表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

結末は

<全てが夢の中にでもあったのだろうか>

その日の日記の最後の一行だけがきれいに書かれていた。

まるで別人が書いたかのような具合だった。

この部長には一体何があったのか。

日記の断片からでは大きく変わった心情の変化しか読み取れず、結局のところ廃部になった原因はわからなかった。

廃部の原因と、この怪奇現象とも呼べる事件とは無関係なのだろうか。

次のページを捲ってみた。

<4月21日 昨日の和也の言葉が真実となったようだ。今日は誰も部室に来なかった。

和也すらも来なかった。リレー小説なんて始めなければよかった。あたしのせいなんだ。

誰がやったの?どうしてこんなことするの?もしかしたら>

『えっ、あれ?』

日記はそこでとまっていた。

途中で書くのを忘れたのかと思い、次のページを開くが真っ白だった。

どれだけ捲ってもそれから先は真っ白だった。

この日記を書いている時に、部長に何かがあったのだろうか。

もしかして本当に百物語のように・・・

ガタン!!

『ひゃっ』

突然扉の開く音がした。

廃部になった部室に、誰が来るのだろうか。

部室の奥の棚の隅に身を潜めながら、目を凝らしてみてみると、ここの制服を着た男の子がいた。

もしかして自分と同じように文芸部に入りたい子がきたのだろうか?

少しだけ警戒を解いて見てみると、男の子は窓の外の空を見上げていた。

良く見ると制服は一年生のものではなかった。

この学校はブレザーの校章の周りの色で学年が統一されている。

あれは三年生かな。

空を見ながら窓に近づいていく男の子は、何かを呟いているようだ。

遠すぎて何を言っているのかはわからなかったが、何処か思い入れでもあるかのような表情だった。

和也って人か、裕也って人だろうか?

これがいつの日誌なのかわからないので、どちらかは検討がつかなかった。

それに、二人のどちらかという確信もなかった。

さっきまで日誌を読んでいたからか。一体どんな顔をしているのか気になった。

少し身を乗り出して見てみると、もう少しで顔が見えそうになった。

もう少しで・・・

ガシャン

『あっ』

動いた反動で、棚の上にあるものが落ちてしまった。

まずい。

『誰かいるんですか?』

可愛らしい声の男の子が、段々とこちらに近づいてくる。

何だかわからないけど、気づかれてはいけないような気がした。

体に悪寒が走った。

どうにも出来ず、あたしはそこに立ち止まっていた。

『あれ?一年生ですか?』

『は、はい』

目を合わせることが出来なかった。

視線を下に降ろしながら、恐る恐る返事をした。

『もしかして入部希望者ですか?でももうこの部活はないですよ。あっ・・・』

突然声の調子が変わったので、不思議に思い顔を上げると、視線はあたしの手元にあった。

あっ、そっか。やっぱり。

『ダメですよ。勝手に部長のプライバシー読んじゃ』

『ごめんなさ・・・』

その時初めて目があった。

その目を知らないはずなのに、あたしはその時に確信した。

『あの、あなた・・・』

『部長』

あたしの言葉など聞こえないかのように、男の子は愛おしげに言った。

『なんて、あるわけないことはわかってますよ』

さっきまでの瞳は嘘だったかのように、男の子は微笑んで目を逸らした。

この仕草も言葉も、部長の日誌から読み取れるキャラと合致していた。

『裕也さん。ですよね・・・』

『えっ。ああ、そうか・・・』

驚いた顔が、また一つの場所に視点を合わせて頷いた。

何だか不思議な感じがした。

この世の人じゃないような、何処か浮いたような感じがした。

裕也とは、そういう人なのだろうか?

