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犯人探し

休日があけ、今日からまた学校が始まる。

休み中は家にずっとこもっていた。

あんなことがあったんだ。

和也からも何の連絡もなかった。

きっと、皆思うことはあるのだろう。

心配したって、本人に聞かなくては原因なんてわかるわけはない。

裕也君が喧嘩をするなんて考えられないだけに心配だ。

それに、いじめられるような性格でもない。

どうしたんだろう。

頭の中では同じことばかりがリピートしていた。

『寒菜、おはよう。何浮かない顔してんだよ。昨日徹夜でもしたか?』

『そんなんじゃないわよ。ねえ、和也・・・』

『なんだ?』

『ううん。何でもないよ』

和也の反応に、もうこの話しはもう持ちかけてはいけないのだと悟った。



部活の時間になると、今日は珍しく和也が一緒に来てくれた。

いつもならクラスの男子と話してから来るのが当たり前だ。

あたしのことを心配してくれてるのだろうか?

部室に着くと、まだ誰も来ていなかった。

裕也君はしばらく部活には来れないだろう。

一番に来たことに、昨日よりも寂しさを感じる。

今日は隣に和也がいるはずなのに・・・

そんなことを思いながらも、黙って空気の入れ替えをする。

いつもの習慣だ。

昨日までは何も思わなかったことが、今日はやけに虚しく感じる。

いつまであたしはこれが出来るのだろうか。

『おい』

突然背中から声が聞こえ、飛び上がりそうになりながらも振り返る。

『お前気にするなって言っただろ。後、原稿用紙きれたんだけど』

『えっ、あっ、うん。ちょっと待ってて』

隠し切れない負のオーラを感じていたらしい。

でも、誰に何を言われたって事実を確かめるまでは安心できない。

原稿用紙を取りに奥に向かうと、廊下側の窓に誰かがいる気配を感じた。

慌てて廊下に飛び出すが、誰の姿もなく、静まり返った廊下だけがあった。

『おい、寒菜どうしたんだ?』

驚いたように後ろから声をかける和也。

『誰かいた』

『は?』

『誰かいたんだって、さっきそこの窓から影が見えたの。誰かいたんだって、もしかしたら裕也君を痛めつけた子が来たのかもしれない』

興奮したように捲くし立てるあたしに、和也は呆れたように頭を掻いた。

『お前、ちょっと落ち着けよ。いつまでそんなこと言ってんだよ。裕也が誰かに何かされたって決め付けてるけど、お前聞いたわけじゃねえだろ?

それに、ここは学校なんだから廊下に誰かいたっておかしくねえよ。何そんなに興奮してんだよ』

心配してくれていると思った和也は、面倒くさい。とでも言わんばかりに、部室に戻って行った。

本当は皆裕也君のこと心配してないんだ。


部室に戻り、和也よりも離れた席に着く。

昨日やり残した小説は、今日もきっと結末を書けない。

少し早いが、日誌を取り出した。

<4月19日 昨日の出来事が気になって仕方がない。だけど、誰も取り合ってくれない。

でも、もっと冷静になれば真相がわかるかもしれない。犯人探ししよう。うん、そうしよう。

和也だってきっと真剣に頼めばしてくれるよ。今日の部室はとても寂しく感じた。

ううん。今はまだ始まったばかりで部員が和也しか来てないからだ。これから皆来るだろう>


そこまで書き終えると、『おはようございます』

と、とても消え入りそうな声が聞こえてきた。

『おはよう。沙耶ちゃん』

部員が来たことが嬉しくて、沙耶ちゃんの元まで駆け寄ると、沙耶ちゃんはおどおどした様子でいた。

『どうしたの?』

『いえ、部長こそどうしたんですか?』

『えっ、ううん。何でもない』

そこで初めて沙耶ちゃんの様子の意味がわかり、少し恥ずかしい思いで席についた。

頭冷やそう。

今の長編小説をおいて、気晴らしに短編小説を書こう。

そう言えば、原稿用紙を持って来るのを忘れた。と思ってみてみると、既に和也の机には新しいものがあった。


短編小説はあまり考えずに書けるから気が楽だ。

『あの・・・』

頭の中に数度声が響いてきた。

小説の台詞か?

いや、違う・・・

異変に気づいたあたしは顔を上げると、人影が見えた。

『・・・すみません』

『えっ』

申し訳なさそうな表情から、もしかしてと時計に目をやると、5時30分を指していた。

また終わる時間を忘れていた。

『ごめんね。じゃあ、終わろうか。和也、終わりだよ』

『おう』

いいペースで進んでいるようで、返事をしながらも、変わらず手を動かしている。

一段落着くまで置いといてあげようと自分の片付けをしていると、『どうもっす』と、扉の方から声が聞こえてきた。

この声は・・・と、思い扉に向かう。

いつもよりも声に張りがないように思えた。

『れ、玲菜ちゃん!』

驚いた声を上げると、『もう、部長ったら、そんなに驚かないで下さいって。事故ったんすよ』

と、笑いながら言っているが、何処か乾いたように思えた。

それもそのはず、左足にはギブスが巻かれていて、松葉杖が足になっていた。

『本当に?』

『えっ、どういうことっすか?』

『本当に事故なの?』

『なんっすかそれ。玲菜が事故したらビックリって感じっすか?』

相変わらず笑みを浮かべながら、事故と言い張る。

『もう部活終わりっすよね?これ』

『えっ』

『それじゃあ』

玲菜ちゃんはリレー小説をあたしに託して帰って行った。

リレー小説を渡すためにここに来た?

