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M二二 真渡園兎萌 ~おねえさまのひみつ~

兎萌ちゃん視点続き~

ようやくシーンがちょっとだけ先に進むのですよ~(^∀^;)

“─────わたくしが破滅しても…………”


眠りに落ちて、朝、目が覚めても、従姉あねがもらした言葉は、

兎萌ともいの心にとげのように突き刺さり、忘れられようもなかった。


“はめつ”


それは、たしか、よくないことば───────────────


そう思った兎萌は、自分が従姉あねの口から聞いてしまったことを

悟られぬようにと、つとめて普段どおりに振る舞ってみせる。

そして、ひとりになった時間に、辞典でその言葉の意味を確認することにした。






【破滅】読み:ハメツ・(は-めつ)


①ほろびること。また、物事のすべてがだめになること。

②人間の生命または人格・家・国家などが成り立たなくなること。

③社会的地位や財産のすべてを失い、落ちぶれること。






言葉の確かな意味を知り、兎萌の心臓が、ドクン、と、大きく音を立てる。

従姉あねは、なにか、命に関わることを隠しているに違いない………!


直接、従姉あねに、そのことを問いただしたほうがよいだろうか?

……………けるはずがない。


もし、いたとしても、心優しい従姉あねのことだ。

きっと、自分が心配せぬよう、微笑ほほえんで、はぐらかしてしまうことだろう。


幼い兎萌は、従姉あねを失ってしまうかもしれぬ不安と恐怖に、

さいなまれはじめた。

それをいち早く察したのは、専属メイドの叶夜かなやである。


「兎萌お嬢様、なにか、お悩みのことがあるのではないですか?」


叶夜から直截ちょくさいに問われ、兎萌は、泣きながらに心中の不安を吐露とろした。

従姉あねは、その命が危うくなるような秘密を抱えているのではないか、と。


兎萌の悩みを聞き、叶夜は、返答に迷う。

真理亜の秘密とは、未来において〈聖女〉として強大な〈魔〉と戦い、

その命を落とすかもしれぬ〈運命〉のことであろう、と、見当がついたからだ。


しかし、その〈運命〉の話は、側仕そばづかえごとき人間が、

軽々(けいけい)に口にするわけにはいかない。

心苦しく思いながらも、叶夜は、助言だけを与えることにする。


「真理亜お嬢様のことならば、奥様にたずねられてみてはどうでしょう」


「おかあさまに……?」


兎萌の表情が、曇った。

母の、自分への接し方が変わったとはいえ、ふたりきりで話す、

ということは、想像しただけでも、いまだ困難なことである。


「はい。今、兎萌お嬢様が知っていてもかまわない、と、奥様が思われたなら、

きっとお答えくださるでしょう。逆に、お答えくださらなかったら、

それはまだ、兎萌お嬢様が知るべきではないこと、ということです」


真理亜の〈運命〉について、兎萌に語るべき人間となれば、母親であり、

真渡園まどぞの()当主である美摩をおいて他にいない。

叶夜は、今の幼い兎萌に、その真実を告げるか否かの判断を、

美摩にゆだねることにしたのだった。


「よろしいですか。大切なのは、兎萌お嬢様のお気持ちです。

お嬢様が、どれくらい真理亜お嬢様のことを心配されているか。

それをしっかりとお伝えすれば、たとえお答えくださらなかったとしても、

奥様は、今、何故、兎萌お嬢様が知るべきではないかということを、ちゃんと

説明してくださるはずです」


「お、おかあさまに、つたえる……わ、わたしが───?」


「はい。真理亜お嬢様についてのお話となれば、それは、真渡園まどぞの()のご家族、

兎萌お嬢様と、奥様だけが口にできるお話です。私ども、側仕そばづかえが

口出しを願うわけには参りません………兎萌お嬢様。どうされますか?」


言葉の最後を、叶夜は、少し突き放したような問いにする。

叶夜は、この半年間における、兎萌の成長と変化を、信じていたからだ。


「わ、わたしは………」


兎萌は、逡巡しゅんじゅんする。

兎萌にとって、美摩は、優しさを取り戻した今でも、

恐れを感じてしまう存在なのだ。


だが───────────────────────────────────


“似合っているわ、兎萌ちゃん。本当に可愛いらしくてよ”


“そうね。一緒に大きくなりましょうね、兎萌ちゃん”


