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悲劇の始まり

今日も部室に一番のりだ。

と言うも、部長だから鍵を開ける役目がある。

後輩を待たすわけにはいかないから、いつもHRが終わると、走って部室に向かう。

一度だけHRが遅くなり、裕也君を待たしてしまったことがあった。

裕也君は本当に小説家にでもなりたいのか。いつもアイデアノートを持っていて、部活も真剣に取り組んでいる。

その日も部室の扉を背にして、アイデアノートに何かを書き込んでいた。

その姿に感心して、鍵を開けるのも忘れて眺めていると、気配に気づいた裕也君に『あっ、部長おはようございます』と、

いつも通り爽やかに挨拶され、慌てて鍵を開けたのを覚えている。

それ以外でも、必ず裕也君は他のどの部員よりも一番に来ていた。

一年生だから終わるのが早いのか。それとも、あたしのように急いで来てくれていたのか。

そんなことを考えながら、窓を開けたり空気の入れ替えをする。

一人での時間は少しだけ寂しく感じた。

窓を開け終えると、作品に取り組む。

今手がけているものは、もうすぐ終末を迎えられそうだ。

原稿用紙とにらめっこしながら、少しづつペンを滑らせる。

結末を考えることほど難しいことはない。

だって、世の中では自分で結末なんて決められないんだから・・・なんてね。

『おはようございまっす』

入り口の方から元気の良い声が聞こえた。

顔を上げずとも誰かわかるのは、声を覚えているとか、そういうレベルではないと思った。

『あれ?今日は部長だけですか?珍しく玲菜が一番のりっすね』

何処の体育会系の男の子だ。とでも、言いたくなるような子は、決して男ではない。

後輩の玲菜ちゃんだ。いつでも元気の良い玲菜ちゃんは、気が強く、とても頼りになる。

『部長まだこの作品終わってなかったんですか?玲菜何てちょちょいのちょいっすよ。ってね。

あっ、そうそう。今日は下校時間早いらしいっすよ』

『えっ、そうなの?顧問からは何も聞かされてなかったんだけど・・・』

『無理ないっすよ。さっき玲菜が教室出る時に言われたんで・・・ていうか、顧問が担任って色々と面倒っすよね。

まあ、部活にはあまり顔出さないっすけどね。文化部ってこんなもんなんっすかね?』

『どうだろう。中学の時はあたし部活入ってなかったからね』

『そうなんっすか』

そこで会話が途切れると、玲菜ちゃんはいつもの自分の定位置である部室の一番奥にある席に着いた。

ここの部員は。というか、それが普通なのか。

どの部員も作業を始めだすと、用事や、作品に対しての相談以外は声を出さない。

執筆というのは、皆そのくらい神経を集中させなければいけない。

誰も半端な気持ちではやっていないのだと。態度で示されているようでとても嬉しい。


作品を進めていくうちに、他の部員もちらほらと部室にやって来た。

入室時の挨拶だけをして、皆いつものように作品にとりかかっている。

人が来る度に顔を確認しているが、どうやらいつも一番のりの裕也君はマダ姿を現さないようだ。

今日は学校を休んでいるのだろうか?

心の隅で妙な胸騒ぎを感じながら、勝手な想像をするのは止めようと考え、作品に集中し直したのだが・・・


結局それ以降作品が進むことも、心が晴れることもなかった。

『部長もうすぐ5時になるっす』

『えっ?あっ、そうだった。皆、今日は下校時間が早くなっているから、そろそろ切り上げて。今日は部室に残ることも禁止だからね』

てことは、自分も日誌は家で書かなくちゃいけないのか。

まだ自分の頭は冷静であることを確認出来て、少しだけ落ち着いた。

日誌を鞄に入れて、部室の片付けをしだすと、『すみません。遅れました』と、遠慮気味な小さな声が聞こえてきた。

部室の奥に居たにも関わらず、その声がやけに耳に張り付いた。

『裕也・・・くん?』

安心したように声の主の元へ向かうと、右目は痛々しい事実を隠すように覆われており、もう片方の手で押さえている左腕には袖から汚れた白が姿を現していた。

『どう、したの?』

突然魔物が襲ってきたかのように、あたしは声を出せず、とても弱弱しいものになってしまった。

『いえ・・・ちょっと』

裕也君は罰の悪そうに視線を逸らした。

その光景に、片付けを終えたであろう他の部員達も駆け寄ってきた。

『おい、裕也どうしたんだ。誰にやられたんだ?』

裕也君のことを弟のように思っている和也は、怒りを隠せずにいる。

『いえ・・・』

裕也君はただ曖昧に答えるだけで、誰も何も聞けずにいた。

ただ、さすが律儀というべきなのだろうか。

何故部活に来たのか。と、尋ねると、ああそうでした。と言って、リレー小説を渡して先に帰って行った。

リレー小説を渡しに来る為だけに来たのだろうか。

どうして何も言ってくれないんだろうか?


疑問ばかりが増え、心の中を不安の二文字がかき乱していたけれど、和也も誰も、裕也君についての話しはしなかった。

裕也君本当にどうしちゃったんだろう。事故にあったら骨折だし。誰かに傷つけられたようにしか思えない。

あたしが心配しても何にもならないのはわかっているけれど、自分のことのように気になってしまった。



              *



普通に考えれば裕也って人がただ怪我をしたって言う話しだけど、部長さんがこんなに心配した風に書いているからだろうか。

何だか凄く怖くなってしまった。

きっとこの部には何かあったんだ。

私には確信にも近いような物を感じた。

まだ数ページ読んだだけなのにね。

今度はどんなことが書かれているのか。

興味だけではなく、恐怖心にもかられながら、ページをめくった。



予想していた通りまただ。

まるで百物語みたいだ。

何て、笑えないことを思いながら文字列に目を凝らした。


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