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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第二十章 大陸統一編 二十三歳~

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829 三十一歳 もう一つの大攻勢

 バークレイ王国とサウスウォルド王国以外のマカリスター連合加盟国は混乱に陥っていた。


「交渉の使者を送り出したのに攻め込んできただと! どういう事だ!」

「どうやら要求を断ったからのようです」

「あれは交渉を有利にするために吹っ掛けた内容だったはずだ。あの条件を叩き台にして交渉を進めていくのが常識だろう!」

「その常識が通じない相手だったようです……」

「そんなバカな事が、あるか……」


 あり得ない事だと言っても、現に攻めてきている以上は否定する意味がない。

 しかも北方では、アルビオン帝国の反乱軍まで大攻勢を仕掛けてきているという。

 このままでは防ぎきれない。


「サウスウォルドやバークレイに援軍要請の使者を出せ! マカリスター連合の一員なのだから共に戦うべきだ!」

「かしこまりました」


 だが、その使者が良い報告を持って帰ってくる事はなかった。

 サウスウォルド王国は「もう兵を動かす金がない」と援軍を拒否し、バークレイ王国は「連合はアルビオン帝国相手のもの。エンフィールド帝国相手に発動する条項はない」と断った。

 しかも、使者が戻ってくる頃には前線からの悲報が続く。

 特にエンフィールド帝国の攻勢を受けたメルブリーク王国では、前線が一日で吹き飛ばされた。

 比喩ではなく、文字通り砲撃によって前線が破壊し尽くされた。

 圧倒的暴力の前に時間稼ぎすらできない始末である。

 ここに至って、彼らはアイザック相手に交渉しようなどと考えるべきではなかったと後悔する事となった。



 ----------



 一方、その頃。

 そろそろ帰国しようと考えているアイザックも、ヴィンセントの猛攻撃を受けていた。


「アイザック陛下は寂しくないのですか?」

「私なら、陛下の寂しさを埋める自信がありますわ」

「陛下なら相手の寂しさも癒してくださるのでしょう?」


 彼はパーティー会場に美女を集めて、アイザックの相手をさせようとしていた。

 なにしろアイザックは七人の妻を持つ性豪だ。

 こうして妻と離れた場所にいて、何か月も一人寝の夜を過ごすのを我慢していられるはずがない。

 だから一晩の相手ができそうな者を探し、アイザックにあてがおうとしていた。

 いくらアイザックであろうとも、体を重ねた相手には甘くなるはず。

 そこを突破口にして、少しでも有利な条件を引き出そうと考えていたからだ。


「私は妻達を愛している。こうして離れている時も彼女達と過ごした日々を思い返すだけでも寂しくはない。あなた達にも寂しさを癒してくれる相手が見つかる事を願っているよ」


 だが、アイザックは彼女達を相手にしなかった。

 ヴィンセントや彼女達の魂胆などお見通しだったからだ。

 一時の欲に負ければ、得られる快楽よりも大きな代償を支払う事になる。

 それがわかっているため、アイザックは簡単に誘いには乗らなかった。

 もちろん、それだけではない。


(リサやティファニーのような、俺の権力に関係なく付き合ってくれていた人達の大切さを思い出させてくれた事には感謝するけどさ。ここまで露骨に権力へすり寄ってこられるとなんだか虚しくなるな……)


 リサもティファニーも侯爵家の嫡男としての地位が不安定だったアイザックと仲良くしてくれた。

 肩書きなどに関係なく接してくれた者と、媚びて近寄ってくる者とでは比べるまでもない。

 このような状況は好ましいものではなかったが、誰を大切にするべきかを再認識できたので無駄ではないと前向きに考えていた。

 アイザックは女性達から離れて、ヴィンセントのもとへ向かう。


「ヴィンセント卿、いつから女衒の真似事をするようになったのですか?」


 アイザックは、ヴィンセントにチクリと嫌味を言う。

 しかし、その言葉は彼に効かなかった。


「何の事でしょうか? 容姿と人格に優れた君主など、誰から見ても魅力的に映るもの。女どもが勝手に憧れて話しかけるのは私のあずかり知らぬところです」


 ヴィンセントはしらばっくれた。

 認めさえしなければ、根回ししている事など誰にもわからないからだ。


(「客がお店の女の子と恋愛して、関係を持っただけだ」みたいな言い訳を、こんなところで聞かされるとは……)