兎萌の心の中で、真理亜の微笑みが、何度も思い浮かぶ。

そして、母への恐れよりも、真理亜の身を案じる気持ちが、上回うわまわった。


「───わっ、わたしは、おかあさまと、おはなしする……!」


「承知いたしました」


叶夜は、兎萌の決意に、満面の笑みを浮かべて、うなずく。

それから美摩の一日のスケジュールを確認し、メイド長である母、

漱祗すすぎに連絡して、兎萌が会える時間を整えてみせた。


実の娘だからといって、日中、いつでも、真渡園まどぞの()当主である美摩と

会えるわけではない。

叶夜のうかがいによって、真理亜と兎萌の習い事の合間に、美摩の執務室で、

対面可能となる。


「兎萌。なにか、私に話したいことがあるのですって?」


当主の席にしたまま、美摩は、そのように切り出して、兎萌を見つめてきた。

兎萌には、そんな母が、いつにも増して、大きく、恐ろしい人間に見える。


その美摩の傍らには、メイド長の漱祗すすぎが控えており、こちらもまた、

兎萌の一挙一動を観察するような視線を送ってきていた。


ふたりを前にした兎萌の心臓は、ばくばくと鼓動を早く、大きくさせる。

ごくり、と、喉を鳴らしたあと、意を決して、兎萌は、声を絞り出した。


「───おかあさま。おっ、おねえさまは……ごびょうき、なのですか……?」


兎萌のその言葉に、美摩は、なにかを悟ったような表情をする。

そして、すぐさま、漱祗に告げた。


「漱祗。しばらく休憩するわ。あなたも、休んでいて頂戴ちょうだい


「承知いたしました」


母娘おやこで家族の話をするから、席をはずすように。

美摩からの暗なる言葉に従い、漱祗は、一礼して、執務室から退出していく。


「………兎萌。どうして、真理亜が病気に掛かっていると思ったの?」


漱祗が部屋から出て行ったあと、美摩は、重く口を開いてきた。


「こ、このまえ、おかあさまと、おねえさまといっしょにおやすみしたとき、

おねえさまが、うわごと?、を、いったのをきいたのです──────────

おねえさまが、“じぶんがはめつしても、おかあさまと、ともいちゃん、それと、

ほかのおんなのこを、まもらなくてはならない”、って……………」


「────────そう………………………………………」


兎萌の返答を受けて、美摩は、顔を伏せる。

しばし沈黙したあと、椅子から立ち上がり、兎萌の正面に来てしゃがむと、

まっすぐに目を合わせてきた。


「兎萌。一度しか言わないわ。よく聞きなさい」


「……はっ、はいっ」


「今の私は、あなたの母親として、あなたに、幸せに生きていってほしいと、

そう願っているわ」


「……………」


「けれど。この先、真理亜のそばで生きていくつもりなら、

幸せに生きるということは、諦めなさい」


「えっ────────」


どうして、と、兎萌は、き返しそうになる。

が、その言葉が、兎萌の口から、声になって出ることはなかった。


一度しか言わない、という母の言葉と、

自分の目をじっと見つめてくる真剣な眼差しが、それを許さなかったからである。


「でも、逆に言うなら、真理亜と共に生きることを諦めれば……

並の〈退魔法師たいまほうし〉として、この先ずっと、幸せに生きていくことができるわ」


母の声は、娘をさとす、優しいものだった。

半年前には、聞いたことのない、柔らかな声音。


兎萌の心の中のなにかが、“幸せ”という言葉に、揺らいでしまうほどの響き。


「─────────────だから、兎萌。あなたが選びなさい」


「えら、ぶ……?」


「そう。これは、あなたを試すとか、そういう話ではないの。どちらが

正しいとか、間違っているとか、そういうことじゃない………。本当よ。

大切なのは、あなたが、どう生きたいか。あなたの意志。あなたの心の問題なの」


美摩は、兎萌の両肩に、そっと手を置いてくる。


「幸せになることを諦めて、真理亜のそばで生きていくか。それとも、真理亜とは

別れて、幸せに生きていくか………あなたが、決めるのよ」


美摩の顔には、沈痛な表情が浮かんでいた。


幼い我が子に、突然、酷な選択をいている。

その自覚がある美摩だが、これは、いずれけては通れぬ問いであった。


「……わっ、わたしは───────」


母の真意はわからずとも、兎萌は、直感でそのことを悟り、必死に考え、

自分の想いを、口にする。


「わたしはっ、おねえさまのそばにいられるなら、それだけでしあわせです!」


兎萌の心からの返答を聞いて、美摩の口元が、わずかにほころんだ。

しかし、そんな兎萌を見る瞳には、哀しみの色が増している。


「─────兎萌。母親として、そう言えるあなたを、嬉しく思う。

………でも。それだけの想いでは、駄目なの」


美摩は、おのれの苦衷くちゅうに耐えながら、静かに、冷徹な言葉をつむぎ出した。


「ただ真理亜のそばで生きていく、という軽い気持ちでは、それだけで、

真理亜の負担……邪魔になるのよ。それではいずれ、真理亜を苦しませることに

なる─────」


「じゃま───わ、わたしが、おねえさまを、くるしめる……?」


「ええ……。兎萌、あなたは今のままでも、将来、優秀な〈退魔法師たいまほうし〉に

なれるでしょう。けれど、それでも、真理亜のそばにいるには、足りないわ。

あの子は、本当に、特別な子───あの子と共に歩むのなら、一流の〈力〉を、

何段階も超えた実力……強さを備えていなければならない。それでやっと、

あの子に付いていく資格があると言える」


ひとつ息を置いたあと、美摩は、力強く、兎萌の瞳の奥を、覗きこんでくる。


「はっきり言うわね。兎萌─────あなたがその資格を得るほどの強さを

持つのは、きびしい。精々(せいぜい)、一流の〈力〉を、少しだけ上回るくらいが

関の山かしら…………命に関わることだから、嘘はつけないわ」


淡々とした美摩の言葉が、兎萌の心を、強くえぐった。

兎萌の目から、とめどなく、涙があふれこぼれる………………………………。

厳しかれども母の愛……。

兎萌ちゃん、がんばって……!(;ω;)

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