦「神龍」だ。僕らの翔鶴みたいに民間で保存されているのは別として、ほとんどの旧日本軍艦艇はこれに属している。沖合に見える二隻も、その一部だ。

 翔鶴に戻ると、岸壁で和太鼓の演奏準備が行われていた。舞鶴を拠点とする「舞鶴翔鶴太鼓」のパフォーマンスの準備だ。後ろでは、自衛隊の楽団も楽器の準備をしている。

 東亜と共栄を連れてタラップを上がると、艦橋では瑞鶴の艦長今泉治親さんとの打ち合わせが始まっていた。

 さらに、今回の真珠湾攻撃九十周年記念事業で作る映画の日本側のキャストの皆さんも乗艦してくる。

 比叡と霧島がやってきて、それぞれ翔鶴と瑞鶴の横に並ぶようにして停泊した。内火艇が往復し、比叡と霧島の艦長と副長がタラップを登ってくる。

「時刻ピッタリだね・・・・・・」

 ハルがポケットから航空時計を出して呟く。僕たちは、タラップを登り切った二人を見て、海軍式の敬礼をした。

「お待ちしておりました。打ち合わせ場所にご案内いたします。」




 わたし―奥谷みやびは、ハルさんとヤスさんの後ろに立って四人が内火艇から上がってくるのを見ていた。

「ん!」

 その四人の後ろ、そこに、一人の女の人が立っているのが見えた。四人の着ている自衛隊の制服とは違う帝国海軍第一種軍装。襟につけられた大佐の襟章。流れるように豊かな黒髪。

(艦魂だね)

 わたしはそっとそっちのほうに近づくと、声をかけた。

「こんにちは、艦魂さん。」

「ひっ」

 艦魂が声を上げる。わたしは、ちょっと口調を和らげた。

「ごめんごめん。驚かせるつもりじゃなかったの。わたしはここの乗員奥谷みやび。階級は一等整備兵曹。よろしくね。階級が大佐ということは、戦艦か空母の艦魂だね。」

「は、はい。わたしは、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』艦魂の瑞鶴です。よろしくお願いします!」

 瑞鶴がピシッと敬礼して言った。

「よろしくね。」

 わたしも敬礼を返す。

 その時後ろから、このフネの艦魂の翔鶴が走ってきた。

「瑞鶴っ!」

 翔鶴は、走ってくると瑞鶴をがばっと抱きしめる。

「久しぶりっ!会いたかったよ。瑞鶴・・・・・・・・わたしの大事な妹。」

「お姉ちゃん。瑞鶴、ただいま帰りました。」

 瑞鶴も、翔鶴の背中に腕を回す。その目から、一筋の涙がこぼれた。

「わたしが死んだ後の瑞鶴の戦いっぷりはハルさんにヤスさん、みやびさんから聞いたよ。あんなろくに艦載機もないおとり任務で・・・・・・よく頑張ったね。また会えてうれしいよ。」

「うん、わたしもお姉ちゃんに会えてうれしい。」

 涙を流して抱き合う姉妹の姿を、甲板上に駐機された零戦が見守っていた。





 僕-神崎保信とハルは関係者の方々を案内して信さんのもとへ向かった。

 艦橋内に入り、エレベーターに乗り込む。エレベーターが止まると、廊下を進み、作戦室の扉をたたいた。

「比叡艦長、秋月あきづき輝樹てるき様、霧島艦長、高雄たかおゆう様をお連れしました。」

 室内から、信さんの声がした。

「んん、ちょっと待ってー」

 この声、絶対に寝てたな。

 しばらくの間ガサゴソという音がして、また声がした。

「入ってください。」

 ガチャ

 扉を開けて、二人を仲に案内した。信さんが手で、「下がっていいよ」という合図をする。

「失礼しました。」

 敬礼をして、扉を閉めた。二人で艦橋を降り、酒保に向かう。

「お汁粉でも食べよう。」

「そうしよっか。」

 酒保の中に入ると、山本さんが難しい顔をして棚に陳列された商品を眺めていた。

「どうしたんですか?」

「う~ん、使ってるボールペンのインクがなくなったんだけど、ここ、万年筆しか置いてないのよね~。しかも何気にデザインいいし。」

 山本さんは、一本の万年筆を手に取った。光の当たり方によって黒にも見えれば紫色にも見える軸に、「空母翔鶴乗艦記念」という文字と「桜に錨」のマークが金色で書かれている。

「どうしよっかな―買っちゃおっかな~?ああああーーー!迷っちゃう――――!」

 頭を抱えている山本さんの脇を通り抜けて、酒保長がいる窓口に向かう。

「お汁粉二つくださーい。」

「はいよー。お汁粉二つね。」

 ハルが声をかけて財布から出した小銭をカウンターに置くと。酒保長の声がかえってきた。

 カウンターの奥から、黒塗りのお椀に入ったお汁粉が割り箸を添えられて出てくる。

 できたばかりで湯気が立ち上るお汁粉の椀を手に取り、割り箸を割った。

『いただきます!』

 あんこに浸ったお餅を箸でつまみあげて口に入れると、甘~い小豆の味が口いっぱいに広がった。

「おいし~!」

 ハルはすごい勢いでお汁粉を食べ始める。

「十勝産の小豆を仕入れましたからね。」

 酒保長が笑いながら言った。

『ごちそうさまでした~♪』

 二人で同時にお椀を返すと、「またきてね」と言いながら酒保長が下げた。

 酒保を出たところで僕らは分かれると、自分の私室に向かった。

保信「保信とぉ!」

春音「春音とぉ!」

みやび「みやびのぉ!」

三人『次回予告~!』

―♪守るもせむるも黒金の 浮かべる城ぞ頼みなる・・・・・・・

保信「さて、今回は舞鶴に入港し、翔鶴が妹の瑞鶴と再会しました。」

春音「わたしも会いたかったなあ。」

みやび「今度紹介しますから。」

春音「さて、ここで作者さんから指令が来ております。・・・・・『みやび以外はスタジオから出ること』?なにこれ?」

みやび「と、いうわけで、お二人はスタジオから出てください。」

 みやび、二人をスタジオから押し出し、扉を閉める。

みやび「それでは、次回予告行きましょう。次回は、ハルさんの秘めた想いが明らかにっ!?それでは皆さん、お楽しみに~!!」

みやび(ハルさんの想いって、なんだろう・・・・・・・・)

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