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いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第一章 幼少期編 前世~五歳

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 リード王国の貴族のほとんどが家を二、三軒持っている。
 王都に一軒持つのは当然として、領地持ちの傘下にある者は領都に一軒。
 街を任されている場合は、そこに一軒といった感じになっている。

 ティファニーやリサも、王都にある自宅で寛いでいるはずだ。
 アイザックはそう思っていた。
 なぜそのように考えるかというと、彼自身もぐったりとしているからだ。

「さすがに二週間も馬車は辛ぇ……。お前もそう思うだろ?」

 アイザックと同じように、座ってぐったりとしているパトリックに話しかける。
 普段は元気一杯のパトリックも、大きな檻に入れられて運ばれたのは辛いようだ。
 アイザックの言葉はわかっていないだろうが、タイミングよくあくびをする。

(リサの言う通り、屋敷の敷地が広い。しかも、城が見える一等地だ)

 アイザックは窓の外を見ると、王宮の屋根が見えた。
 この国では王宮の周辺に貴族向けの役所や近衛兵の駐屯地などがあり、その周囲に貴族の屋敷がある。
 しかも、領地を持つ侯爵家と伯爵家の屋敷は、その領地が位置する方向に屋敷が構えられている。
 ウェルロッド家は王宮の南東方面にあった。

 領地を持たない貴族は住む場所は自由だ。
 だが、ティファニーやリサの家のように、領地持ち貴族の下で働いている家は上位貴族の屋敷の比較的近くに住む事が不文律となっている。
 いつでも呼び出しに応じられるようにするためである。
 とはいえ、緊急時以外に呼び出すような事はない。
 特に、地方から訪れたばかりの時には呼び出さない。
 疲れているのはお互い様だからだ。

 アイザックが王都の屋敷に着いてやったことは、庭師に花壇を作っておいて欲しいと頼んだだけ。
 あとはパトリックと共にゆっくりとした時間を過ごしていた。

(それにしても、この王宮は攻めやすそうだな)

 アイザックは、将来に備えてそんな事を考えていた。
 王宮は行政を中心に考えられているのか、平城のようだ。
 王都まで攻め寄せられないと思っているのだろう。
 いや、もしかしたらこの世界を作ったシナリオライターが、そこまで考えていなかっただけかもしれない。
 だが、それはアイザックにとって好都合だった。
 いつか王都に攻め上がった際に、山城を攻めるよりは落としやすい。

(街を囲う壁は厚くて高い。だが、戦争から逃れて来た難民に見せかけて、あらかじめ千人ほど街の中に兵士を紛れ込ませておけば中から開けられるだろう。防御施設っていうのは、外からの攻撃は想定されていても、内側の敵には脆いもんだ)

”王都自体は防衛拠点として怖くはない”と、アイザックは判断する。
 もちろん、これらは全て現実逃避だ。

 領主になって傘下の貴族を掌握しなければ、王都攻略など夢物語のまま。
 二手先、三手先を考えても、一手先で躓いていては意味が無い。
 まずは、貴族を掌握する方法を考えねばならない。
 それが思いつかないから、別の事を考えて気をまぎらわせている。

(とりあえず、将来の盟友として期待しているウィンザー侯爵家に挨拶に行きたいなー。パメラが処刑されそうになった時に助けて、そのままなし崩し的に王家との戦闘に巻き込む。共同戦線を張れるように、今から友好的な関係を築いておいた方が良いだろうし)

 こうして理由を付けているが、アイザックの目的はパメラに会いたいというものだった。
 ティファニーも髪を伸ばし始めている。
 まだ三つ編みにはなっていないが、その内三つ編みにするのだろう。

 ――ならば、パメラのドリルはどうなっているのか?

 アニメや漫画では、ドリルヘアーのキャラは髪が綺麗に巻かれている。
 もし、この世界で見た時に、パーマのような感じでロングヘアが軽くクルクルと回転しているだけなら興ざめだ。
 ゲームのパッケージに描かれていたような、クロワッサンが付いているようなハッキリとしたドリルであって欲しい。
 もしかすると、まだ子供なのでドリルヘアーではないかもしれない。
 だが、それはそれで一興。
 ある日を境に、突然ドリルヘアーになった時にきっと笑えるはずだ。

(いや、笑うのはマズイな)

 アイザックは自らを戒める。
 味方にしなくてはならないのに、笑ってしまっては嫌われてしまう。
 ただ、本人を目の前にして笑いを堪えられるかどうかは別。
 今まで会ってきた女性はみんな普通の髪型なのに、一人だけドリルなんて受け狙いにもほどがある。
 覚悟を決めておかねば、つい笑ってしまいそうだ。

