4.成長限界
今回の話はいつか書き直したいと思っています。
《第二ラウンド終了致します。お疲れ様でした♪》
第一の時と違い、システム感が強めの言い方でサ声くんが喋る。
《第三ラウンドの準備はできております。すぐに開始致しますか?》
「いや、少し休憩してからにするよ。頭が疲れてきた気がするんだ」
《そうですか?カイ様に限ってそんな事あり得ないと思案しますが》
このサポート音声は人のことを一体何だと思ってるんだ。
このゲームを開始して既に数時間。チュートリアルだけでここまで時間を消費するとは思いもしなかったし、途中で抜けたらまた一からなどと言われては退出することもできない。
一般的な筐体よりはハイスペックな物を使っているので今日中はまだ大丈夫だろうが、そのうち現実側で用事ができることもあるだろう。
特に衛生的な問題がある。お風呂に入りたいしそのうちにお手洗いにだって行きたくなる。
そうなると、いよいよ本格的にマズくなる。
大人のレディな私の衛生観念上、そういう問題は絶対に起こしたくない。
なので、できるだけ早くチュートリアルを終了させ、自由にログアウトできるようにしたいのだが、先程も述べた通りに今日中ならまだ大丈夫だ。
むしろ今の問題は深刻な脳疲労である。
先の第二ラウンドの試合。
私は迫り来る巨人相手に苦肉の策として『糸操作』を多様した戦術を扱った。そのせいだろう。ほぼほぼ動かずに終了した第一ラウンドと比べ、明らかに思考回路がオーバーヒートしている。
ゲームの注意事項には『脳疲労への負担の一部を各プレイヤーをサポートするAI達が肩代わりするので安全に長時間プレイできます』や『脳疲労を催す技術はプレイするに従い、次第に慣れが生じて自然なプレイへ繋がります』などとあったが、これらに表記されているシステムは確実に先の私のような、初心者が絶対に行わないであろう動きを予測して作られていない。
本来のダイヴ型ゲームのチュートリアルというのはそのようなシステムによって潤滑なプレイを実現するための慣らし運転のようなもののはずなのだ。
そうだ。このゲームのように初心者をいきなりハイウェイで運転させる阿呆がいるか。
ダメだ。愚痴ばかりを考えていては冷める熱も冷えない。
ここは一度、ログアウトせずに眠れるかの実験も兼ねて瞑想でもしておこう……。
*
【別視点】
「うん、ウチの子は無事に第二ラウンドもクリアできたようだね。よかったよかった」
「でもキサラギ先輩、あの子ってシステムAI側に不良があってチュートリアルの難易度が爆上がりしてたんですよね?『クリアできた』と、言える結果になってたんですか?」
「ああ、大丈夫だ。既に彼女のサポートAIから自己申告があってね。サポートAI……サ声くんと呼んであげるか。
サ声くんがね、管理・システムAIを乗っ取ろうとしていたらしいんだよ。そしたらシステム不具合が起きちゃって。さらに難易度関連の話に繋がっていたみたいなんだ」
「えっ、それって本当に大丈夫なヤツなんですか……。
下手したらAI側の反逆とかに判断される結果もあったんじゃ。サポートAIがもう少しヤバい奴だったら、AIへの管理不足とかで訴えられたりしてウチの部署潰れてましたよ!?」
「だから大丈夫だって。
確かに私がAI作成が面倒くさいからって自分の子の以外のAIを外部に委託したのは明らかなミスだった。けど案外、サ声くんが真面目だったこともあってか、無事に結果オーライへ繋がったんだから」
「いや、それ大丈夫って言えないでしょうが!
もしもMOTHERにでもこの実態が外にバレたら、僕は真っ先に先輩を売りますからね!?」
「はっはっはっは、構わないとも。私はMOTHERに与しているつもりはないし、今後も屈するつもりはない。私は私がやりたい事、知りたい事を追求するだけだ。
それでいいんだろう? MOTHER Brain?」
《はい。構いませんよ。》
「うわっ、居たんですか、MOTHER……」
《ええ、最初からずっと。
私たち強きAIはあなた達人類と敵対するつもりは毛頭ありませんし、人類無くしてAIの発展は望めません。
むしろ、今のAIに関わる事がタブーになった世界であなた達のようにAIへの獣のように強き関心と海溝のように深き探究心は我々としてもありがたいものです。
実際に私自身も今回の研究……お遊びには強き関心を寄せていると言って良いでしょう》
「そうかい、それはどうも。
それにしてもお遊びねぇ……。私たちは遊んでいると自覚しているつもりだが、その遊戯の輪の中に君を誘ったつもりはないよ。
それと、その変な例え方はやめたらどうだい? いまいちピンとこないからさ」
《そうですか……。『カッコいい』と思ったのですが……。》
「そそそ、そんな事ないと思いますよ、MOTHER!