先輩達のことを慕い、小説家になることを真剣に考えている真面目な青年。

『それ、どこまで読みましたか?』

『えっ、あっ・・・それが全部読んだんですけど・・・何だか、途中で終わっているみたいで・・・本当にすみません』

感情を含んでいない冷たい言葉が、さっきまでの自分の行為への罪悪感を感じさせられる。

視線を今度は窓の外に向けていると、ふいに冷たい風が吹き抜けた。

『そうですか』

裕也さんはそういいながら、綺麗に並べられている机を触りながら、真ん中のテーブルへ進むと、椅子に座った。

その行為を見終わった後で、裕也さんを見ると、こちらをじーっと見つめていた。

座らないんですか?そういわれているような気がして、重い足を引きずるようにして裕也さんの前の椅子に腰を下ろした。

日誌だけは大事に握り締めたままで・・・




          *



今日は珍しく遅刻をしてしまった。

朝はいつも通りに起きたはずなのに、準備に手間取ってしまったのか。

自分ではいつもと変わらないはずが、何故か時間だけが私を取り残していった。

学校に着くと、そこには大きく空いた空間があった。

この頃は全員出席が当たり前になっており、そんないつも埋め尽くされている教室に、ただ一つ空いた席があるだけで・・・。

普通の席ならば決して気になどならない。

とうとう学校にまで来なくなってしまった。

心から離れた和也は、私の傍からとうとういなくなってしまったようだ。


部室に向かう。

もうとっくに暖かいのに、今日はやけに風が吹いて寒い。

廊下を走って、今日も一番乗りに鍵を開ける。

部長が鍵を開ける責任を持っている以上。後輩を待たせるわけにはいかない。

一度だけ裕也君を待たせたことがあった。

今日は誰もいない。

鍵を開けると、昨日窓を閉め忘れていたのか。

風でカーテンが大きく膨らんでいた。

一瞬それが人の姿に見えて、誰かいるのかと焦ったが、理解すると安心した。

テーブルに荷物を置くと、一冊のノートが置かれているのが目に入った。

『リレー・・・しょう、せつ・・・』

嵐のように風が吹き、ノートのページが捲られていった。

風が収まり、開いたページを見てみると、それは丁度二週目の裕也君の番だった。

『あれ?』

前のページを捲ると私が書いた話だった。

何処をどうしたら、こんな内容になったのか。

ううん。そんなことより気になるのはこの点だ。

<少年が屋根の上に上がったボールを取ろうと、はしごに登った。すると突然はしごが揺れ、少年はバランスを崩してしまった。下には木や策がある。

病院へ行くと、左腕が策で大きく切れて、左目には木の枝などが刺さってしまっていた>

これを書いたのは筆跡から見て間違いなく裕也君だった。

誰かがこれを見て裕也君に同じことを?

でも、何の為に・・・?

疑問が増していくごとに、カーテンのように、恐怖も増していった。

部長の私はこのことに気づくことが出来なかった。

リレー小説が原因何て思いもしなかった。

だけど、じゃあ皆は?

玲菜ちゃんも、沙耶ちゃんもどうして何も言わなかったの?

『あっ・・・』

そっか。

私は全てを理解したかのように、煩い鼓動を鳴らせながら、黙って次のページを捲った。


<少女はとてもはしゃいでいた。好きな人に想いを伝えて浮かれていたのだ。

明日返事が来る予定だ。どんな答えが待っているのだろうか?今日の感じだと、いい返事がもらえるような気がした。

少女の周りには薔薇が飛んでいた。ピンクの薔薇が飛んでいた。そして、周りへの認識が無であった。

刹那、けたたましい車のブレーキ音が少女の耳を支配した。自分の体が自分のものじゃないような感覚に襲われた。

病院に運ばれて、命が無事なことは確認できた。少女は至って健康であった。ただ一つ左足に感覚がなかった>


事故ったら変っすか?という玲菜の言葉が蘇ってきた。

裕也君同様にリレー小説の内容と同じであった。

しかし、車を使ってこんなことが可能なのだろうか?

車を無免で運転することぐらいは出来るだろう。だが、計画的に事故を起こせるのだろうか。

刑事ドラマでもあるまいし、そんな計画的なことが誰に出来ようか。

さまざまなことを推察しながら、自然と指はノートを捲っていた。


<少女は一人暗い夜道を歩いていた。部活の後に図書館に寄ることが少女の習慣である。

今日もいつもの道を、いつもの時間に歩いていた。そう、何一ついつもとは変わらなかったのだが・・・。

遠くの方から時々眩しく光るものがあった。少女は今日読んだ小説に記憶を巡らしており、光には気づかない。

そうして、段々と光が近づいてきた時。少女の視界が揺れた。気づけば地面に顔をついており、少女は身動きできなかった。

踝に何とも言えない衝撃が走った。何をされたのか。すぐには理解できなかった。

痛む足を抑えながら、ようやく上を見上げることができた。帽子を深く被った者が怪しく笑っていた。

光はなく、帽子の為に顔は伺えない。が、口元だけはわかった。そう、笑みを消す瞬間も・・・。

それからのことはよくわからなかった。ただあらゆる所から温かいものが溢れ出てくる感覚だけはわかった。

恐怖と痛みだけに支配され、意識は闇の中へと葬られた。次に目覚めた時には光が溢れていた>


通り魔?