また。

後ろを振り返ると、事故だと信じきっている二人はただ終わりの言葉を待っている。

『それじゃあ、明日もまた元気に来てね。あっ、これ次沙耶ちゃんの番ね』

『はい。それでは、失礼します』

消え入りそうな声を残して静かに帰って行った。

『和也』

『ん?』

『あたしね。犯人探したいんだけど』

『は?まだそんなこと言ってんのか。だいたいどうやって探すんだよ』

『わかんないけど』

テレビで見る刑事のようには出来ない。

何も心当たりはないけれど、何かわかるかもしれない。

何もせずにはいられないんだ。

『わかったよ。気の済むようにしろ』

『ありがとう』


まず職員室に行って、裕也君の担任に話しを聞くことにした。

『裕也のこと?ああ、あの怪我か。残念ながら先生にも何も言ってくれないんだよ。

でも、事故じゃないかなあ?』

『事故であんな怪我しますか?』

『さあねえ。こればっかりは本人に聞くしかないけど、無理矢理聞けないからね』

裕也君の担任は若い男の先生で、初めて見る顔だったが、何だか話しやすくて安心した。

職員室には他にも数人の先生がいて、あたし達のことを不思議な目で見ている者も多かった。

『裕也君何かトラブルを抱えてる様子はなかったんですか?』

『君刑事みたいなこと聞くねえ。裕也は真面目で、クラスにも溶け込んでいて、何も問題はないと思うよ』

可笑しそうに笑いながら、首を傾げながら言う。

あまり真面目に聞いてくれているとは思えなかった。

先生とはこういうものなのだろうか。と、少しだけ軽蔑の眼差しを向けた。

結局意味などなかった。

がっくりと項垂れながら、職員室の扉をダルそうに開閉する。


『何かわかったか?』

職員室が嫌いな和也は、廊下で待っていてくれた。

たく、職員室が嫌いとは何処の悪ガキだ。

『何も・・・』

『もう気にすんなよ』

『そう。だね・・・』

まるで深入りするな。って言われているようで、心臓が縮むような思いになった。

どうして。

『お前今日は電車だろ。送ってってやるよ』

『別にいいよ』

門を出ると、片隅に見慣れた姿があった。

『あっ、先輩』

『裕也君!どうしたの?』

『ああ、いえ・・・』

裕也君の手にはいつものアイデア帳が握られていた。

『来てもいいんだよ』

『そうですね。すいません。でも・・・』

落ち着かない様子で泳がせた視線は、最後に一瞬だけだが和也を捉えた気がした。

『裕也君?』

『帰るぞ』

また。

『僕ももう帰ります。お疲れ様でした』

『うん・・・』

胸の内にもやもやしたものを潜ませながら、寂しい背中に背を向けた。

『乗れよ』

『うん』

何もかもがわからなくなった。

裕也君の怪我一つで、今までの世界が変わってしまったかのような錯覚に陥った。

あたしが今まで見ていたものは・・・

裕也君に続いての玲菜ちゃんの怪我は、あたしにとってはとてつもない衝撃だった。

どうして皆はこんなにも普通なの?明日もしまた誰かが怪我をしたら・・・

そう思うだけで眠れない。本当に誰なの・・・助けて。




           *


同じ日の記録にも関わらず、部室の時とは打って変わった文字の乱雑さに部長の感情が滲み出ていた。

一日の記録をこと細かく書いているのは、それほどに全てが衝撃だったからだろう。

この日誌を見ていけば、廃部になった理由も載っているのかもしれない。

もしかして、本当に百物語のようになっているのか。

部員が最後には全員消えてしまうのか。

少し日が暮れて、夕日が差している部室は、少し不気味だった。

悪寒が走ったので、そこで変な思考を停止した。

この部活・・・

一瞬もう読むのはよそうかと思ったが、人間とはどうしてこうも知りたがるのだろうか。

怖ければ読まなければいい。

知りたくないと少しでも思うのならば、開けなければいいのに・・・

気がつけば私は次のページを捲っていた。


<4月20日 もう嫌だ。どうして?こんなにも皆いい子なのに、何で文芸部員をこんな目にあわせるの?

何なの。あたしが悪いの?それならあたしにしてくれればいいじゃない!>


魂の叫び。

とでも言うべきか。

今まで一行の中に綺麗に収めていた文字は、一日の日記で一ページを埋め尽くしていた。

それだけの量を書いたわけではない。

一ページを使わなければ収まらない思いがあふれ出したんだ。



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