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第八章 呉経由で単冠湾へ

 タッタタタ!タッタタタ!タタタタッタタ、タタタタッタターーーー!


 出港の合図のラッパが鳴り響いた。


 ガガガガガガ・・・・・・


 すごい音を立てて鉄製の錨が舷側に引き上げられる。


 ボーーーーーーーーーー!


 二隻の空母と戦艦、たくさんの駆逐艦の汽笛が舞鶴港内にとどろいた。

 楽団の演奏が始まる。曲は、「軍艦行進曲」だ。

『♪守るも攻むるも黒鉄くろがねの、浮かべる城ぞ頼みなる。浮かべるその城日ノ本の、皇国(みくに)四方よもを守るべし 真金まがねのそのフネ日ノ本に仇なす国を攻めよかし・・・・・・・』

 艦の下部から聞こえてくる主機関の音が一段と大きくなった。

「敬礼っ!!」

 僕たち搭乗員と整備士は、第一種軍服に身を包み、飛行甲板上で岸に向けて敬礼をした。

 舞鶴を出港した翔鶴と瑞鶴、比叡、霧島、その他たくさんの駆逐艦たちは、日本海を南下し、赤城、加賀との合流地点、広島県呉市に向かう。

 関門海峡にかかる大きなつり橋を潜り抜け、源平合戦の記念公園に陣取る軍艦ファンのカメラの放列を横目に見ながら進んだ。

 現在地は、壇之浦だんのうら。源平の艦隊決戦が行われた場所だ。

「もしかしたらここが、日本初の艦隊決戦の場所かもね。」

「う~ん、白村江はくすきのえじゃないか?」

 ハルとたわいもない話をしているうちに、艦隊は関門海峡を通過。左に大きく転舵し、瀬戸内海に入った。

 瀬戸内海は、波も穏やかで、たくさんの漁船が操業しているのが波間に見える。

 沿岸には造船所が立ち並び、日本でも有数の造船地であることを告げていた。

 瀬戸内の気候は暖かく、甲板でお昼寝でもしていたい気分になってしまう。現にハルは、甲板に駐機した零戦の風防の中にもぐりこんで寝息を立てている。

(うう~。寝顔までが可愛すぎる。)

 そう思った時。


 ブロロロロロロロロロ・・・・・・・・・・・


 近づいてくるレシプロエンジンの音に空を見上げると、一機の零式水上観測機がこっちに向かってきていた。尾翼番号を見ると、呉にいる長門の艦載機らしい。

 ちょうどかぶっていた軍帽を振ると、零観のパイロットが敬礼をした。まだ十代らしい。どことなくあどけなさが残った顔だ。前席に女の人、後席に男の人・・・・・・。

 あれ?その顔には見覚えがある。後席に乗っている人にもだ。十代、しかもよく知ってる人・・・・・・そして、男女二人組・・・・・・・この条件に当てはまるヤツは二人しかいない。

「永信っ!実っ!お前らか!」

 つぎの瞬間、零観が急降下して、通信筒を甲板上に落とした。

中身を取り出して、手紙に目を走らせる。





ヤス兄、ハル姉ちゃん、呉で待ってまーす!

                    by実&永信








(・・・・・・・やっぱりこいつらか。)

 それにしても、いつの間に操縦技術なんて身に着けたんだ。ライセンスはどうした?

 この国では、機種ごとに「A級」から「C級」までのライセンスがあり、それを持っていないと飛行機に乗れない。ちなみに、僕とハルは、旧日本軍機全部とYS11、MRJのA級ライセンスを持っている。


 ブロロロロロロロロ・・・・・・・


 零観は、飛行機雲を残し去っていった。

「まったく、やることが派手だよ。」

 零観が消えた方向を見つめていると、艦内放送のスピーカーから、信さんの声が聞こえてきた。

《まもなく、呉に入港いたします。船員、搭乗員の皆さんは、各自持ち場についてください。》

 ハルをおこさないと。

 甲板に駐機してある零戦の中から機体に八重桜を描いた「サクラ」を探し出す。

 サクラの翼に上ると、ハルは風防を開けて、コックピットの中でスヤスヤと寝息を立てていた。軍帽をかぶったまま、天使のように安らかな寝顔だ。

 そっとポケットからスマホを取り出して、カメラを起動させた。ハルの寝顔を一枚とる。

「待ち受けに設定っと・・・・・・」

 設定して、ハルの肩に手をかけた。

「起きて・・・・もうすぐ呉だよ・・・・・」

「うう~、もうちょっと寝かせてよ~」

 ハルの腕をとって強制的に引っぱり出す。翔鶴の艦首越しに、呉の街並みが見えていた。








 ドーン!ドーン!