 だが、意識し過ぎて、会った時に本当に笑ってしまってはいけない。
 これ以上考えないように、パトリックを撫でて気を紛らわせる。
 パトリックは”俺も疲れてんだけど……”と眠たそうな目をしながら顔をアイザックに向けた。

(そうだな。疲れてると良い考えも浮かばない。今は休もう)

 アイザックは横になり、パトリックの体を枕にする。
 この間の一軒以来、パトリックと一緒にいる時に眠くなったら、こうして寝るようになった。
 こんな事ができるのも子供の間だけだったし、体は子供とはいえ、ルシアやアデラといった大人と一緒に寝るのは、なんとなく恥ずかしい。
 パトリックが一緒に寝る相手にはちょうど良かった。

 もっとも、この状態はパトリックがたまらない。
”眠りにくいからどいてくれないかなぁ”と、尻尾で軽く二、三度アイザックを叩く。
 だが、すぐにやめた。
 いつもの事で、どいてくれないとわかっているからだ。
 パトリックは諦めて寝る事に意識を向け始める。

 パトリックがなぜ寛容なのか。
 それはアイザックが子供だからだ。

 犬にも大型や小型の品種がいる。
 品種のサイズはそれぞれ違えども、子犬を見ればほとんどの人が”子犬だ”となんとなくわかる。
 それと同じ事を、パトリックはアイザックに感じていた。
 種族は違えど、アイザックは子供だとわかっていたのだ。
 子供のやる事くらい、大目に見てやる器量がパトリックにはあった。

 一度大きなあくびをすると、パトリックは目を閉じる。
 その時、自分の腹を枕にするアイザックを囲うように、自分の体を少し丸めていた。


 ----------


 王都の屋敷は広い。
 アイザックとルシアは、メリンダ達から離れた部屋に泊まる事ができる。
 だが、それでも日に三度は苦痛の時間が訪れる。
 食事時だ。

 領地に居た時は別館で食べていたが、王都では一緒に食べるように言われていた。
 第一夫人と第二夫人。
 仲良くする必要はないが、王都でまで露骨に避けていてはウィルメンテ侯爵家に介入の余地を与える事になる。

”夫人の序列が乱れていては、家中が乱れるのではないか”と。

 本来、子爵家のルシアが”侯爵家出身のメリンダを避ける”などいう事は、失礼極まりないと糾弾されかねない。
 例えそれがランドルフの配慮によるものだとしてもだ。

 ――メリンダが第一夫人となり、ネイサンがランドルフに次ぐ継承権第二位とする。
 ――ルシアとアイザックは、大人しくそれに従う。
 ――それが自然であり、不要な混乱を避ける事になる。

 そう主張してくるだろう。
 王都では共に食事をしているという事実を盾に、跳ね除ける予定だ。
 領地での事はメリンダが話すだろうが関係無い。
 過剰な追及をしてくれば、それは反撃の口実となる。

 こちらも同格の侯爵家。
 ただ一方的に言われるだけの立場ではない。

 とはいえ、それはウェルロッド侯爵家とウィルメンテ侯爵家の事。
 家中でのルシアとメリンダの関係は、当人達とランドルフに任されていた。



「ねぇ、あなた。明日は私の実家に来てくれるのよね?」

 メリンダがランドルフに言っているのは、ネイサンと一緒に実家へ着いて来いというものだ。
 自分だけで帰ってもいいのだが、夫を連れての帰宅という方が聞こえがいい。

「もちろんだとも」

 ランドルフは快諾した。
 ルシアとの関係は頭痛の種ではあるが、今ではメリンダも愛する妻である。
 無下にするつもりなどない。
 しかも、ルシアとは違い普段は家族から離れて遠くに住んでいる。
 王都に来た時くらいは、優先してやる予定だ。

「ルシアは予定はあるのかい?」

 ランドルフはルシアも誘うつもりだった。
 メリンダの実家に一緒に行く事で、少しでも関係改善してくれれば良いなと思っている。
 だが、これにはメリンダがルシアを睨み威嚇する。

 ――「お前は来るな」と。

「久し振りに友達と会ってみようかと思っています」

 ルシアも行きたいとは思わないし、来るなと睨まれている。
 友達と会ってみようと考えているのは事実。
 これを口実に、ウィルメンテ侯爵家行きを断った。

「あぁ、なるほど。それもそうだね。五年ぶりだからね」

 ランドルフは納得した。
 ウェルロッド傘下の貴族であれば会う機会もある。
 だが、王都で働く官僚の家庭や、他の領地に住む者であれば会う機会など王都に集まった時くらいしかない。
 ルシアは妊娠し、今まで子育てのためにウェルロッドに住んでいた。
 久し振りに友人に会う機会。
 それを潰そうとは思わなかった。