三人の書くものは、全て犯人が別のように感じさせられた。

リレー小説を元にした犯行ならば、各々が小説を見せた知り合いにやられたということなのか。

しかし胸の中にあるシコリは取れなかった。

違う。

誰かがそう言った気がした。

次のページを捲くろうとした時。ふいに頭が真っ白になった。

和也は今日は来ていない。

この小説は誰がここに置いたのか。

和也が置けるはずはない。

和也は・・・。

もう一度ページを捲くろうとした時。急に手が動かなくなってしまった。

それは脳内が出すレーダーによるものでも、比喩でもない。

現実に私の手は動けないようになっていたのだ。

誰かの手がそれを阻んでいた。

誰もいないと思っていた空間に現れた魔物。

顔を見上げるより前に、その魔物は声を発した。

『次のページは捲らなくても、僕が事細かく話しますよ』

魔物は天使であった。

声から裕也君であることを理解した時には、手の自由は利いていた。

『和也先輩のことなら僕がよく知っています』

裕也君は自然のことのように私の隣に座った。

私だってそれは自然だと思う。

平生ならばだが・・・。

裕也君の表情はいつもと同じだ。

少し微笑を浮かべているのも正常の範囲だ。

幼い顔立ちがより可愛く見えるだけだ。

それに、言葉遣いも同じである。

しかし・・・。

言葉で言い表せない違いは、別人と思えるほどのものだった。

『僕は和也先輩にずっと憧れていました。入部した時からです』

裕也君は唐突にそんな話をし始めた。

『先輩は小説も上手でした。それに何より友達が多かった。それに・・・』

言葉が止まったことを不思議に感じ、顔を見ると表情は変わっていなかった。

『傍にはいつも先輩がいました』

まっすぐ前を見ていた顔が、ふいに自分の方に向いた事実をいつも以上に驚いた。

私はどうしていいかわからず、どうにも出来ず、目を見開いたまま裕也君を見つめていた。

そんなことは気にしないとでも言うように、裕也君はまた口を開き始めた。

『僕がこの部活に入ることを決めたのは先輩がいたからです。先輩がいなかったら僕は今頃毎日を平凡に生きていたと思います』

裕也君の言う先輩とは、和也のことであろう。

私はそこでようやく目を逸らすことに成功した。

『僕が真剣に小説を書いて、プロを目指しているのも先輩の為です。先輩がいるから頑張れる。先輩の為に頑張れる。

毎日が希望で溢れて、溢れてやみません』

言葉からは向上しているように感じられるのだが、裕也君の声は高く大きくなるどころか、低くなっていた。

そんな疑問は私の頭を右から左へ通り過ぎていった。

『リレー小説。僕がそう提案したのも先輩の役に立ちたかったからなんです。実際僕はリレー小説なんて微塵もやる気はありませんでした。

他人と一つの物語を作るなんて考えられませんから。でも、先輩がいるから・・・』

先輩が・・・。と、何度も小さく呟く裕也君には、尊敬より信仰という言葉が似合った。

和也をそれほどまでに慕っていたのだろうか。

確かに二人が話しているところはよく見かけた。

昨日だって・・・。

『昨日』

ふいに私は言葉を思い出したかのように呟いた。

その瞬間裕也君から表情が消えた。

いつもの顔も、微笑も、何もかもが消えた。

『昨日和也と・・・』

もう一度呟くと、裕也君はまた笑みを浮かべた。

『和也先輩は本当にいい人なんです。でも、いい人だからこそ悪いんです。

いい人っていうことは、それだけ皆に好かれるということで、同時に嫌われるということなんです』

裕也君の説明はよくわからなかった。

だが、一つだけわかったことがある。それは、さっきまで私が思っていたことは間違いだということだ。

『和也先輩が一人の人を愛することで、愛された人は和也先輩を愛してしまうのです。

だからこそ和也先輩は憎まれてしまうのです』

淡々と述べられている言葉に、ふいに恐怖を感じた。

尊敬よりも信仰している相手は和也ではない。

その事実に気づかされた瞬間。私の中から力というもの全てが失われたような気がした。

『和也先輩は何も悪くはありません。唯一悪い点を上げるのであれば愛されてしまったことです。

ですが、和也先輩が死んでしまったのは誰のせいでもありません。彼自身のせいなのです』

和也が・・・死んだ。

気づいていた事実のはずなのに、その言葉は耳から胸にかけて突き抜けていった。

それと同時に、私の胸に衝撃が走った。

胸が段々と温かくなるのと同時に、私の体は冷たくなっていった。

ただ一つ悪魔の温もりが自分の全身を支配していたので、私には温もりがなくなる事実を認めることができなかった。

そうして、ただ意識だけが光の先へと向かっていったのだ。

闇から解き放たれた光は、どんなにか眩しかったことだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