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いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第四章 継承権争い -後始末編- 九歳~十歳

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(あー、つまんねぇ……)

 領主代理を始めて一ヵ月が過ぎた頃、アイザックは早くも飽きてきた。

(なんていうか、地味なんだよなぁ……)

 アイザックはあくまでも領主代理の代理(ランドルフの代わり)である。
 ドラスティックな改革案を出しても、ハンスの手によってすぐに却下されてしまう。

 例えば、楽市楽座もどきを提案した時――

「税を軽減して、誰でも商売を自由に始められるようにする? 馬鹿な事を言うな! 確かに商業が活発になって将来的にはウェルロッド領は潤うかもしれん。だがそれは、他の領地から多くの商会が拠点を移すきっかけになるかもしれん。その場合、他の領地全てに経済的な混乱をもたらすかもしれんのだぞ。そういう事をやりたいのなら、リード王国全土で同時にやらねば、いらぬ恨みを買う事になる。どうしてもやりたいというのなら、王にでもなるのだな」

 ――と一蹴されてしまった。

 しかし、アイザックはその事を悔しがってはいない。
 むしろ感謝していた。
 提案した時は、他の領地に与える影響を考えていなかったからだ。

 参考にした織田信長は周囲が敵ばかりだった。
 だから、周囲の国の経済など無視して自分の領土を発展させる事に全力を注げたのだ。
 アイザックのように、周囲に同じ国の貴族がいる地方領主がやっていい政策ではなかった。
 ブレーキ役がいてくれる事に感謝しているくらいだ。。

 他にも農民の三男以降を専業兵士とする案などを出した。
 だが、それも「軍備拡張を支えられる経済の裏付けはあるのか?」の一言で黙るしかなかった。
 本で読んだ歴史上の人物の真似事をしようとしても、現実という壁が邪魔をする。
 そのため、アイザックは黙々と真面目に仕事をするしかなかった。
 リサが遊びに来る週に一回の休みだけが心の休まる時だった。

「アイザック、この件はどう思う?」

 ハンスが一枚の書類をアイザックに見せる。

「ティリーヒルの拡張ですか……」

 内容はティリーヒルを治めるオルグレン男爵から、街の拡張のために資金を出して欲しいという要請書だった。
 街が大きくして住居を増やし、新規に人を雇って採掘場を新設したいらしい。

「教会にいた時に聞いた噂だが、無視できない数の鉱夫達がブランダー伯爵領に夜逃げしていらしい。ウォリック侯爵領の混乱が収まっても、採掘量はすぐには戻らないだろう。すぐに効果が出るわけではないが、拡張しておくのも悪くないと思う」
「確かに! いや、でも……、うーん……」

 アイザックは悩む。
 確かに自前の鉱山が増えると安心できる。
 しかし、だからといって即答はできなかった。
 悲しい事に”自分が飛びつきたくなる内容だから、きっと何かダメなところがある”と、この頃思い込むようになってしまっていた。
 少し考えてから、関係のある人に質問するという安全策を選んだ。

「ノーマン、ちょっとクロードさんに”ティリーヒルで鉱山の拡張をした場合、エルフはどう思うか?”って聞いて来てくれる?」
「わかりました」

 アイザックは、フランシスの仕事を見てメモを取っていたノーマンに声を掛ける。
 彼はすぐに部屋を出て行った。

「……そうか、そういえばティリーヒルはエルフの住処の近く。採掘場を増やすとなると、大規模な森林の伐採を行う必要がある」
「はい。そうなれば、森で生きるエルフの反感を買ってしまうかもしれません」
「判断が難しいところだな」

 ハンスもアイザックの危惧している事に理解を示した。
 今のティリーヒルは採掘技術を維持するための地方都市ではない。
 エルフとの交易都市としての役割も持ち始めている。
”ティリーヒルは、もう人間の都合だけで好き勝手に開発する事ができなくなったのではないか”とハンスは考えた。

