820 三十一歳 子供達の初めての反抗
本日更新『いいご身分だな、俺にくれよ ~下剋上揺籃編~』第10話「新たな取引」が公開されました!
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ヴィンセントは、アイザックの恐ろしさを実感していた。
(行動の一つ一つを見れば、人のために行動しているように見える。それなのにしっかりと奸計に落としてくる。なんと嫌な奴だ。きっと友達が少ないか、ロクな奴がいないに違いない)
――貴族の子息を集めての婚活パーティー。
それは一見、アルビオン帝国の貴族にとっても悪くはない催しだった。
しかし、ヴィンセントにとっては違う。
アルビオン家は孫や曾孫の破談があったり、貴族との繋がりがダメになったりした子供が多い。
だから有力貴族との繋がりを強化しておきたいところだった。
だがアイザックのせいで、それもダメになった。
今のアルビオン家と婚約を結ぶくらいなら、有力貴族同士で婚約を結んだほうがいい。
――なぜならアルビオンの直系は、反逆者の子女しかいないからだ。
アイザックから警戒されるとわかっている相手と婚約を結ぶくらいなら「ヴィンセントに従い続けた忠臣」という印象を壊さない相手と婚約を結んだほうがいい。
そのほうがエンフィールド帝国でやっていきやすいからだ。
その事はヴィンセントもわかっている。
だから婚活パーティーを、アイザックの罠だと考えていた。
(婚約者が決まらなければ格下が相手だったとしても我慢するしかない。それが嫌なら、エンフィールドの血を受け入れろという事なのだろう。パーティー一つで、こちらが頭を下げて『婿か嫁をください』と頼まねばならなくなった。普段から悪逆無道な振る舞いをしているのならともかく、表向きは善人のフリをして罠を仕掛けてくるとは、なんといやらしい奴だ)
婚活パーティーは、婚約者をどう選ぶか困っていた貴族にとってありがたいもの。
出席者の中から、目星を付けていた相手に接触させるだけで話が進む。
しかし立場が変われば、パーティーの意味合いも大きく変わってくる。
ヴィンセントは、アイザックに追い込み漁をかけられたような気分になっていた。
彼は悔しがる。
だが同時にチャンスでもあると考えていた。
(アルフレッドやブランドンの孫とはいえ、アルビオン家の名前は強い。アルビオン帝国を支配下に入れるのならば無下にはできんだろう。だからこそ他の貴族に奪われないように囲い込んだとも読み取れる。まだまだチャンスは残っているはずだ。だが油断はできない。握手をしながら、もう片方の手でナイフを隠し持っているような男だからな)
王国として残るのは無理になったが、公爵でも十分返り咲くチャンスはある。
ファーティル公爵やロックウェル公爵などは、総督として実質的に王国のあった地方の王のままだからだ。
アルビオン家も、この地方をまとめる総督として力を残せるかもしれない。
アイザックがアルビオン家の子供を囲い込んだのも、そのためだという可能性も十分にあった。
とはいえ、相手は嫌がらせに長けたアイザックである。
希望を持たせてどん底に突き落としてくる可能性も考えておかねばならなかった。
ヴィンセントにこれだけ警戒されているアイザックはというと、子供の反抗で困っていた。
「父上は来ないでください」
「僕達がバリー達の面倒を見ますから」
ヴィンセントの曾孫との面会に、アイザックは来るなとザックとクリスが言い出したからだ。
「なぜだ? もしバリー達の婚約者になるならパパも会っておきたいんだけど」
「父上がいると、父上がカッコいいという話になるからです。それが気まずいんです」
ザックの説明を聞いても、アイザックはピンとこなかった。
「戦争に勝ったりしていたから、カッコいいって事か?」
「違います」
アイザックの言葉は即座に否定される。
「じゃあ、なぜだ?」
「それは……」
さらに尋ねるアイザックだったが、ザックが口ごもる。
代わりにクリスが動いた。
「ディース王女やシンディーさんと初めて話した時、ずっと父上の話ばかりされました。僕達の婚約者になるかもしれないのなら、お互いの事をもっと話したかった。父上がいると僕達に興味を持ってくれないんです。……だからバリーとドウェインには、そんな思いをさせたくないんです」
クリスの説明を聞いて、アイザックは絶句した。
まさかそのような理由で同席を断られるとは思っていなかったからだ。
しかし、言われてみれば彼らの言いたい事もわかる。