 沖合の泊地に停泊していた長門が礼砲を発射し、お互いのスタッフが舷側に立ち敬礼を交わす。

 長門と赤城と加賀の脇に滑り込むようにして翔鶴と瑞鶴が、その後ろに続くように比叡と霧島が停止した。


 ブロロロロロロロロロ・・・・・・・・・・・ザザザッ


 零観が長門の脇に着水した。長門がジブ・クレーンを出して回収する。

「ふぅ~、燃料残量問題なし、燃料コック全閉、AC切、機体も問題なしっと・・・・・・」

 長門の甲板上に降ろされた零観から永信と実が降りてきた。艦長の佐藤さんにお礼を言ってから内火艇に乗り込む。

 タンタンタンタン・・・・・・

 内火艇が翔鶴に横付けされ、舷梯を永信と実が登ってきた。

「お兄ちゃん、ひさしぶりっ!」

 いきなり抱き着いてくる永信を引きはがし、尋ねる。

翔鶴うちに通信筒を落としてった零観、実が操縦してたよな?ライセンスは大丈夫か?」

 実は、肩から下げたワンショルダーリュックの中をごそごそとまさぐると、プラスチックのカードを取り出した。実の顔写真と「航空機運転免許 機種:零式水上観測機 氏名:初霜実 A級」という文字が書いてある。

「わたし、永信といっしょに呉フライトスクールに通ってるの。わたしは零観シリーズのライセンス、永信は隼シリーズと零戦シリーズ、飛燕とメッサーシュミットBf109のライセンスを持ってるよ。」

 現在、飛行機はとても人気があるスポーツで、全国各地にフライトスクールがある。呉フライトスクールは、僕も子供のころお世話になったところだ。

「持ってるならいいんだ。」

「それより・・・・・・・・・・」

 実がハルの、永信が僕の手をつかむ。

「会いに行かなきゃ。でしょ?」

 二人に連れられて内火艇に乗り込み、岸壁についた。

「保信、久しぶりだな。大きくなりよって・・・・・・・・」

 岸壁にいた車いすのおじいさんが僕たちを見て言う。どことなくひょうひょうとした雰囲気を漂わせて、ひざの上には古ぼけた航空眼鏡を置いていた。

「じいちゃん・・・・・・・・・」

 車いすのおじいさんは、にっこりと笑うと言う。

「お前の機体を、見に来たぞ。」

 この人は、僕のおじいちゃんで元大日本帝国海軍中尉、神崎政次だ。

 最初は水上機の搭乗員、その後はかの「潜水空母」伊四〇〇に艦載機「晴嵐」搭乗員として乗り組んでいた。

 その伊四〇〇は、ウルシー環礁に向けて作戦行動中に終戦を迎え、その後横浜付近で米駆逐艦「ブルー」に洋上投降。その後、ハワイ沖にて撃沈処分とされた。

 おじいちゃんはその後しばらく後席だった鏑木少尉と漫才をしてたらしいけど、その後に空自に入って飛行艇の操縦をしてたらしい。

 