 しばらくして、ノーマンが姿を現した。

「アイザック様、クロード様が直接話したいそうです」
「あぁ、そりゃあ自分の口で伝えたいよね。入ってもらって」

 どうやらクロードは言付けを頼むのではなく、直接言いに来たらしい。
 神妙な面持ちで部屋に入ってくる。

「これはあくまで意見であって、正式な要請ではないという事はわかって欲しい」
「うん、わかってるよ」

 クロードはエルフの大使として滞在している。
 だが、だからといって彼個人の考えで全てを決められるわけではない。
 代表して交渉する全権委任まではされていないからだ。
 今回のような時にエルフの考えを伝える事こそ、彼の役割だった。

「一般的な意見として、自分達の住む森の一部が破壊されるというのはあまり気持ち良いものではない。戦争が終わった後にドワーフ達と一緒に暮らすという選択をしなかったのは、自然破壊を見たくないという思いがあったからだ」

 クロードの意見はわかりやすいものだった。
 言われてみれば、確かにそうだとアイザックも納得する。
 かつては人間相手に共同戦線を張ったが、人間同様に森を切り開き、地下資源を採掘するのはドワーフも同じ。
 生活が不便だと感じていたのに、ドワーフ達の住むところから離れた場所に住んでいたのにはちゃんとした理由があったのだ。

「だが、開発するなとは言わない。人間が鉄製品を作ってくれている事で、我々もその恩恵を受けているからな。ただ、できるならウォリック侯爵領のように遠く、我々の目に見えない場所でやって欲しいという思いはある」
「なるほど」

 クロードの話を聞いて「エルフは身勝手だ」と言う事は簡単だ。
 だが、前世でも色々と問題があった”人種や宗教が違う”どころではない大きな違い。
”種族が違う”という事を忘れてはならない。
 過去に人間と共同生活をしていて常識は似ているとはいえ、根本的な部分が違う。

 そして、クロードの意見は大げさに受け取った方が良いだろうとアイザックは考えていた。
 彼は人間との生活に慣れている。
 そのまま言葉通りに受け取るよりも、もう少し過激な意見を想定した方が平均的なエルフの考えになるはずだ。
”開発をすれば、今の時代を生きる人間を嫌い始めるようになる”と考えた方がいいだろう。
 クロードですら嫌がっている採掘場の新設は着手すべきではないと思われる。

「ハンスさん、僕は採掘場の新設はするべきではないと思います」

 アイザックは穏便な方法を選う。
 しかし、それはハンスには危惧する事があった。

「アイザックの考えはわかるが、それはやめたほうがいい。ティリーヒルはウェルロッド侯爵領、人間の領域だ。下手をすれば、エルフへの配慮ではなく、エルフに頭が上がらないと取られかねないぞ」

 もしこれがエルフの領域に踏み込んでの開発ならば、協議の上で行うという事も理解されるだろう。
 だが、人間の領域でエルフに譲歩するのは弱腰と見られる。
 その事をハンスは心配していた。

「いえ、それは大丈夫です。作らない理由はエルフ以外にもありますので」

 それからアイザックは、新設しない方が良い理由を話し出した。

「今思うと、今から採掘場を新しく作っても無駄になるんじゃないかなって思うんですよ。だって、今まで最低限の採掘場しかなかったのは鉄鉱石の品質がイマイチだったからですよね? ウォリック侯爵領の混乱が収まったり、ブランダー伯爵領の鉱山が本格稼働し始めたら用済みになるじゃないですか。そうなると、採掘場は必要なくなります。職を失って路頭に迷う人が大勢でますよ?」

 これはクロードの話を聞いていて”採掘場を作るべきではない”と考えた時、前世のニュースが脳裏に思い浮かんだからだ。

”〇〇が大人気!”と特集されるほどになった製品を作っている会社が工場を増設。
 しかし、工場が稼働しだした頃にはブームが過ぎ去ってしまっていて、新しい工場は必要なくなり閉鎖。
 良くてリストラ、悪ければ会社が倒産してしまったという話を聞いた事があった。
 その話を思い出し、ティリーヒルの採掘場も必要ないのではないかとアイザックは考えたのだった。

