M四一 暴走叶穂と気苦労叶夜【接触篇】
【初等部編】スタートです(・∀・)
最初は学園入学前のプロローグ的なエピソードが続くと思います~
今回は1エピソードですが少し長くなったので前後編に分けて2話更新です。
花見の小旅行から無事帰宅した、真渡園邸。
「……別荘の桜、綺麗だったわね────」
就寝時間となり、ベッドに横たわった真理亜が、叶穂に向かって、そう呟く。
「───はい。綺麗でしたね」
お嬢様のほうが、お綺麗でしたよ。
叶穂は、反射的に口にしそうになった言葉を呑みこみ、短く賛同の意を返した。
「ごめんなさいね、わたくしの世話ばかりさせてしまって、叶穂は、
桜を楽しめなかったのではなくて?」
「とんでもございません。お嬢様と一緒に、桜を眺めることができて、
充分、楽しゅうございましたよ」
「そう? それなら、よいのだけれど………」
またこの方は、自分より、私などを気遣って────。
なにげない会話にも、そうズキリと胸を痛める叶穂。
「今後は毎年、雛祭りの前に、別荘へのお花見旅行をすることに決めたと、
奥様がおっしゃっておられましたよ」
「本当? それじゃあ、これからは、お母様とみんなで、毎年、
桜を楽しめるのね!」
「ええ。春の楽しみが、ひとつ増えましたね」
「雛祭りのパーティも、楽しみだわ。お友だちになってくれる子たちは、
来てくれるかしら────」
「きっと、来てくださいますよ────さあ、今夜はもう、
おやすみになりませんと」
「……もう少しだけ、叶穂とおしゃべりしていたいわ」
「───私も、お嬢様とおしゃべりしていたいです。でも、奥様からお叱りを
受けてしまいますから」
「ほんのちょっとだけだから。ね? 叶穂……」
敬愛する美しい幼女から、そうおねだりするように見つめられれば、叶穂は、
断りきることができない。
「………仕方ありませんね。ちょっとだけですよ」
そう言いながらも、内心、嬉しくてたまらない叶穂である。
できることならば、夜通し、真理亜と話をしていたい、というのが、本音なのだ。
叶穂の了承に、真理亜が、嬉しそうに微笑う。
「ふふ。ありがとう、叶穂。───それでね、パーティに招待してもらう子の
お話なのだけれど……」
………屋敷の離れにある、訓練場にて、叶夜と叶穂は向かい合っていた。
ふたりとも、いつものメイド姿ではなく、黒いボディ・スーツで身を包んでいる。
「少し遅いわよ。叶穂」
「ごめんなさい、姉さん」
短く叶穂は謝るが、その顔は、まったく悪びれていない。
双子の姉である叶夜は、苦笑しそうになった。
遅くなった理由は、おおよそ見当はついている。
真理亜お嬢様と、少々長く話しこんでしまったのに、違いないのだ。
一年前、何にも期待せず、希望も持たず、ただ淡々と日々を生きていた、
双子の妹。
あの頃、妹には、自分と母、家族しか、大切に思えていなかったのではないか、
と、叶夜は思っている。
それが今や、過保護なまでに真理亜の世話を焼いて、時間と手間を惜しまない。
溺愛と言っていいほどの、献身ぶりを発揮しているのだった。
叶穂に、自分たち家族以外で、大切なものがある。
それが嬉しくもあり、少し寂しくもある、叶夜であった。
「───それじゃあ、行くわよ」
「いつでも」
ふたりは、互いに、鉄製の小型武具───苦無を手にして、身構える。
そして、同時に、床を蹴った。
ふたりは、宙で苦無をぶつけ合い、いくつもの火花を散らす。
どちらも押し切ることならず、互いに後ろへと、一旦、身を退けた。
着地と同時に、これまたふたり同時に、〈光弾〉の魔法を撃ち放つ。
互いの〈光弾〉が宙で激突し、相殺、霧散した。
叶穂は、魔力で加速し、〈光弾〉の霧散する、その真っ只中を突っ切る。
〈光弾〉の残り火で負傷するのも厭わず、叶夜に斬りかかった。
叶夜も魔力で加速し、それをすんでのところで躱し、横へ跳ぶ。
その躱しざまに、叶夜は、苦無を、叶穂めがけて投擲。
叶穂は、向かってくる苦無を斬り払い、着地と同時に、自身の苦無を叶夜へと
投げつけた。
叶夜はそれを、防護魔法で局所強化した左手で跳ね飛ばし、再び魔力で加速。
叶穂に右の貫き手を放ちながら、肉迫する。
貫き手の狙う先は、叶穂の喉。
魔力の籠った貫き手がそこを穿てば、即死は必至。
その必殺の一撃を、叶穂は、合掌受けで挟み止めた。
叶夜の右手を挟んだまま、ぎゅるり、と、体をひねり潜らせ、
一本背負いの形で叶夜の体を投げ飛ばす。
その瞬間に、魔力強化による剛力で、叶夜の右腕関節を砕くのも忘れない。
「っが…!」
苦鳴の声がもれた。
それをもらしたのは、叶穂である。
姉の腕を砕き、その体を投げた瞬間、背に、魔力の乗った左掌底を受けたのだ。
打撃と共に、魔力が叶穂の肉体を射抜き、その内側、心臓と肺腑を打つ。
一撃で呼吸器部に深刻な損傷を負い、数瞬、心臓も停止した。
その刹那、完全に、叶穂の動きが止まる。
そこへ、叶夜の右突き蹴りが、叶穂の腹部に突き刺さった。
「ごぁっ…!? がはっ…!」
叶穂は、後方に蹴り飛ばされることこそ耐えたが、たまらず膝から崩れ落ち、
両手を床につける。
「───一本ね」
叶穂が即座に身動きできないのを見て、自分の勝利を宣告する叶夜。