 タンタンタンタンタンタン


 内火艇に乗って翔鶴に近づくと、おじいちゃんは軍艦旗に視線を合わせ、右手を額に当てて背筋を伸ばし、海軍式の敬礼をした。

「あれがお前の乗るフネか。大きいのぉ。空母に乗るのは初めてじゃな。何しろ『絹海きぬみ』にしか乗ったことないからのぉ。」

 おじいちゃんは、潜水艦「伊四〇〇」のことをなぜか「絹海」と呼ぶ。理由ワケは「秘密だ。行ったら軍機保護法違反で憲兵がすっ飛んでくる」らしい。

 翔鶴につくと、おじいちゃんはすくっと車いすから立ち上がった。

「ちょっ、政次じいちゃん、大丈夫なの?」

「支えんでいい。海軍で鍛えたこの足腰は、いくつになっても衰えんわい。」

 実が慌てて支えようとし、おじいちゃんはそれを断った。その後ろで、永信が素早く車いすを折りたたむ。

 甲板に上がると、おじいちゃんは僕の肩に手を置いた。

「案内してくれ。お前の愛機のもとに・・・・・・・」

「わかったよ。おじいちゃん。」

 僕の愛機零式艦上戦闘機三二型、尾翼番号「コオー102」は、ハルの愛機「サクラ」と並んで、零戦隊の最前列に駐機されていた。

「ヤス。お疲れ。その方がヤスのおじいさま?」

「ヤスさん!お疲れです!」

 ゆっくりと近づいてくるハルと、機体磨きの手を止めて直立不動で敬礼するみやび。おじいちゃんが答礼した。

「こいつがお前の愛機か。なかなかいい面構えしてるじゃねえか。」

 僕の零戦を見たおじいちゃんが、目を細めて言う。そして、ハルの方に目を向けた。

「そっちのお嬢ちゃんは、保信の知り合いかい?」

「えっと・・・・・・・・」

 いきなり言われても回答に困る。その時・・・

「ハル姉-山ノ井春音さんは、ヤスにいの婚約者なの。」

 実がおじいちゃんに言う。

「ちょっ、実!何言ってる!」

 慌てる僕とは正反対に、おじいちゃんは落ち着き払ってハルに頭を下げる。

「そうですか。なにぶん保信こいつは飛行機や軍艦にばかり熱中しておりまして、本当に将来が思いやられる馬鹿野郎ですが、なにとぞよろしくお願いします。」

「い、いえ、こちらこそ、ありがとうございます。」

 ハルがあたふたして頭を下げる。おじいちゃんは、真剣な顔で僕の方を振り返った。

「保信」

「はい!」

「春音さんのこと、幸せにするんだぞ。」

「わ、わかった。」

 僕は思いっきりうなずく。

「じゃ、わしは艦内旅行にでも行くかの。誰か案内を付けてくれ。」

「わ、わかりました。みやび!ちょっと来て。」

 みやびがやってきて、おじいちゃんと話し始める。そして、おじいちゃんが行こうとするとき、こっそり僕に耳打ちした。

「智信と光江にはわしからよく言っておくから、今度春音さんと一緒に挨拶にでも来なさい。たとえあの二人が反対しようと、わしがお前らの結婚を認めてやる。」

 智信と光江は、僕の父と母だ。おじいちゃん、ハルのことをすごく気に入ったみたいだな。

「政次中尉!行きますよ!」

 みやびの声が聞こえた。

「おう!今行くぞ!じゃあんまた今夜」

 おじいちゃんが歩き始める。その姿は、艦橋の中に消えていった。 



 ・・・・・・・でも、まさかほんとに家族公認になるとは思わなかったな。






 三日後・・・・・・

 呉で赤城、加賀、蒼龍、飛龍と合流した僕たちは、最終的な全艦隊の集合地である北海道は択捉島蘂取村にある単冠湾に向けて、呉を出港した。


保信「保信と!」

春音「春音とぉ!」

みやび「みやびの~!」

三人『次回予告~!!』


―♪我は官軍我が敵は天地容れざる朝敵ぞ 敵の大将たるものは古今無双の英雄でこれに従う兵もともに剽悍決死の士 鬼神に恥じぬ勇あるも天の許さぬ叛逆を起こしし者は昔より栄えた例あらざるぞ

敵の滅ぶるそれまでは進めや進め諸共に 玉散る剣抜き連れて死する覚悟で進むべし・・・・


保信「はい、今回は、僕の祖父である神崎政次中尉が登場しました。」

みやび「あの方にはびっくりしましたよ。九十歳超えてるのにあの広い翔鶴艦内をほぼ全部歩いたんですから。」

春音「しかも、わたしのことを『ヤスの婚約者』って言ってたし、もうこれ結婚するしかないじゃん。」

保信「いきなり話が早いぞ。っていうか、僕らまだ付き合い始めてそんなに経ってないよね。」

みやび(指を折って数える)「ですね。」

春音「でも、ご家族公認ってことは、里帰りした時も普通にじゃれあえるね♪」(と、言いながら保信に抱き着く)

保信「ふわっ!やめろ!」

みやび「ヤスさんの幸せ者」(冷たいまなざし)

春音「次回予告はみやびがお願い。」

みやび「はあ~。わかりました。」(キャラ変スイッチON!)

みやび「次回は、永信と実にプレゼント!?それでは皆さん、お楽しみに!」


今回のBGMは、陸軍分列行進曲「抜刀隊」でした。


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