 アイザックの意見に、ハンスも思うところがあったのだろう。
 うーん、と唸っている。

「……確かにその考えは一理あるな。投資が無駄になるのは避けたいところだ」
「今ならただの要請書だけで、外部の誰かに知られているというわけでもありません。鉱山の開発をしないという選択をしても、馬鹿にはされないでしょう」
「確かにその通りだ。では、この要請は却下するか?」
「いえ、街の拡張だけは良いんじゃないでしょうか。遠くの村から来たエルフのための宿泊施設などを用意しておけば、将来的にティリーヒルは鉱山都市から、本格的な交易都市へと変わるかもしれません」
「なるほどな」

 ハンスの考えが揺らぐ。
 自前で鉄を用意できるのはいい。
 だが、ウォリック侯爵領の混乱が収まった時にどうなるのか?
 そう言われれば、開発に疑問を抱いてしまう。

「では、要検討とし、後日改めてオルグレン男爵を交えて話をするという事でいいか?」
「はい、僕はそれが妥当だと思います」

 アイザックはティリーヒル拡張の要請書に”却下”と書き込む。
 追記で”要検討、オルグレン男爵と相談必須”とも書き込んだ。
 その書類をフランシスに渡す。
 あとは彼がアイザックの予定とオルグレン男爵の予定を合わせて、話す機会を準備してくれる。

「クロードさん、ありがとう。良い意見が聞けて良かった。少なくともティリーヒルでは、人間のためでもエルフのためでもない。人間とエルフ双方(・・・・・・・・)のためになる事をやっていきたいと僕は思っています」
「そう思ってくれるのは素直に嬉しい。だが、一方が譲歩するばかりが友好ではない。村長達を集めて納得がいくまで話し合ってからならば、我々も譲れるところは譲る。配慮するばかりではなく、時にはちゃんと意見をぶつけ合って欲しい」
「わかった。心に留めておくよ」

 軽く会釈を交わしてクロードは部屋を出て行った。
 その姿を、アイザックは寂しそうな視線で見送る。

(あぁ、出て行っちゃったよ……)

 今回のように、重要な件で話し合うのは久々に楽しかった。
 クロードが出て行ってしまった事を名残惜しいと思ってしまう。
 そんなアイザックの前に、新しい書類が置かれる。

「では、次はこの書類の確認とサインだ」
「はい……」

 領主の仕事は地味でつまらない。
 ほとんどの仕事が官僚がまとめた書類を確認し、その書類を認めるサインを書くだけだ。
 今思えば、父ランドルフもそうだった。 
 初めて執務室に来た時、勉強として官僚がどんな仕事をしているのか勉強していた。
 派手な仕事をしたりはしていなかった。
 しかし、だからといって、この仕事を放り投げるわけにはいかない。

 たかが紙切れ一枚とはいえ、アイザックがサインを書かなければ仕事が止まる。
 仕事の進みが停滞すれば、官僚達が残業しなくてはならなくなる。
 前世で残業の苦しみを知っているだけに、アイザックは自分のせいで他人を残業させるような事はさせたくなかった。

 領主代理は責任と緊張感のある仕事だ。
 しかし、面白味が無い。
 だが、面白味が無いという事は、何も事件が起こっていないという事。
 事件が起きていないという事は、それは領内が安定しているという事だ。
 本来の目的である、ウェルロッド侯爵領の安定が達成されているのは素晴らしい事だと思う。

(でも、つまんねぇな……)

 予想よりも早く領主の椅子に座ったアイザックだったが、権力の座は思っていたものではなかった。

(やっぱり、一番にならないとダメだな)

 ハンスにも「好きなようにやりたければ王になれ」と言われている。
 やっていて面白い仕事をするために、アイザックは王を目指す決意を新たにする。
ここ数日ブックマーク数が増えているなと思ったら、友人から日間ランキングに載っていると教えてもらいました。
ランキングに載って嬉しい限りです。
今までずっと読んでくださっていた皆様も、これから読んでくださる皆様にも、ただただ感謝です。
無理の無い範囲で投稿を頑張っていきたいと思います。
+注意+
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