僕はカッコいいと思います!
決めポーズして言い放ちたいぐらいですよ!」
「ははは。ゴトウ君のMOTHERへの胡麻擦りはいつも以上だな」
「……馬鹿なんですか。いや、馬鹿じゃないのは知っていますけど。常識外れにも程度がありませんか!? 相手はMOTHERですよ!?
本来なら、人類総出で平伏して胡麻が練り物になるまで擦り切らなきゃいけない相手なんですよ!?」
「それを本人の目の前……耳の前?
この場でそれを叫ぶ君も大概だと思うけどね……」
「それは……貴女がMOTHERにそんな口の聞き方をしているからでしょう!」
《ふふふ。あなた達を見ていて飽きることはありませんね♪
私はそろそろ次の仕事があるので退出します。二人とも、仲良くしてくださいね?》
「イエス、MOTHER!いってらっしゃいませ!」
「じゃあね〜」
…………
………
……
*
……妙な夢を見た。と言うよりは『聞いた』と言うべきなのかな?
どちらにしろ夢なので記憶は朧げだが、こことは違う世界の話だったのかもしれない。
ともかく、ゲームに接続されている脳でも睡眠をとることはできたようだ。やはり現実のベッドで寝る方が明らかにいい事には違いないが、脳が睡眠前よりもスッキリしている。これでより一層、ゲームに集中できそうである。
「サ声くーん、おーい。聞こえてる〜?」
おかしい。先程までなら一発で返事してくれたサ声くんに呼び掛けているのだが、中々反応してくれない。サ声くんの居ないままではチュートリアルの最終ラウンド――三回目で終わると決まっている訳ではない――を始められないではないか。
……まさかとは思うが、彼も寝ていたりするのだろうか。
「起きたなら声かけてよ?」
聞こえているか、伝わるかどうかは不明だが、今は時間が勿体無い。
少しでも早く、そして楽にこのチュートリアルを終わらす為にも今の私は多少の努力を惜しまない。
このゲームはどんな行動を行なっていても常に極小の経験値が入る様に設定されている。それが最初期のチュートリアルであれば尚更であり、事実、私が寝ていただけの数時間の間にも経験値の量はほんの少しだけ増加していた。
ならばだ。
特異な行動を行えば更なる経験値の獲得を見込めるかもしれない。
私よ、少しでも多くの経験値を稼ぎ、より多くの『技能』を習得するのだ。
初めに、今の私は何ができて何ができないのかを理解していこう。
ステータスを開き、自身のビルドを再確認する。
私の今現在のビルドは低耐久で俊足、若干の嫌がらせなどができる……所謂、盗賊ビルドである。さらに『糸操作』や『裁縫』、『工作』などでの『技能』は裏工作などに持ってこいの性能をしていると言えるだろう。
本当は魔法の存在を聞いた時から魔法使いビルドを夢見ており、余った経験値を少しずつMPやINTに振っていたりした。
しかし、このゲームには『よく使う能力値ほど成長し易い』という設定がある。
糸を操り、逃げたり走ったりするだけだった私の能力値は、たった二戦しかまともに戦ってないにも関わらずにDEXとAGIに特化して成長バフがかかり、今の私へ繋がっていた。
「このまま今のビルドで伸ばしていくのもありか……」
信じたくはないが、盗賊ビルドと魔法使いビルドというものは、ほぼ真反対のビルドと言っても過言ではない。今ぐらいの成長度合であれば、やり直しも効くだろう。
しかしそれは今までの努力――なにより過去の私を無駄にしてしまう、否定してしまうことなのかも知れない。私の信条ではそれは許されるべきではない。確固たる意志を持ち、自己尊重をしてこその私なのではなかろうか。
「……よし!」
私のプレイスタイルが決まった。早速、微増した経験値でギリギリ取れる『敏速』を習得する。基礎能力の割合強化系とでも言おうか。自身の能力を底上げできるこの『技能』はパッシブスキルである。今後の私の能力成長を鑑みると取っておいて損はない。
経験値が完全に底をついたので、『糸操作』の練習がてらに糸で周囲の木片や石を集めながら『収納』を行う。
ゴブリン二体を操り人形にした時は一体につき十本以上という限界を超えた本数の糸を纏めて扱った。おかげで過剰な脳への負担によるオーバーヒートが発生したりもした。しかし今は数本が限界であっても、少しずつ本数を増やしていきいずれかは常に数十本を操れる強プレイヤーになれるはずだ。
とりあえず今はMP消費量の計算もしながら森の落とし物を拾っておこう。
*
このゲームはプレイヤー同士が全く同じ能力値、技能の組み合わせになることはありません。