叶穂は、自分に治癒魔法を掛けながら、何も言わずにうなずいてみせた。
叶夜も、治癒魔法を使い、砕かれた右腕を治す。
ふう、と、息を着いたあと、気を引き締め直した。
それからふたりは、互いに苦無を拾い上げ、間合いを取り、ひと呼吸置いたあと、
激突を再開する。
────ふたりとも治癒魔法を行使可能で、訓練場側に医療班が常駐している
とはいえ、あまりにも危険な、実戦同然の対戦訓練。
一日の終わりに、これを十本取りで行うのが、囲碁留姉妹の日課であった。
一年前までは、叶夜が、ほとんど八本の勝利数を取って、終わっていた訓練。
それが、最近は、六対四の接戦になっている。
叶夜は、今のところ、叶穂よりも長けている戦闘センスで、僅差ながら、
勝利数を多く上げていた。
姉の威厳をなんとか保っているものの、この先は、それも危ういと思っている。
真理亜の側付きになってから、叶穂が、急速に戦闘力を向上させているからだ。
叶穂も、訓練には元より真剣に臨んでいたであろうが、側付き以前とでは、
気迫が違う。
特に、先の玄紺襲撃事件のあとでは、訓練に籠める熱の量が、増しているように
感じられた。
あの襲撃時、玄紺に、一太刀も入れることかなわず、兎萌お嬢様を連れて
逃げるしかなかったことが、響いているのだろう。
初手でおのれも戦闘不能にされたため、忸怩たる思いでいるから、叶穂の胸中を
そう察する叶夜だ。
だが────────────────。
「今日は、ここまでにしましょう」
六戦目の途中、不意に、叶夜が、そう訓練の切り上げを口にする。
「……姉さん?」
「今日の動き、全然身が入っていないわ。それじゃ、訓練の意味がないでしょう」
叶夜に指摘され、叶穂は、黙って目線を下に落とした。
今夜の対戦訓練は、ここまで、叶夜が一方的に勝利している。
ほぼ毎日手合わせしているから、すぐに、叶穂の精神の乱れに気づいたのだった。
「なにか、悩み事でもあるの?」
「……ごめんなさい────悩み事というか……奥様に、どう提案すべきか、
ずっと考えていることがあるの」
「奥様に?……真理亜お嬢様のことで?」
「ええ」
奥様へ、真理亜お嬢様に関する提案で、訓練での集中を欠くほど、
言いあぐねることとは。
思慮深い妹が、そうまで悩むのならば、よほど繊細な問題なのだろう。
「それは、私にも話しにくいこと?」
「────ううん。姉さんには、最初に意見を聞こうと思ってたの」
「そう。じゃあ、話してみて」
妹が一番に相談しようとしていた相手が自分であったと知り、
叶夜は、若干心を弾ませながら、叶穂へ話を促す。
「……真理亜お嬢様は、菊地神学園に入学されるでしょう?」
「ええ。兎萌お嬢様も、一緒にね」
「だから───私も、真理亜お嬢様と一緒に、学園に入学すべきだと思うの」
「………………………………………………なんですって?」
「私も、真理亜お嬢様と一緒に、学園に入学すべきだと思うの」
おまえはなにを言っているんだ。
真顔で同じ言葉を繰り返す妹に、叶夜は、ミ●コ・ク●コップ画像ばりの、
端的で辛辣な返しを投げかけそうになる。
「ちょっと待って叶穂。姉さん、あなたの言ってることの意味を整理するから」
「整理もなにも。言葉通りの意味よ?」
きょとんとした表情になって、叶夜を不思議そうに見つめてくる叶穂。
その表情に、あれ、私のほうがなにか間違ってる?、と、叶夜は思わず
錯覚しそうになった。
「────一応、ひとつひとつ、確認していくわね。真理亜お嬢様たちは、
学園の初等部、つまり、小学生として入学なさるの」
「ええ」
「叶穂は、学園の中等部、中学生として、お嬢様と一緒に入学したい、
ということかしら?」
叶夜と叶穂の年齢は、現在、十五歳。
一般年齢的には、女子中学生に相当するふたりである。
妹は、普通の学園生活に憧れでもあるのだろうか。
そう思っての、叶夜の問いであった。
囲碁留家は代々、真渡園家に仕える一族。
その特殊な家柄のため、叶夜と叶穂は、通常の義務教育機関に入学せず、
真渡園家直轄の機関で、基礎学力と一般教養の修養を
終えている。
ふたりとも、幼少期から、世間とは隔絶されての、
教育と訓練の日々を送ったから、一般的な青春とは、無縁の人生だ。
だから、妹は、普通の女子の生き方に憧れて、菊地神学園に
『真理亜お嬢様と一緒に、学園に入学すべき』という考えに
至ったのではないか────────。
問われた叶穂は、そのように推察する叶夜に、呆れたような目を向けてくる。
「いいえ、姉さん。真理亜お嬢様と一緒に、初等部に入学するに
決まってるでしょう」
おまえはなにを言っているんだ。
叶夜は、再びそう返しそうになったが、ぐっ、とこらえる。
大丈夫、私はお姉ちゃん。
妹の世迷言だって、綺麗に捌いてみせるわ。
そのような姉の矜持で、根気強く対話を続けようとする叶夜。
妹はどうやら、斜め上の考えに行き着いているっぽい。
姉である叶夜は、双子の妹の発言に頭痛を覚えるという、
人生で初めての経験をするのであった───────────────────。
クールで理知的なヒロインを真面目にボケさせたり、はっちゃけさせるの、
好きなんだ・・・///
どうする、叶夜お姉ちゃん!後編に続く!