 だが、アイザックには効果がなかった。

 彼が下手に出てしらばっくれているのは一目瞭然だったからだ。


「このようなあなたの権威を傷つけるような行為はやめたほうがいいですよ。もっと自分を大切にするべきです」


 だから彼を心配するような言葉をかける。

「やめろ」というよりも、優しい言葉をかけたほうが彼の自尊心をくすぐる事ができるとわかっていたからだ。

 ヴィンセントはプライドを傷つけられたのか、眉をピクリと動かす。


「何の事だかわかりませんが、陛下のお言葉を胸に刻んでおきましょう」

「ええ、そうしてください。それではまた」


 アイザックは子供達を取り巻く光景を目にしたので、ヴィンセントとの会話を切り上げた。

 彼にとっての最優先事項だったからだ。

 アイザックは子供のところへ向かう。

 そこには彼同様、若く美しい女性が群がっていた。


「エンフィールド帝国の帝都はどのような場所なのですか?」

「私も行ってみたいです」

「えっと、あの……、その……」


 普段のザック達ならば問題なく対応できていただろう。

 だが、今回はしどろもどろになっている。

 それには周囲を取り囲む令嬢達が影響していた。


「お嬢様方、少しよろしいかな?」


 アイザックが声をかけると、ザック達がホッとした表情を見せた。


「成人していないとはいえ、男の子にそのような格好で話しかけるのはよろしくない。もう少し落ち着いた雰囲気のドレスに着替えてきてもらえるかな」


 ――そう、彼女達は胸元が大きく開いたドレスを着ていたのだった。


 それも大中小関係なく。

 ザックやクリスくらいの年頃になれば、異性について興味も出てくる頃合いである。

 そんな彼らには、胸元の開いたドレスを着た年上の女性に取り囲まれるのは刺激が強かった。

 アイザックも強くはないが、それでも「子供を助けなければいけない!」という使命感が、魅力的な女性達を完全に無視させていた。

 さすがにアイザックに指摘されて、そのまま居続ける事はできない。

 令嬢達は一礼して、その場を離れていく。


「父上、ありがとうございます。どう対応すればいいのかわからなくて困っていたところです」

「そう見えたから来たんだ。今は難しいだろうけど、いつかは自分であしらえるようにならないといけないよ。皇太子というのは誘惑が多いはずだからね」

「そうですね、気を付けないと。……もしかして、上手くあしらえなかったから父上は七人と結婚したのですか?」


(えっ、そんな風に思われていたのか!?)


 ザックの何気ない疑問がアイザックの心を容赦なく抉る。

 アイザックの鼓動が早くなるが、同時に言い訳を考える思考回路も高速で動き始める。


「そうじゃない。政治的な理由で結婚を決意したというのが大きな理由だ。何しろ私は侯爵家から国王になったからな。様々なしがらみがあった。だが結婚の理由は政治的なものだが、それ以前から人としては好きだったし、結婚を機に一人の女性としてちゃんと愛するようになった。あしらえなかったからというような理由ではない事は覚えておいてほしいな」


 一番の理由はパメラの正体にあったが、その事を子供達に話すわけにはいかない。

 他の妻達もちゃんと愛しているとフォローしながら、しっかりと「性欲に負けて結婚したわけではない」と否定する。


「私の場合は、ウィンザー公が義理の祖父になったからな。リード王国で一、二を争う相手と争ってまで娘を嫁がせようとしていた貴族は少なかった。だがお前達は違う。婚約者がいるとはいえ、第二、第三夫人の座を狙う者が近寄ってくる。何しろまだ子供だからね。大人になるまでは取り入りやすいと思われやすいんだ。だから魔法の言葉を教えてあげよう」

「魔法の言葉ですか?」


 ザック達は、アイザックの言う魔法の言葉がどんなものなのか耳を傾ける。


「子供なのでよくわかりません。だから親に聞いてみます、だ。二人で出掛けようとか言われて困ったら、そう答えればいい。そうすれば、お前達を誘惑しようとしていて後ろめたい相手は引き下がるだろう。それでも引き下がらない者には、私達のほうから『婚約者のいる相手に近付こうとする理由は?』と問い質してやる」


 期待していただけに、アイザックの魔法の言葉に子供達はがっかりする。


「それは……、なんか情けない気がします」

「だったらちゃんと断れるようになる事だ。それまでは親だろうが使えるものは使うといい。選べる選択肢があるのに使わずに窮地に追い込まれるのは愚かな行為だからね」


 子供達は親に頼るのを嫌がるが、アイザックは頼って欲しかった。

 そうすれば近寄る異性は全力で追い払ってやる事ができるからだ。

 少しずつでも子供達が自分を頼るように誘導しようと、アイザックは頑張る。

 その時、バリーがよそ見をしている事に気づいた。


「どうした、バリー?」

「あ、いえ。ソフィーティアさんがこっちを見て、怒ったような顔で離れていったのでどうしたのかなと……」


 どうやらソフィーティアもパーティーに顔を出しており、バリーの様子を見ていたらしい。

 彼の反応に、アルバインが呆れた態度を見せる。


「年上の女の人に鼻の下を伸ばしていたから嫉妬されたんだろう」

「鼻の下なんて伸ばしてないよ!」

「じゃあ、ソフィーティアさんにそう話してくるんだな」

「でも……」


 バリーはアイザックを見る。

 まだ幼い子供達には兄弟と一緒にいるように厳命していたからだ。

 安全のための措置だったが、一箇所に集まっていたから、ゾンビの群れに襲われる生存者のような状況に陥ってもいた。

 アイザックとしては、嫉妬したであろうソフィーティアと上手くいかなくなるのは大歓迎である。

 だが、息子の「話に行ってもいい?」という視線には勝てそうにない。


「じゃあ、お兄ちゃんの誰かと一緒ならいいよ。でも会場を出ないように」

「ありがとうございます! じゃあ、アルバイン兄ちゃん来てよ」

「僕が? ……まぁいいよ。では行ってきます」

「気を付けてな」


 アイザックは二人がソフィーティアのもとへ向かう後ろ姿をしばらく見つめていた。


(ああ、子供が巣立つ時ってこんな感じなのかな……。いくらなんでも早すぎる!)


 ただ友達に会いに行く程度の感覚で向かう子供達の姿を、アイザックは大袈裟な感情で見送る。

 ヴィンセントの接待大攻勢は失敗したが、関係のないところでアイザックに致命的なダメージを与える事には成功していた。

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― 新着の感想 ―
>上手くあしらえなかったから父上は七人と結婚したのですか?」 あながち間違いでも無いのが悲しいなw つーかそのせいで、可愛い妹から並外れた女好きと思われて白い目を向けられるわ、嫁さんたちとの夜の生活…
まぁ、あしらえなかったわけじゃないけど、ねぇ……?
上手くあしらえなかったから父上は七人と結婚したのですか?…か そんな風に見られてたとは、家族スキーなパパンとしてかなり胸をえぐられましたねぇ
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