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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第12章:王都潜入! 安眠大作戦

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第四話 ゼノスとの『処方箋』対決: 科学vs現代の癒やし

「……ひっ、来るな! 来るな、この役立たずの元聖女め!」


機能停止した『不夜の鐘』の前で、腰を抜かしたエドワード王子が情けなく後ずさる。しかし、紬は止まらない。その背後からは、いつの間にか巨大なトランクを背負ったゼノスが、這い寄るような不気味な足取りで現れた。


「……紬。準備は、全て整ったよ。君が提示した『快眠の三要素』――適切な湿度、完璧な暗転、そして精神を弛緩させる芳香。それらを魔導工学的に極限まで増幅した……僕の最高傑作だ」


ゼノスがトランクを開くと、中から現れたのは、無数の試験管と魔導クリスタルが複雑に絡み合った、まさに「不健康な天才」にしか作れない異形の装置だった。かつて前世で、過労死寸前のサーバーエンジニアが最後に組み上げた「全システム強制停止プログラム」のような、破壊的で救済的な威圧感をその機械は放っていた。


「ゼノス、いい仕事ね。……さあ、ここからは私の番よ」


紬は装置の中心にある魔力核へ、両手をそっと添えた。 彼女が心に描くのは、あの北の地で過ごした穏やかな夜。木の爆ぜる音、アルベルトたちの温もり、そして何も考えずに深く沈み込むような、あの至福の微睡み。


「……私の魔力を、あんたの回路で『霧』に変えて。……王都中の人たちの、張り詰めた神経を一本ずつ解いていくわ」


紬が聖女としての純粋な魔力を流し込んだ瞬間、ゼノスの装置が「シュゥゥゥ……」という、耳に心地よい柔らかな音を立て始めた。


「な、なんだ、この煙は……!? 毒か? 毒ガスか!」


エドワードが叫ぶが、装置から溢れ出したのは、毒などではない。 それは、月の光を溶かしたかのような、淡く発光する真珠色の霧。そして、かつて誰も嗅いだことのない、脳の奥深くまで優しく愛撫されるような、圧倒的な「安らぎの香り」だった。


「これは毒じゃないわ。……あんたたちが忘れてしまった『慈悲』よ」


霧は瞬く間にバルコニーを飲み込み、王宮を、そして広場を埋め尽くす群衆へと広がっていく。 ゼノスの科学が紬の魔力を粒子レベルまで細分化し、不眠で焼け付いた国民たちの鼻腔を、そして皮膚を優しく包み込んだ。それは、全社員が「有給休暇」という概念を思い出し、一斉にデスクの明かりを消した瞬間に似た、圧倒的な静寂の伝播であった。


「……あ、……ああ……」


広場で武器を手に叫んでいた兵士たちが、一人、また一人と膝をつく。 それは苦しみの崩落ではない。重い鎧を脱ぎ捨てたかのように、彼らの表情から「狂気」が消え、代わりに深い、深い安堵が広がっていく。


「科学的な強制睡眠なら、僕だけでもできた……。だが、これほどまでに『幸福な重力』を感じさせる眠りは……、紬、君にしか作れない。……計算式が、愛で塗り替えられていくよ……」


ゼノスは、自分の作った装置が引き起こす奇跡に、眼鏡を曇らせながら恍惚と呟いた。

エドワード王子は、霧に包まれながら必死に抵抗していた。


「眠って、たまるか……。私は、……王に、……世界を、……支配、……」


「エドワード。支配の前に、まずは自分を救いなさい」


紬はフラフラと倒れかかってきたエドワードの額に、そっと指先を当てた。 「安眠あんみん」のツボへの、慈悲なき、しかし最高に心地よい最後の一突き。


「……おやすみなさい、バカ王子。……明日の朝、あんたに居場所があるかは知らないけれど」


エドワードの瞳から最後の一筋の光が消え、彼は泥のように、文字通り糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。 王宮を包み込む真珠色の霧の中、不夜城と呼ばれた王都は、十数年ぶりに訪れた「完全なる静寂」へと沈んでいった。


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