姉妹
最終話。短めです。
恵お姉ちゃんと姉妹になってから、一ヶ月が経っていた。
最初は照れ臭かったお姉ちゃん呼びだけど、今は慣れたものだ。
今日は恵お姉ちゃんが新しい仕事を始めて、一ヶ月が経ったので、豪勢な夕飯を作ってお祝いしようと、密かに計画していた。
「恵お姉ちゃん、喜ぶかな」
思わず口から笑みが溢れる。
公園を通り掛かった時だった。
「あれ?」
デジャブを感じた。
公園のベンチで缶ビールを片手に飲んだくれている女性かがいた。
というか、恵お姉ちゃんだ。
今の時間は仕事をしてるはず……もしかして。
「恵お姉ちゃん」
「楓ちゃん」
目が合うと、恵お姉ちゃんの瞳から滝のように涙が流れた。
「し、仕事クビになっちゃったよぉー」
「な、泣かないで」
私は恵お姉ちゃんを優しく抱きしめる。
「よしよし」
私は恵お姉ちゃんが泣き止むまで頭を撫でた。
「クビて……何があったの?」
「……寝坊した」
「寝坊って……治ったんじゃ」
「一度は治ったけど……また、寝坊癖がついた」
「そっか。なら、私が毎朝、起こしに行くね」
「そ、そんなの楓ちゃんに迷惑かけちゃう」
「大丈夫。私がしたいことだから。それに、お姉ちゃんを起こすのは妹の特権だよ」
「変な特権」
恵お姉ちゃんは楽しげに笑った。その笑顔に釣られて、私も笑顔を浮かべる。
「たくさん泣いたからすっきりしたぁ。後、お腹空いたなぁ」
恵お姉ちゃんのお腹がぐぅーとなった。
「じゃあ、何か作るよ」
「やったぁ」
「何かリクエストある?」
「えーと、唐揚げとフライドポテトとイカリングと餃子と……」
カロリー高そうな物ばかり。
胃もたれしそうだ。
けど、恵お姉ちゃんの為に頑張って作ろう。
「うん、任せて。途中でスーパー寄って良い?」
「もちろん、あ、私もお金出すよー」
公園を出て一緒に歩く。
「おっ……」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
恵お姉ちゃんの足取りがおぼつかない。
私は恵お姉ちゃんに肩を貸した。
「楓ちゃん、良い匂いがするね」
「っ……恵お姉ちゃんは……お酒臭い」
「え? そうかな?」
「そ、そうだよ……」
恵お姉ちゃんは自分の匂いを嗅いで首を傾げていた。
お酒臭いのは本当だけど、恵お姉ちゃんの良い匂いもする。言葉にはしないけどね。
「楓ちゃん、お酒も買って良い?」
「……恵お姉ちゃん、今日は何本飲んだの?」
私がそう訊くと、恵お姉ちゃんは目を逸らした。
「えーと……一本だけだよ。ほら、これだけ」
恵お姉ちゃんは手に持っていた缶ビールを横に振る。
「恵お姉ちゃんが缶ビール一本で、そこまで酔わないよね」
「さ、さすが楓ちゃん、お姉ちゃんのことをよくご存知で……でも、ほら今日の私は心に深い傷を負っていて、癒しが欲しいわけで……」
「……わかった。今日だけだよ」
「やったぁ。楓ちゃん大好き」
「っ……」
恵お姉ちゃんは私を抱きしめた。
大きな胸が当たり、思わず顔が熱くなった。
まったく人の気も知らないで。
私と恵お姉ちゃんは少し変わった姉妹という関係。
いつか恋人になりたいけど、まだ先のお話。
今は姉妹という関係を大切にしていきたい。