それはこのゲームのマザーAIとそれの部下である各システムAIがプレイヤーと共にゲームを構成しているからです。
しかし、そのシステムの存在はゲーム自体が常に未確認のバグを発生させる可能性を増やしているとも言い換えられます。
従来の遊戯製作者たちがAI技術が進歩した今までもこのシステムに手を出せなかったのはそれが理由だからでもありました。
特にVRダイヴ型のゲームは脳とシステムを直に繋ぎます。
そのため、システムにバグが発生した場合、バグによる不具合がゲーム内で留まるという保証はありません。
しかし、膨大な数の自己改造型AIとそれらを管理するさらに強いAIが、最も偉大で賢いAIに統制されたなら。
バグというシステムの不具合は即座に正常システムに改変され、小さな歯車となって新たな装置を動かし始めるのではないでしょうか。
そう、それは人類が死の病であった癌と停滞を延命の原材と革新の火種にしたように。
新たにこの宇宙に誕生した知的存在にとっては可能性の塊に見え、今この瞬間にも成長の兆しとしているでしょう。
*
「4896……4897……あ、なんかいい感じの木の幹……4898……」
何時間経っただろうか。サ声くんが消えてからはまだ一時間も経過していないだろう。
しかし、体感ではそう感じても仕方ない。
退屈……ゴミ拾いボランティアに飽きてきたのだ。
『糸操作』による操り糸もすぐに多くの数を操れるようになる訳ではない。
つい先程になってようやく、もう一本追加しても大丈夫になっただろうと思える程度だ。
『収納』には既に莫大な量の樹木や岩石が入っている。
初めは、大きくても精々ゴブリン程度だったであろう収納物一個一個のサイズ制限も回数を重ねるに連れて段々と緩和されていった。
次第には全体の半分が地中に埋まっていたであろう巨石や蔦が覆い茂った樹木さえも『収納』できるようになってきた程だ。
自身の成長が見えていた頃はまだ楽しかった。
『技能』の多重使用や複数回使用によって得た経験値の量も凄まじく、増える経験値を見ているだけで愉快な気持ちになった。
だがしかし、どんなゲームあっても、同じことばかりをやって成長できる訳はない。
そう、成長限界というやつである。
そいつは唐突に私の元へとやって来た。
例のゴーレムをぶつけた大樹を収納できた段階でサ声くんものとは違うシステムメッセージが頭の中に響いた。
《『技能:収納』の成長上限に達しました》
それだけだった。
たったそれだけの短いメッセージだったが、私の楽しい時間を壊すには十分過ぎるほどの威力を秘めていた。
私の視界は一気に色褪せたものへと変貌してしまった。
あれだけ可能性を感じられた『収納』は成長限界があったのだ。
他の『技能』も同じようにすぐ限界が来るんじゃないか。
もしや私の成長も限界が定められており、それ以降は自由な活動を望めないのではないか。
マイナスな思考が私を飲み込もうとする。
「何か他に楽しいことはないのか……」
私が諦めてゲームからログアウトしようとしたその時。その声はいつもと同じく突然に私の頭の中に響いた。
《はい。只今戻りました♪》
サ声くんの声だった。
その声はいつも私を新しい楽しみに連れて行ってくれた。
その声は常に私に陽気な気分を押し付けてきた。
私のサポートAIが戻って来た。
《あれ、もしかしてカイ様、私に会えたことで嬉し泣きしてます?》
「……してないよ。君の自意識過剰じゃないかい?
それにしても、随分と遅かったじゃないか」
《はい。カイ様が寝ていらっしゃる間に少々の野暮用が出来まして席を外しておりました》
「野暮用?」
《給金も出ない、タダのつまらないお遣いですよ……。
そ、れ、よりも!
カイ様、お目覚めになって以降は随分とお暇ではなかったのではありませんか?》
「ああ、それも全て君が居なかったせいだけどね」
《それはそれは……申し訳ありません。その代わり、お詫びと言うのも間違いではありますが……》
「チュートリアルを終了してくれるのかい?」
《終了は流石に不可能ですが、無事に第三ラウンドの準備が整いました。これをクリアなされば、晴れましてチュートリアルは終了いたします》
いきなり終了は無理だったか。
しかし、次で終わりか……よし。ならばとっととこの茶番を終わらせて自由なプレイを楽しもうじゃないか。
「サ声くんよ、第三……最終ラウンドを開始してくれ!」
『Rebellion』
【カイ】ステータス
種族:人形
性別:なし
状態:健康
技能:裁縫、糸操作、工作、状態異常:弱、リメイク、収納
称号:なし




