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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第13章:安眠の霧、王都を包む

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第二話 第一王子への引導

王都全体が安眠の霧に包まれ、深遠な静寂へと沈みゆくバルコニー。 その隅で、一人だけ震えながら立っていたエドワード王子を、カイルが逃げ場を塞ぐように影から音もなく引きずり出した。彼の顔は恐怖と憔悴で青白く、もはやかつての傲慢な面影はない。


「ひっ……、紬……! 頼む、私を、殺さないでくれ……! 辺境の野蛮人ごときに、王族の血を流すことなど許されんぞ……!」


命乞いにもならない虚勢を張るエドワードに、紬は冷たい視線を向けた。


「殺さないわよ。そんなの、寝不足で歪んだあんたの脳みそを、さらに汚すだけだもの。……でも、安心しなさい。あんたには、これまでの人生で経験したことのない、一番過酷な『刑罰』を受けてもらうわ」


カイルがエドワードを捕らえ、その体勢を固定する。 紬は、ゆっくりと、しかし容赦のない動きで、震えるエドワードの首筋に指を突き立てた。聖女の魔力が極限まで凝縮された、「超濃縮・安眠トリートメント」の一撃。前世で、執拗にサービス残業を強要した挙句に自滅した上司に「あなたはもう、戦力外です」と引導を渡したあの時のように、紬の指先には慈悲深い拒絶が宿っていた。


「……っ、あああぁぁぁああっ!!」


エドワードは絶叫した。それは痛みではない。彼が生涯をかけて否定し、唾棄してきた「眠り」という本能が、制御不能な津波となって彼の全身を洗い流す、あまりの「心地よさ」への魂の叫びだった。


映像が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。 王座の重圧、隣国への恐怖、国民への苛立ち。そして、それらすべてから逃れるために、眠りを否定し、自分自身を鞭打ってきた果てしない疲労。肩が、腰が、頭が、喉が、どれほど悲鳴を上げていたのか。 彼の体は、まるで数十年分の睡眠不足を一瞬で解消しようとするかのように、心地よい重力に引きずり込まれていく。抗えば抗うほど、脳が快楽の泥沼に沈み、プライドという名の薄っぺらな鎧が溶けて剥がれ落ちていく。


「……ま、待て、これは……何だ……。私は……王国の、ため……」


最後の抵抗も虚しく、彼の口から漏れるのは、もはや意味をなさない呻き声だけだった。


「……そうよ。あんたは、自分の不安を国力で埋めようとしただけ。そのために、一番大切なものを捨てて、みんなの心を踏みにじったのよ。……さあ、全部忘れて、深い深い海の底へ沈むように、眠りなさい」


紬の言葉と共に、エドワードの瞳から最後の一筋の光が消え、彼は泥のように、文字通り糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。彼の顔には、狂気ではなく、安堵にも似た、しかし自らを解放することへの深い悲しみと後悔が刻まれていた。


そして、翌朝。 安眠の霧が晴れ、清々しい朝日が王都を照らす頃、目覚めたエドワードを待っていたのは、彼のすべてを奪う「現実」だった。


王位継承権の完全剥奪。彼が忌み嫌った「無能」の烙印。 そして、人里離れた静かな森の奥にある「再教育施設(修養所)」への強制移送。 彼はそこで、残りの人生をかけて、**消灯時間は19時、起床は7時。魔法の使用は一切禁止という、彼にとって退屈という名の地獄のようなルールのもとで、**規則正しい生活と、専門のセラピストによる「心身の休息の重要性」を徹底的に学ぶことを義務付けられた。二度と、不眠で誰かを傷つけることがないように。


彼は、自分がもっとも軽蔑していた「弱者」として、永遠に「寝かしつけられる」という、彼にとって最高の「ざまぁ」を受けることになったのだ。



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