パートナー
どれだけ眠かろうが休日だろうが徹夜明けだろうが夜明けに寝落ちしようが、俺は必ず朝6時半ピッタリに起床するという体内時計をもっているお陰で、幸いにも新学期早々学校に遅刻するような無様は曝さずに済んだ。
問題はその後だ。俺は珍しく昨日の疲れを残しているようで、全く授業に身が入らず困っている。
高校1年の今頃は最も重要なことを学ぶ。そう先生に言われた以上嘘ではないのだろうから授業に集中したいところだが、如何せん昨晩あんなことがあったばかりだし、無理して平静を努めてきたが実は頭の中では恐ろしく混乱してるし、最も厄介なのが疲れを残している所為か眠いったらありゃしない。
科学の実験では危うく塩酸の入ったビーカーを落とすところだったし、数学では四則を間違えてカッコがあるにも関わらず一生懸命左から解いてたし、挙句に友人からは「今日どうした?」などと心配される始末。俺の集中力の無さが伺える。
「だらしない」
「勘弁してくれ」
放課後。何故か俺と神楽は先日の旧校舎にやってきた。人の目を憚ることなく超能力とかの会話が出来るものだから、この場所も便利と言えば便利だが。
「あのくらいでへこたれるなんて。どうしようもないね、その一般人振り」
「そりゃ最近まで一般人だと思ってたんだからしゃあねぇだろ。お前の見抜いた俺の過去もそう、全部偶然とか夢だって思うのが一般人からすれば普通なんだろうよ?」
「でも貴方、もう一般人じゃないでしょ」
「うぐ……」
反論できない。つまり神楽は俺に、一般人が持つ考えを棄てろというのだ。
教養などはともかく、一般人が持つ既存概念は全て葬り去らねばならないとか。しかも短期間で――神楽は鬼教官か。
駄目元でもいっそイマジネーションで何とかならないかとも思ったが、案の定俺の力が足りない所為か、それが現実になることはない。
「貴方は超能力者。ちゃんと理解してよ」
「だーかーら、そんないきなりは無理だっつーの!」
「現実を直視する癖がないからそうなる。現実逃避もいい加減に」
「俺は逆にお前がおかしいと思うんだがな」
「何それ、馬鹿みたい。私からしたら、貴方の方がよっぽど変だと思うけど」
「はいはいどうせ俺は二次オタですよ。ったく、折角特訓1ヶ月続いたってのにこれじゃ何も変わってないな……」
「パートナーがそんな弱音吐かない」
「いつから俺はお前のパートナーになった……」
――とはいえ。
ありのまま現実に順応して高みを目指す少女――その傍らには、現実の理解に時間と疑いをかけて尚も努力の仕方を間違う青年の姿がある。
パートナーというには、正反対すぎて不釣り合いだ。世の中正反対なペアが上手く行くと言うこともあるが、これじゃまんま下と上。世間の言う正反対とは、互いに上と下の中央に位置して互いに欠点を補い合うというものに違いない。
以上を踏まえて改めて俺らを見れば一目瞭然。欠点など殆ど存在しない完璧ともいえる人間と、逆に欠点しかないような何の取り柄も無い人間。これで補い合いなど出来るものか、俺なんぞフォローされてばかりになる。
こんなんでパートナーが務まるか。
「――上が下を引っ張り上げるのも大事な役割だよ」
どうでもいいようなところで心を読みやがるなコイツ。
「とにかく、貴方は私のパートナーなの。フォローするから、はやく一人前になってよ」
「だから何で俺なんだ。他にも適任いるんじゃねぇの?」
「いない」
「は?」
「――貴方が考えたとおり、パートナーっていうのは互いに補い合える関係が理想的。でも私の能力、知ってるでしょ? 精神操作――自分で言うのもなんだけど、これに及ぶ力って中々無いと思う」
「えーっと、じゃあ何か。極限まで鍛え上げてもお前と肩を並べられる奴がいないってか?」
「うん。その点、貴方は――イマジネーションって呼んでるんだっけ。それなら私と同等どころか上を行く可能性もある。やっぱり私は強くなりたいから、同等の存在が近くにいるっていうのは大きいし。お願い」
生徒の才能を見出した教師みたいな顔で話す神楽である。
「――仕方ねぇ、期待はするなよ?」
「期待なんてしない。貴方なら私と同等になれるって分かってるから」
「それを期待って言うんじゃねぇの……」
ともあれ俺は、こうして神楽と切磋琢磨し合う超能力者としてのパートナーになった。
やがてウィルスなども相手に特訓を重ねつつ、何回か神楽と模擬戦――と言っても殆ど精神的な戦い――を行う中、どうにか膝をつかせることに成功したのは更に2ヵ月後。学校の雰囲気が夏休みムードとなり始めた頃である。
この頃にはもう、俺は立派な超能力者となっていた。神楽が言うには、だが。