(俺から見れば、みんな美男美女ばかり。でもシックスメンズの俺は、その美男美女の中でも上位の存在。しかもパメラがうるさいから美容にも気を遣うようになった。俺にはわからないようなほんのわずかの差でも優劣はつく。周囲にはトップクラスのイケメン俳優のように見えるのかもしれないな)
――子供にまで魅力的に見える大人。
そう見られているとわかって悪い気はしない。
だが、アイザックにも譲れない事があった。
「そんな事はない! バリーもドウェインも可愛いし格好良い! もちろん、お前達もだ! 直接、お前達の事を尋ねるのが恥ずかしかったから親の話になったはずだ!」
アイザックは熱弁する。
本気でそう思っていたからだ。
しかし、ザック達の反応は冷ややかなものだった。
「父上は身内贔屓が強すぎます。僕も弟の顔が整っているほうだとは思いますが、父上ほどかというと……」
「そんな事はない! ノーマン、お前はどう思う?」
「私ですか?」
久しぶりにアイザックに同行したと思ったら、突然嫌な質問をされてしまう事になったノーマン。
彼は戸惑いながらも、正直に答える事にした。
「容姿に恵まれた両親から生まれたという事もあり、どの殿下も上位10%、もしくは5%にも入る容姿をされておられると思います」
「ほら」
アイザックは勝ち誇った笑みを浮かべる。
だが、ノーマンの言葉には続きがあった。
「ですが陛下は三十路を過ぎても上位1%に入るか、それ以上の容姿を維持していると思います。ですので子供とはいえ、女性の目を惹きつけてしまうのも無理はないでしょう」
「なっ……」
アイザックは「裏切られた!」という目でノーマンを見る。
以前の彼ならアイザックから視線を逸らしていただろうが、今回は申し訳なさそうにしながらも、アイザックから視線を逸らすような事はしなかった。
必要な情報を主君に伝えるのも家臣の役目だとわかっていたからだ。
「そういうわけなのでベイツ子爵達が付いてくるのはいいですが、父上は来ないでください。まずは子供同士で話し合いたいですから」
「そんな……」
アイザックは助けを求めて周囲を見回す。
しかし、ザックの意見も一理あるので誰もアイザックに助け舟を出す事ができなかった。
「陛下」
だが一人だけ動く者がいた。
――マットである。
(そうだ、こいつならきっと味方になってくれる!)
「今回は子供が一人立ちしようとしている事を喜んで引くべき時です」
(この裏切り者が!)
味方してくれる事を期待していたが、マットは正反対の事を言い出した。
彼の態度にアイザックは傷ついた。
「ありがとう、カービー子爵。あとカービー子爵とエルフの男の人も同席禁止だからね」
「私もですか?」
「うん。普通にカッコいいくらいの人はいいんだけど、カービー子爵は凄くカッコいいからダメだよ。よろしくね」
「そう言っていただけるのはありがたいのですが……。陛下より年上のオジサンですよ?」
自分の容姿が優れているとは思っていなかったのだろう。
年も年なので、複雑な気分になっていた。
「あらかじめ危険は排除しておかないとね」
クリスにマットが危険物扱いされた事で、アイザックに余裕が戻る。
(そういえば、こいつもサブ攻略キャラ。見た目はいいんだよな、見た目は)
マットは残念美人ならぬ残念イケメン。
中身を知れば幻滅されそうではあるが、初対面で見抜くのは難しい。
彼を警戒する子供達の気持ちもわかった。
わかっていないのは、アイザックもマットを馬鹿にできないレベルだという事である。
「仕方ない。邪魔者はヴィンセント卿と話でもする事にしよう。ザックとクリスが中心となって、弟達の面倒を見てやってくれ」
本当はアイザックも付いていきたい。
ヴィンセントに頼まれたからといって、彼の曾孫と婚約させる気などまったくなかった。
彼の曾孫と婚約させれば、何のために婚活パーティーを開いたのかわからなくなってしまうからだ。
だが子供の前で駄々をこねて幻滅させたくないという気持ちが今は勝った。
表向きは物わかりのいいフリをする。
(それにどうせヴィンセントの曾孫なんて性格悪いだろうしな。この子達もドン引きして距離を置こうとするはずだ。上手くいくはずなんてないから、きっと大丈夫だろう)
その決断はヴィンセントの性格が大きく影響を与えていた。
――彼の血筋ならば性格が悪いはず。
その思いこみが、アイザックに少し余裕を与えていた。
今回のザックとクリスの申し出は「アイザックに意見を通せた」と、二人に成功体験と自信を与える事になった。