 もっとも、ルシアの行動は貴族としては問題がある。
 大貴族へ挨拶をせず、友達を優先するというのは避けるべきだ。
 それでも許されるのは、彼女が地方貴族の子爵家の娘だったからだ。
 ランドルフと結婚しなければ、ウィルメンテ侯爵と会う機会などなかった。
 それならば、メリンダと一緒に会いに行く事を強制しなくてもいいだろうと考えた。

 しかし、ランドルフの考えを”甘すぎる”とモーガンは辛い採点をした。
 これはルシアだけではない。
 メリンダに対してもだ。

 メリンダは結婚する時に、ルシアの存在を認めた。
 ならば、今回のようにルシアをのけ者にしようとした時は、ランドルフがハッキリと注意せねばならない。
 ウィルメンテ侯爵家はメリンダの実家である前に、リード王国を共に支える名家だ。
 王都に着いて、最初に挨拶する時くらいは一緒に行っても良かった。

 ルシアもルシアだ。
 彼女もランドルフの妻になった。
 つまり、彼女はウェルロッド侯爵家の女。
 いつまでも子爵家気分で居られては困る。
 メリンダに拒まれようとも、礼儀として”付いていく”と言える気概が欲しいところだ。

(あとで言っておかねばならぬな)

 メリンダやルシアにではない。
 ランドルフにだ。
 モーガンが直接注意しても良いのだが、ランドルフは二人の妻と子供を持つ立派な親だ。
 モーガンやマーガレットに頼るばかりでは困る。
 将来の事を考えると、自分で注意できるようになってもらわねばならない。

 だが、今この場でランドルフを「しっかり、妻の手綱を握っておけ」と叱る事はできない。
 子供もいる場でそんな事をすれば、ランドルフの面子は丸潰れだ。
 あとで呼び出して注意するつもりだった。

「アイザックはどうしたい?」

 ランドルフはあとでモーガンに叱られるとは知らず、アイザックに話を振る。

「お父様とお母様が出掛けるのでしたら、僕も出掛けたいです。お爺様やお婆様は予定があるのですか?」
「ふむ……」

 モーガンはマーガレットと視線を交わす。
 明日は予定がある。
 だが、最初の訪問先にならアイザックを連れて行っても良いのではないかと思われる。
 マーガレットも同じ意見なのか、モーガンにうなずいて答える。

「明日はウィンザー候と会う予定だ。お前なら会わせても大丈夫だろう。それに、あちらにはお前と同じ年の女の子もいる。一緒に行くか?」
「はい、行きます」

 アイザックはモーガンの申し出に即答した。
 ちょうどドリルヘアーについて考えていたところだ。
 大人になってから髪型を笑うのと、子供が笑うのとでは意味合いも違ってくる。
 今の内に見慣れておきたかった。

 もちろん、それだけではない。
 ウィンザー侯爵と渡りをつけておくのは、将来に備えて必要な事だった。
 その機会があるのなら逃す手はない。

 絶好の機会が訪れた事を喜ぶアイザックに、からかいの声が飛んでくる。

「お前の友達は女ばっかりだな」

 ネイサンだ。
 アイザックが”同じ年の女の子”に反応したと思って冷やかしている。
 ただのからかいであったが、今回は見事にアイザックの図星を指していた。
 パメラに会いたいと思っていたのは事実だったからだ。
 だが、アイザックは精神年齢ではネイサンよりもずっと上。
 これくらいは軽く受け流せる。

「そうですね。ですが、相手が誰であろうと新しい出会いは素晴らしい物。一期一会の思いで大切したいと思います」

 ネイサンは「男の子の友達が欲しい」と言えば、嫌味を言ってやるつもりだった。
 アイザックはネイサンの思惑がわかっているので、そんな機会を与えるつもりはない。
 堂々と言い返した。
 嫌味に反応するから効果がある。
 嫌味に対する反応が無ければ、さらなる嫌味を言い辛い。
 そのお陰で”なんとなくウザイ奴だ”と思いつつも、ネイサンは何も言えなくなる。

「では、寝坊したりせぬようにな」

 モーガンは二人の言い合いにならぬよう、早めに口を挟んだ。
 ルシアとメリンダの問題と同様にランドルフがやるべきだと思ってはいるが、可愛い孫が言い合う姿は見るに耐えない。
 ランドルフに任せるべきだと思いつつも、ついつい口出ししてしまった。

「はい、お爺様」

 アイザックはモーガンに返事をする。
 この”ネイサンに嫌味を言われても気にしていない”という態度が、ネイサンを苛立たせる。
 アイザックからすれば、子供に嫌味を言われても受け流せるだけの年齢差がある。
 だが、それを知らないネイサンからすれば”頭が良いから”と、お高くとまった嫌な奴でしかない。
 喧嘩をせぬように取っている態度がネイサンに嫌われる原因だとは、アイザックは思いもしなかった。
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